出会い その後 quarrel



「あら、志野原さんじゃないの…」
「八杉さん…」

スーパーから出てきた所でばったりと、千津美は朝子に出会った


功の母に呼ばれて、お昼過ぎに涼と一緒に功の実家へ遊びにきた
功も仕事が終わったら来ることになっている

もうすぐ3ヶ月になる涼を義母はとても可愛がってくれる

「ごめんなさいね、千津美さん」
「いいんです、わたしも気晴らしになりますから」

義母に息子を預けて、千津美は夕飯の買い物に来たのだった



そうか、同じ中学だから家も近いんだ

「あなたの家、この辺りだったかしら…?」
「いえ、今日はこ…藤臣くんの家に遊びに来たんです」

なぜだか朝子の前で夫のことを功くんと呼ぶのが恥ずかしかった

ふーん、と言って朝子は千津美が両手に持っているスーパーの袋を見た
そういえばいつかもスーパーの袋をさげてたわね、この子…

「八杉さん、小説の方はどうですか?」
「なかなかね…思ったようには売れないわ…」
「そ…そうですか…でもすごいです」

ありがとうと、言ったが朝子の顔はあまり嬉しそうではなかった

「そんなことより…あなた、もう大学卒業したのよね」
「は…はい、この春に…」
「じゃあ、今…何をしているの?」

こんな平日の午後に買い物しているくらいだから
普通の企業に就職したわけではなさそう…

「専業主婦なんです、家事と子育てを…」
「えっ…子育て?」

朝子に驚いた顔をされて、千津美は彼女が何も知らないことに気づいた

「あの…藤臣くんと昨年の春に結婚したんです…」

え、と一瞬だったが朝子は動揺した


「そう…」
だったら、その買い物袋も納得する
お姑さんにいいように使われているのね…
この子だから、きっといやと言えずに…

「お子様は今いくつなの?」
「もう少しで三ヶ月になります…」

幸せそうに言う千津美になぜだか朝子はチクッと心が痛んだ

やだっ、わたしったら…
彼とのことはあの時にけりをつけた筈なのに…


朝子は功にそっくりだというその子を見てみたいと言った

「それなら一緒に藤臣くんの家へ行きますか」

彼女は全くこだわらずにそう言ってくれたけど
それはさすがに遠慮したい

「今日はこれから用があるの…」

「じゃあ、わたしいつでも家にいますから…」
住所と電話番号をもらって、彼女と別れた





「八杉と…?」
「うん、今日お買い物した時に偶然会ってね…」

涼をお風呂に入れた功が
カウチに広げられたバスタオルの上で涼に服を着せてやっていた

そんな功を、車で送って来たついでに上がり込んで
コーヒーをご馳走になっている章が面白そうに見ている

ちなみに今の章の趣味は、たびたびここに邪魔しにきては
なにかと二人をからかうことである

功は期待以上に子煩悩な父親で、からかう材料は一杯あった

だが…



「それでね…涼を見たいって言うから
 それなら功くんのおうちに来たらって誘ったんだけど…」

ぷっと章が吹き出した

「え…なに?」

千津美が不思議そうに見るのを、手で制して訊いた

「いや…それでどうしたんだい?」
「え…と、今日は用があったみたいで…
 だからここの住所と電話番号渡していつでも来てって…」

千津美は功を見た

「功くんだって、会いたいよね…」
にこりと笑って言われて、功は戸惑っている

こらえきれずに章が笑い出した

「章さん…?」


「八杉って功の元カノだって…ちぃちゃんも知ってるんだろ…」
「えっ、でももうそれは随分前のことだから…」

ほんとうに、ばかがつくくらいお人好しなのか…
それとも功のことを疑わずに信用しているのか…


両方だろうな…


