イザークのお買い物






…あの二人… 今ごろ どうして いるのやら…


お茶を飲みながら、カルコの町の町長さんとお医者さんが
長い間、この町の平和を脅かしてきた盗賊達を
あっさりと一掃した若き戦士と
連れの島の娘に思いを馳せていた

ひゃっひゃっっっ、と町長がいきなり笑い出す

「ど…どうしたんだね、町長?」

「いや、なに傑作だったんだがね、あん時の…」










ドンッドンッドンッッ
「開けてくれっー!」

夜更けにも関わらず
閉まった衣料品店の扉を遠慮なく叩く人影があった



「勘弁して下さいよ、もうとっくに店仕舞いしてるんですけど…」

店の亭主が、それでも律儀に顔を出す


もうあの盗賊たちはいない
昨夜ほとんどが、あの渡り戦士に倒され
残りの輩と、その影で甘い汁を吸っていた商人ニーバは
今日捕まって囚人城行きだ


やっと訪れた平和に、少し気持ちが高揚している


「町長…?」

「やあ、悪いがなあ
 彼がどうしても明日の夜明けとともに旅立つと言って聞かんでな」


町長の後ろには
ぼろぼろの服を纏った精悍な顔立ちの青年がたたずんでいた。


「町長、もしかして、その若者は…」

「ああ、盗賊どもをやっつけくれた渡り戦士だよ」


「も…もちろんですとも
 いっくら時間をかけても構いませんよ
 ゆっくり選んで下さい
 まけときますぜ!」

町の英雄が、今自分の店にいると思うと
浮き立つ店の亭主であった




しかし、イザークは男物の上衣があるところへ行くと
ものの1分もかけず1着を選び出した

しっかりした生成り色の生地
ボタンの位置が襟から胸にかけて右斜めに入り
縫い目のところがステッチになっている他は
ごくシンプルなものである

他に黒のズボンとブーツ、自分のサイズを選んで

「これを貰おう」

亭主に渡す


「あんた、また代わり映えのしない
 たまには、こんなのもいいだろうが」

自分好みの派手な縦ストライプの上衣を差し出す町長を軽く無視して
女物の衣料のところへとイザークは向かった


そこでは若干時間をかけて物色したあげく


「これも」

と選んだ一着を亭主に渡す

「ノリコのかい?
 もう寝てしまったので連れては来られんかったが
 女の子なんだから好みもあるだろうし
 サイズも試着してみないとダメだろ
 やはり明日朝一番で来た方が…」


「構わん」


お代を払おうと、亭主に向かったイザークだったが
ふと女物衣料品の隣にある小物のコーナーに眼を留めた

頭に巻く布だとか、髪・耳・首飾り、腕輪、指輪など
女の子が喜びそうなアイテムが所狭しと並べてあった

イザークはその中の首飾りのひとつを、ふと手に取ると
黙って亭主に渡す

「ノリコへのプレゼントかい? 
 あんたもすみにおけないねえ」

からかう町長に


「ノリコがいなければ、おれは昨夜盗賊達に殺られていた
 これは報酬だ…」











「あん時の、やっこさんの表情がねえ…
 冷静な口調で言っておったが、顔が赤くなっておってな
 あの男でもあんな表情をするのだと
 いやあ、いいモノを見せてもろうたわい!」


笑いの止まらない町長に


「これこれ町長、あんたも人が悪い…」

でもわしも見たかったな、と思うお医者さんだった









「ええっっっっ!!うそぉぉぉ。いいのー、イザーク? 
 キャー嬉しい!ありがとう!!!」(全て日本語 )




馬の背にノリコを前に乗せ
次の目的地へ向かうイザーク
ノリコの胸にはあの首飾りがかかっている

新しい服を渡した時には、申し訳なさそうな笑顔と
なにか一言あちらの言葉つぶやいただけのノリコだったが

この首飾りを渡した時のノリコの反応は
女心など全く縁のないイザークに取って
衝撃的とも言えるほど激しいもので
まったく不可解であった

…あったのだけど…

以降、ノリコの衣類購入時には
必ずアクセも一緒に買う
イザークであった

短編

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