ナーダの城で






「もう大丈夫だ、顔を上げろ」

地面に伏せていたジェイダ左大公たちの上から
その声が降りてきた

起き上がって辺りを見渡すと、
自分等以外の者は、皆意識を失って倒れている

「少しでも早く、ここを離れた方がいい」
戦士はすでに次の行動について言及するが
他の者はただあっけにとられて
彼をみつめた


それより少し前…

会場に現れた戦士を見て、バラゴは「ちっ」と舌打ちをした。
(おれがよ、あんな思いをしてまで教えてやったのに、なにのこのこ現れてんだよ
まあ、おれの言う事なんか信用出来ないってことか…)
だが諦めきれずに、最初に挑みかかった

「信じなかったわけじゃない…ちょっと考えることがあったんだ…」

少し強いと思って、なに寝ぼけた事を…
憤慨したが、
頼み事をされてしまった
なんだかわからないまま、バラゴは彼に言われた通りに動き出す

同じ頃、
アゴルもまたとまどっていた
左大公一行と、かの戦士も一緒に助け出すつもりだったのだが
いきなりこんな展開になるとは…
いやまて、こ、これは…
そこへ突然声が聞こえた。
「なにアホヅラしてみてんだよ」

バーナダムは、
一昨日の晩ノリコに起こった事を話した後
片膝を抱えるようにうつむいてしまった戦士の姿を思い出していた

ガーヤの家で眠る前に
たまたま通りかかったノリコとガーヤの部屋のドアが少し開いていて
くすんくすんと泣いているノリコを慰めているガーヤの声を聞いてしまった
「寂しいのかい、大丈夫だよ
 きっとまた会えるさ」
さっき 微笑んで、「おやすみ」と言ったばかりなのに…

ノリコが預けられた事情は、ガーヤが簡単に説明してくれていた
渡りの戦士など、やくざな人種だ
力まかせで金を稼ぎ、町から町へと何の責任も持たずにさまよう
正規な軍や警備隊のような仕事にはつけない、下品で卑しい輩
そんな奴が何故、ノリコみたいな女の子を数ヶ月も連れ歩いたんだろう
何故、ガーヤのもとに預けて逃げてしまったんだろう
何故、そんな奴を思ってノリコは泣くのだろう

出会いは最悪だったが、
謝るバーナダムに優しく微笑んで許したノリコを
彼はすでに好きになり始めていた

しかし
牢の薄暗い光の中に浮かんだ戦士の顔は
精悍で壮絶な美しさをたたえていた
身体付きなど、遠目ではっきりはしないものの
戦士などとは到底思えないほっそりとしたもので
下品とは対極にあるような優美で上品な雰囲気をまとっていて…

「ノリコが惚れるのも無理ないな… 」
コーリキがそういったのが感にさわって
「こっちは謝ってるんだから
 何か一言くらい言ってもいいんじゃないか、あいつ
 そもそもノリコをガーヤのところに置いていったやつじゃないか
 あいつに文句言われる筋合いじゃないよ」
むしゃくしゃしてつい、つぶやいてしまったものだ

翌朝、ナーダが来て、なんか一悶着あったようだが
ナーダの取り巻きたちの身体で隠されよく見えなかった
ナーダたちが居なくなって、牢から出される戦士の姿が見えた

上背は意外とあるようだが
やはりかなり細身だ
本当にあんな身体で剣など振り回せるんだろうか
渡り戦士など名乗っていて、本当は…

ノリコの事があるせいで
あまりその戦士に良い感情が持てないバーナダムだった


「これ、あんたが全部倒したのか?」
辺りを見回した後、バーナダムが戦士に問う
すでに彼の戦いぶりは充分に観ていた
すごいと思うが悔しくもあった
(こいつには、絶対かなわない… )

それには答えず
「アゴル、馬を人数分鞍をつけて裏門に連れて来てくれ
 あ、ガーヤの分も忘れずにな」

「旅装を整えよう
 バラゴ、出征時の備品を置いてある所に案内しろ
 あんたたちも一緒に来い」

「ちょっ、あんた。ジェイダ左大公に向かって、その言葉使いはなんだ…」
憤慨するバーナダムを
「まあまあ」
と、ジェイダが宥める

そこで戦士は倒れているナーダをみつけると
彼にしては少しいたずらっぽい表情を浮かべた

近くに置いてあった
その日の勝者の名前を記念碑に書き込む為の染料と筆で
ナーダの顔に何か書き込む
「よし」
満足そうに頷くと
横に置いてある賞品の金の袋を全部運ぶ ようバラゴに指示した
「誰も文句は言うまい… 」

戦士の荷物はすぐに届けられた
わずかに残った正気の人達は
競技を観ないことで、消極的な反抗心を示していた者たちだったから
旅の為の食品や保存食、飲み物なども次から次へと提供される

備品室では、必要な荷袋や剣などの兵器、着替えなどを詰め込む

「ふん、新品だし上等だな」
野宿の為の敷布と毛布が一式になったものを見て、戦士はつぶやいた
自分の荷袋からそれを捨てると
人数分とって袋に詰める

「急ごう。ノリコたちが待っている」

(何故そんなことがあんたにわかる?)
ノリコが何者だか知らないバラゴを除いた他の者たちは
同様な疑問を頭に浮かべたが
取り敢えず黙っている事にした

裏門にはすでにアゴルによって馬の用意がされていた




一行は町のはずれに向かった

ノリコたちが待っている場所へ… 



ノリコのもとへ…








短編

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