「でもさ…久しぶりに会った同窓生がさ
 焼けぼっくいに火がつくって結構あるみたいだよ…」

「兄さん…」

功が睨んだが、気にせず章は続けた
「ちぃちゃんは、そうなっても構わないのかな…?」

千津美はかぁーっと赤くなった
そんなことは欠片も考えていなかったようだ


「よし…」
話を遮るように、涼の服を着せた功が言った

「おっ…涼、おにーさんのところへおいで」
甥にはメロメロの章が手を差し出す

「おじさんだろ…」


近頃の功はしっかりと仕返すんだよな





数日後、朝子がやって来た


「本当…藤臣くん、そっくり」
買って来たベビー服をお祝いに渡しながら、朝子がそう言った

千津美はお礼を言って、彼女を部屋へ通した
コーヒーとお菓子を出すと、朝子の向かい側に腰をおろした

いつかもこうして向かい合ってコーヒーを飲んだことがあったな…
あの時八杉さんにいろいろ訊かれて困ってしまったのだわ
そして彼女が功くんとつきあっていたって初めて知ったんだ

わたしとは違う、素敵な大人の女性…
わたしはただ自分とのギャップに当惑していた
今だってそれは変わらない
だってほんとうに素敵な人だもの…


朝子は千津美と功の住居を興味深く見まわす
リビングキッチンになっていて、向こう側には4人がけの食卓がある
そして更に奥には、 キッチンがあった
どこも清潔できれいに片付いている

入れてくれたコーヒーは美味しかったし、出て来たお菓子も手作りらしい

「家事が上手なのね」

ほめられて千津美は赤くなった
「ありがとうございます…でも相変わらずドジばっかりで…」

「美味しいわ、このお菓子…手作りなの?」
「はい、わたし働いていないので…時間はいっぱいあるんです」
「でも子育ては大変でしょう」
「いえ、とても楽しいです」

嬉しそうに千津美が言って、またちくりと胸が痛んだ

本当のところ千津美は意外としっかりしていて
ひとりで暮らしていた頃は、冷凍食品やインスタント製品も購入していたが
今は健康面や経済的なことを考えて、なるべく全てを手作りするようにしていた
そこにはわずかだけ暮らした異世界での生活が多少は影響を与えていた
食事だけではなく、涼の服や功が普段着るセーターなど
寝る間も惜しんで作っている…

一生懸命な千津美に無理をさせないように
功が気をつけてやらなければならないほどだった


「ちょっと興味があるんだけど…訊いてもいいかしら」
「はい…?」

「まだ学生のうちに結婚したのよね…」
「あ、はい」

「どうして…そんな時期に結婚しようと思ったのかな?」

普通だったら社会人になってしばらくしてから結婚する
出来ちゃった婚でもなさそうだし…
それに志野原さんをまだ学生にうちに妊娠させるなんて
藤臣くんにしては、なんだかしっくりしない

「それはですね…知り合いの結婚式に呼ばれまして…」
「?」
「その二人はすごく仲がよくって…その…」
「だから…?」
「影響を受けてしまって…」


「誰かの影響を受けて、あなた達結婚したというの…?」

少し呆れた感じで朝子は言った

「藤臣くんはそういう人ではないでしょう」
あなたはともかく…

「それが…その二人…羨ましいくらい愛し合っていて…」
上手く説明できずに、千津美は困ってもじもじとする

信じられなかった、でも平気でうそをつけるような彼女ではなかった


「会いたいわ…」
「え…?」

ぽかんと千津美は朝子を見た

「その話が本当なら、わたしその人たちにお会いしたいわ」
「それは、無理です」
「なぜ…?」
「そのっ、すごい僻地に住んでいて…」
「どこ…?」
「それが…とても遠いんです」

