エンナマルナで



(こ…これは…)

バーナダムはただ唖然としていた



突然エンナマルナの町に
イザークとノリコたちが現れた

その後、ゼーナの部屋で語り合い

誰もが二人を理解し受け入れた



食事が供され
長いテーブルをはさんで
バーナダムはイザークとノリコの向かい側に座ったのだが…


バーナダムの知っている頃のイザークは

ノリコが懸命に慕っている、その心を弄ぶかのように
時に優しく遇するが、大抵は冷たく突き放していた

あの頃のおれはそれが許せなくて…
随分奴に突っかかっていったな

それなのに奴ときたら、まったく煮え切らなくて
挙げ句の果て発作で倒れた奴を助けようとしたノリコをはねつけ
顔すらまともに見ようとしなかった

もちろん、それは運命を背負ったイザークの
苦渋の選択であったと、後で知ったのだが…



さっきまでは…
打ち解けながらも、彼は相変わらず無表情で皆と接していた
傍らに寄り添うノリコがニコニコと奴の分まで愛想をふりまく姿に
チクリと胸が痛んだ


奴は彼女を大事にしているのだろうか
彼女は奴と一緒で幸せなんだろうか


けれど…



スープをすくって飲もうとするノリコに
「熱いぞ、気をつけろ」
イザークが言う

「あ、うん」
嬉しそうにノリコが答える

彼は大皿に盛られた肉を一切れ取ると
丁寧に細く切って
ノリコの皿へ置く

「ありがと、イザーク」
イザークとノリコの視線が絡み合う

「あっ!」
ふとした拍子にノリコは水の入ったグラスを倒してしまい
「やだ、あたしったら…」
と赤くなってうつむく

その頭をポンと叩き
「気にするな」と微笑むイザーク

ノリコを見る眼差しはただ…甘い



(おいっおおいっ、おまえ…本当にあのイザークかよ)





「皆さん、どうかしたんですか?」
アレフが不思議そうに訊いた


バーナダムだけではなく
グゼナで別れた一行は皆、そんな二人の姿に
完全に食事の手が止まっている

「い、いや……」
ジェイダがこほんと咳をして

「あはは…。あの…何ですね…」
とアゴルがごまかすように笑った

しばらくすると
族長が話がしたいと、イザークが呼ばれた
「すぐ戻る」
とノリコに言い、イザークが部屋を出た



「ノリコは別な意味で、イザークを目覚めさしたんだねえ」
ガーヤのつぶやきに
皆はぷっと吹き出す

きょとんとするノリコだった



イザークが戻ってきて、ノリコを呼んだ
「じゃあ、お先に。ごめんなさい」
と言ってノリコも席をたつ

出かける準備をするので部屋に戻るということだった

(それっくらい、一人で行けよ)
やっかみながらバーナダムはごちる






「はあ? おれ、そんなこと信じられないし、想像もできませんね」
アレフが言った

いなくなった途端、話題は必然二人のことになる

「冗談はやめてください
 ノリコを冷たく突き放すイザークなんてこの世に存在しませんよ」
くくっと笑うアレフ


「でも実際そうだったんですよ
 ノリコはあの頃からイザークに片思いでしたけれど」
「倒れた時のイザークなんてものすごく機嫌悪くて
 ノリコに辛く当たって…ノリコ相当落ち込んでいましたもの」
アニタとロッテニーナが口を揃える

「えーっ、イザークったらどんな時だってノリコには優しいわよ」
ニアナが言う
「すっごい過保護だし
 最初はあてられちゃったけど、慣れたわもう…」


「過保護といえば前もそうだったが
 面倒をみなくてはいけないみたいな、義務感でやってたふうだったしよ」
あの頃を思い出しバラゴが言うと

「義務感ですって?
 あたしには恋人として権利を
 最大限行使しているようにしか見えないけど…」
グローシアが返す
「ノリコが片思いだなんて、あり得ないわ」


「うん、まあな。突き放しているようで結構大事にしているようだったしな」
「結局あいつノリコのことしか見てなかったんだ」
とロンタルナとコーリキ

「あいつはノリコのことが前から好きだったんだよ…
 だけどそれをずっと言い出せないでいたんだ」
バーナダムが言う


「そんなこたぁ、わかってる
 だがあの頃のあいつは、そんな気持ちをぜってえ人に見せなかったからよ…」
なんだよ、さっきのはよ…とバラゴ


「今の…あの人目も気にしない尽くしっぷりが…」
信じられないな、とアゴルが頭をふる


「あの頃のイザークはいつでもどこか辛そうだったけれど
 今ではそれがまったく消えている」

よかったねえ、ノリコのおかげだね、とガーヤは笑う






「バーナダムには気をつけろ」
出かけるイザークを見送る為
出入り口近くまでついてきたノリコに
唐突にイザークが言う

「へっ?」

「あいつはまだ諦めていない
 今日もずっとおまえのことを見ていた…」

「おれがいない間は絶対奴に近づくな」


「やだ、もうイザークってば」
ノリコは笑う
「これから大事なお仕事があるっていうのに、そんな事…」


「おまえはなにもわかってない!」
ドンッ、と両手をノリコの背後の壁につきイザークは言う

「おれには、こんな町よりおまえのことのほうが大事なんだっ!」



「…こんな町…」
イザークに声をかけようとして近づいていた族長がつぶやく


振り返って族長を見たイザークは少し赤くなって

「すまん」
と、謝った

族長の後ろでは、アレフが腹を抱えていた





そしてイザークは静かに出ていった















すいません…許して下さい、族長サマ
軍を追っ払ったことで、チャラにして下さいませ
短編

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