ああ、どうしよう…

「費用は心配しなくて大丈夫よ…
 取材旅行だと言えば経費で落ちるから」
「取材…ですか」

にっこりと朝子は笑った

「だって、あの藤臣くんに影響を与えた人だなんてすごく興味があるし
 小説の題材になりそうだもの…」

もうとっくに小説にはなっているのだけど…

これ以上朝子に訊かれたら何て言っていいかわからず
千津美は赤くなった顔でうつむいた


ピンポーン

ドアのチャイムが彼女を救った


「千津美、久しぶり!」

「…」

そこには当の本人達がいた

「あれ、どうしたの千津美…?」
青くなっている千津美にノリコが訊いた

今、知り合いがいて…と千津美が言うと

「あ…じゃあ、また後で来るね…」
帰りかけようとするノリコの腕を千津美がひしっとつかんだ

「?」
「助けてぇ…」

事情を小声で説明され、ノリコとイザークは顔を見合わせた

「でも、イザークはやっぱリいないほうがいいよ」

今やイザークは謎の外国人またはCGキャラ…
とにかく、もうこれ以上人と…とくに小説家なんかとは関わらない方がいい

「おまえ…大丈夫か?」
イザークは少し心配そうにノリコを見たが

「うん、きっと女の子同士のおしゃべりで終わるから」

じゃあおれは後でくる、と言ってイザークはシュンと消えていった


「あの…その知り合いの奥さんです」
千津美がノリコを紹介した

「たまたまご実家に来られているそうで…」

「はじめまして、典子です」
ノリコがニコッと笑って言った

「八杉朝子です、宜しく…」
名前だけ名乗るなんて…水商売じゃあるまいし、非常識なのかしら…

ノリコは気づいて言った
「あ…あの、夫は外国人なので、姓言うの少し照れちゃうんです」
「ふーん、外国の方なの…?」



「うわっ…功そっくり…」
「夕美ちゃんこそ、典子そっくり」

二人の赤ちゃんの初対面でもあった

お互いの赤ん坊を取り替えて腕に抱く母親達を
朝子は冷静に観察していた

「そう…子どもまで同じ時期に生まれたのね…」

それにしても…
志野原さんとはちょっと違うけどこの典子という娘も
無邪気そうでその年齢にしてはやけに子どもっぽい

そんな彼女があの藤臣くんに影響を与えるくらいの
大恋愛をしているとはとても想像できない

二人とも、子どもが子どもを抱いているみたい…

くすっと朝子は笑った



「それで、あなたがた藤臣くんにどういう形で影響を与えたのかしら」

朝子は帳面を手にノリコに訊いている

「彼が功に剣を教え始めたのがきっかけで…」
「剣道の有段者なの?」
「いえ、彼の国の剣…」
「彼の国ってどこ…?」
「それは言えません」

ノリコはきっぱりと言ったが
すっかり取材モードの朝子は追求の手を緩める気はなかった

「どうして言えないのかしら…?」
「…」

ここで再び不法滞在の反政府主義者の話をしても
朝子の好奇心をよけいに募らせるだけのような気がする

「どうして言わなければいけないのでしょうか?」
逆にノリコが訊いた

「隠さなければいけないことがあるのね」

女の子同士のおしゃべりとはほど遠い会話が繰り広げられた


「ただいま」
功が帰って来た

ほっとした千津美とノリコが功にすがりつくような視線で笑いかけた

「…」


「久しぶりね、藤臣くん…ご結婚とお子様のお誕生おめでとう」
「ああ…ありがとう…」

久しぶりにあった彼は相変わらず素敵だった


功は上着を脱ぐとネクタイをゆるめた

「見て…夕美ちゃんよ」

千津美は夕美を功に抱かせると、上着をどこかにしまいに行く
そんな千津美を見る功の表情に、 朝子の胸がまたちくりと痛んだ

「この子が…」
功は抱いている夕美の顔をのぞきこむ
そしてノリコをみると

「そっくりだな…」
微笑ってそう言った

ああ…この人はこんな表情が出来る人だったんだ
つきあってる時は一度も気づかなかった
それとも…
お疲れさま…と言いながら彼に飲み物を渡している千津美を見る
彼女が傍にいる所為…?


「涼くんもほんと功にそっくりだよね」

ノリコも笑いながら言う

仲がいいのね…功と呼び捨てに出来るくらいに
あなたは藤臣くんが恐くなかったの…?

いやだ…あの時きっぱりと思い切った筈なのに
わたしったら…


「それで藤臣くん、典子さんのご主人のどこがあなたに影響を与えたの?」
想いを振り切るかのように、朝子は功に訊ねた

「…」




『どうした』
イザークの声が聞こえた

『これこれしかじかでね…困った質問ばかりで
 答えるまでしつこく訊いてくるから、終わらないの…
 とても帰りそうにないよ』

ノリコがイザークに言う



ノリコも千津美もかなりのお人好しだ
そんな女を口先でうまくごまかして追い出すことなど無理だろうな

そして功も…
あいつが女に帰れと、例え遠回しでも言うところは想像できない

ったく…
イザークは厄介事に巻き込まれた時の癖でため息をついた




「ええっ…」
急にノリコが叫んで、みんなが彼女を見る

「どうしたの?」
千津美が訊いた

「イザ…彼が来るって」

「え…」
千津美も功も驚いた顔をした
あの潜入調査以来、イザークは極力人目に触れるのを避けているはずだったが…


「あら、あなたのご主人が来られるの…」

藤臣くんに影響を与えたというその人のことを訊いても
なぜだかここにいる誰からもはっきりと答えは得られなかった
本人が来るのならそれにこしたことはない

「でもあなた…携帯で話しているのは見えなかったけれど…」
「…」

ノリコが答えにつまった時、ドアのチャイムが鳴った


「イザーク…」
朝子はそこに現れた青年の姿に驚いて凍り付いた

「本物の人間だったのね…」

朝子の言葉に、イザークはむっとして彼女を見返した

取り敢えず簡単な紹介があって、居間のカウチにみんなが座った



「そう…あなただったら…」
重厚さも凄みも…藤臣くんといい勝負だわ…

「おれだったらなんだというんだ」
イザークが少し茶化した感じで朝子に言った

そんなイザークの態度に、今度は朝子がむっとした

「藤臣くんが、あなたのどこに影響を受けたのか気になっているだけよ」
つんとした調子で朝子が言う

「どうしてそんなこときにする…?」
「どうしてって…」

朝子は向かい側に座っているイザークを見た
長い足を無造作に組んで座っている姿はPVで見る以上にいい男だった

けれど…

「ただ興味があるだけよ、いけないの?」
「きょうみ…? あんたがきょうみがあるのは功にだろ」
「え…」
「功にまだきがあるのか?」
「なんですって!」

朝子が怒って立ち上がり、イザークを睨みつけた

「むきになったな」

はっ!…と笑って、イザークはカウチの背にもたれる
両腕を頭の後ろで組むと可笑しそうに朝子を見上げた


あ…
ノリコは気がついた

イザークは彼女を怒らせて出て行かせようとしているんだ
普段はとても優しい人だけど
相手によってはひどく辛らつにふるまえるんだもの…



「やめておけ…こいつは千津美にしかきょうみがない…」
「初対面の女性に対して随分失礼じゃないの、デリカシーのない人ね」
「でりかしぃ…」
くっ、とイザークがまた笑う

「あんたにそんなものがいるとはおもえんが…」



「イザーク…」
「ん…?」

功に呼ばれてイザークが彼を見る

「なんだ?」

「…いや、なんでもない…」
みんなからも見られて、功は視線をそらした

朝子は気位が高いし気も強い…常に人の優位に立たなければ気がすまない
功には、彼女が言い負かされてすごすごと帰って行くとは思えなかった

けれどそれをどうやってイザークに伝えていいかわからない



ふっと朝子が笑った

「わかったわ…」

「なんだ…」
「あなたがなぜ人里離れた僻地に住んでいるか…」
「ほう…なぜなのかな」
「社会性も協調性もまるでないのね…普通の人間社会では生きていけないのよ」
「だからどうだというんだ…」

イザークにはまるで応えないのが朝子には悔しかった


「奥さんにしてもそうよね…」

ぴくりとイザークの表情が動いた

「何でもあなたの言いなりなんじゃないの?」
「あんたとちがって、ノリコはすなおだからな」
「そうして全てを自分の思い通りにしないと気がすまないのね」
「あんたにはかんけいのないことだ」
「どうせ奥さんのこと束縛しているんでしょう…」

少し間があいてから、イザークが答えた
「ノリコはきになどせん」

「やっぱり…」
勝ち誇ったように朝子は言った

「図星だったのね…」
「…」

朝子をじっと見るイザークの表情から
先ほどまでのふざけた調子がなくなっていた


「や…八杉さん…」

イザークにノリコのことは…
慌てた千津美が朝子に注意しようとするが

「志野原さんは黙っていて!」


「ふじおみさんだ」
イザークがにやりとして言った

「それとも、みとめるのがくやしいのか…」

「うっかりしただけよ!」
朝子は怒りのせいでかーっと赤くなって叫んだ


二人の間に火花が散ったような気がしたが
他の三人はどうしようもなく、そんな二人を見ていた



「わたし…前の作品を書いた時、夫婦間の問題を結構リサーチしたの」
朝子は何気なさを装って、髪に手櫛を入れる

「あなたみたいな…独占欲の強い夫を持ってると
 ほとんどの奥さんは息抜きしたくなって不倫に走るのよ…」
「ばかばかしい…」
「大抵の夫はそんなことは絶対にないと思い込んでるのよね、そして…」


奥さんの話題になった途端、彼の反応が変わった…
手応えを感じた朝子が続けようとするが

「あ…あの、イザークはそんな…」
ノリコが思わず口を出そうとした


「うるさいわね!」
遮られて頭に来た朝子に言われて、びくっとしたノリコは青くなった


「うるさいだと…」
そう静かに言ってイザークが立ち上がった

「ノリコにむかって…」

朝子はイザークに睨まれ少したじろいだが、それでも話し続けた

「そういう人ほど、実際に奥さんに去られたら
 どうしたらいいかわからなくなって途方にくれてしまうのよ…みじめにね」
「ノリコはおれから去らん」
「あなたがどんな理不尽なことをしても奥さんの気持ちは変わらないって
 たかをくくっているのかしら」
「あんたになにがわかる」
「あなたのその自信が崩れるところ…見てみたいわ」
くすっ…と朝子が笑った


「なるほど…」
感心したようにイザークは言った

「功はこんなおんなとつきあってたのか」
「こんなですって? 」
「うんがわるかったな…」
そう言ってイザークは功を見た

「そんなことはないわよね!」
朝子も功を見る

「…」

二人ともはなっから功の答えを期待してはいなかったので
すぐにまた続きがはじまった


「功があんたにあいそをつかしたのもしょうがないな…」
「誤解しないで!ふったのはわたしの方なんだから…」
「ふられてよかったな…功」
「あなたねっ…いい加減にしてちょうだい」
「いいかげんにするのは、どっちだ…?」


立ち上がったイザークは腕を組んで 朝子を見下ろしていた
朝子はひるむことなくイザークを見上げて睨みつける


「そういう顔して…こんないやな人だとは思わなかった…」
「かおはかんけいない」
「PVみたいに黙っていればめちゃくちゃいい男なのに」
「だまっているおとこがきらいじゃなかったかな」
「大体、典子さんに子どもが出来て経済的に困ってたんでしょう
 男として情けないとは思わないの」
「あんたこそ、なさけないとおもわないのか」
「なにがよ」
「むかしのおとこのいえにおしかけて…」
「なに言ってるのよ、志野原さんがよんでくれたんだから」
「ふ じ お み さんだ…」




「ねえ、千津美…」
「なに…?」

居間が騒々しかったので、寝室で二人はそれぞれの子どもに授乳していた

「出産する時さ…どんなだった」

「そりゃあ、痛かったよ…
 でも…それでも、全く構わなかった…嬉しかったもの」
思い出したのか、ぽっと千津美のほほが染まった

「そうだよね…」
ノリコも愛おし気に夕美をみた

「典子は、異世界で出産して大変だった?
 生活習慣とか違うと、やっぱり不安だよね」

「ううん…そんなことなかったよ」
ノリコはにこりと笑った

「イザークが傍にいてくれたもの…」





「あなたみたいなひとが傍にいて
 奥さん本当はうんざりしているのではないかしら」

「あんたのそばにいたがるおとこがいるとはおもえんな…」


功はそんな二人に背を向けて食卓に座り
ため息をつきながらコップにビールをつぐ



夜はふけていこうとしていた

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