謝罪






セレナグゼナを出発した一行を見送って
ノリコとイザークは再び歩き出した





なんだか、まだ信じられない



隣を歩くイザークをそぉっと見上げる
あたしの視線に気がついて
イザークもあたしを見て微笑ってくれた
ドキドキして顔が熱くなる




好きだ…なんて言われちゃって
キスもしてくれて…
おまけにこんな優しくみつめられて



ずっと片思いだと思っていた

優しいイザークがあたしにあんなこと言われて
どうしたらいいかわからずに困ってるんだと…
それでも傍にいられるだけでも幸せなんだ
自分にそう言い聞かせてきたのに


手をつねってみた
痛い…

よかったぁ
夢じゃない…





はっと気がつく

そういえばイザークが隣を歩いてる


今までは…
さっさと先を歩くイザークに
あたしはいつも後ろから必死についていった


白霧の森でや国境では何が起こるかわからないからと
もっと近くを歩いたけれど
それでもこうして並んで歩くことなんかなかった



イザークがあたしに歩調を合わせてくれているんだ
やだ、あたしったら気づかないで迷惑かけてる…?



急に早足で歩き出したノリコにイザークが言う



「そんなに急がんでいい、ノリコ」







おれはずっとノリコから逃げようとしていた
ノリコからだけではない
おれの運命から、おれ自身から…

必死で逃れようと今まで歩いてきたんだ

けれども振り返るといつも
ノリコが一生懸命ついてきていた

時には肩で息をしながら
時には泣きそうな顔で…

ノリコに手を差し出したかった
一緒に歩こうと言ってやりたかった

けれど不甲斐ないおれはその勇気が持てずに
また一人で歩き出した






いつのまにかノリコに魅かれていた

異世界にいきなり飛ばされた彼女は
不安そうにしていたのは始めだけで
なぜかわからんが、おれを信用してついてきた


冷たい態度しかとれないおれに笑顔をくれる
おれの胸で安心して眠ってしまう


あんなに華奢な身体で
カルコの町で盗賊から必死におれを護ろうとした

ひたむきに言葉を覚えようとする姿が…
かたことで一生懸命話すノリコが…
ひどく愛らしかった

ノリコのすべてが好きになっていたんだ

だがおれは、そんな自分の気持ちを
わざと気づこうとはしなかった


離れたほうがいい…
離れなければいかん


自分にそう言い聞かせ
ガーヤのところに彼女を置いていった


けれども離れていた数日間は
ノリコのことしか考えられなかった


彼女とは二度と会わないほうがいいと
頭ではわかっていたが
心がそれを拒絶した


再会した時
ノリコが抱きついた時、嬉しかった
おれだって彼女を抱きしめたかったんだ

みんなから見られていると気づいた時
ついその手を無理矢理離してしまった

ノリコはひどく狼狽え、急にあちらの言葉でしゃべりだした

そんな彼女がたまらなく愛おしかった



白霧の森を超えた国境で
彼女を護りきれずに怪我をさせてしまった

力の制御が限界を超えて
醜い姿をさらしてしまった





だが、その時…




 どんな姿でもいい
 何者でもいい
 イザークが好き…




奇跡がおこった




願うことなどできなかった
こんなおれを受け入れろだなんて

小さい頃からどんなに違うと言っても
化物だと忌み嫌われてきた

どんなに否定しても
結局おれは化物だったんだ

けれどおれのそんな姿をその目で見ながら
ノリコはおれのことが好きだと言った
おれにキスまでして…



「もう絶対置いていったりしないでね」



あいつにそこまで言わせて

それでもおれはどうしても彼女に
おれたちの運命を知られたくなかった

何も知らずに彼女がおれから離れれば
それが一番いいと、思っていた

思っていたんだ…


けれどおれは彼女を離すことが出来ずに

彼女を悩ます態度しか取れずに


彼女をひどく傷つけてしまった…








しまった…



はっとイザークはいきなり立ち止まった



「ど…どうしたの、イザーク」

ノリコが驚いて聞く



「い…いや、なんでもない」









ぱちぱちとたき火の火がはじける

今夜は野宿になった



お互い恥ずかしいのか気まずいのか
今日はあまり言葉を交わさなかった



「もう遅い、寝たほうがいい」

イザークがノリコに言った


たき火の横に
寝具がすでに用意されていた


「イザークは?」


「おれは火の番をする」



そ…そっかぁ

そうだよね




白霧の森で怪我をする前までは
イザークはあたしをその胸に抱いて寝てくれた


そうすると、あたしが
よく眠れるっていう理由で…

今日はちょっと期待しちゃったのだけれど


イザーク…

優しかったのは、最初だけで
いつしかまた、前のように
突き放すような態度にもどっていった


やっぱり後悔しているのだろうか
目覚めのあたしをそばに置くことに



イザークを見ると、目があって…
彼ははっと目をそらした


ノリコはシュンと落ち込んで
寝具に潜り込んだ


あんなことを言ってくれたのは
あたしのためだったのかなぁ
やっぱり、あたし…離れたほうがいいのだろうか


好きだと言って
好きだと言われて

これって恋人同士…
なんて有頂天になった罰なんだ

イザークみたいに素敵な人があたしの恋人だなんて…
ちょっとどうにかしてる


やだ
涙が止まらない…




「ノリコ」


すぐ傍でかれの声がした

びくんとノリコの身体が震えたが
涙にまみれた顔を彼に向けることができない


「なぜ、こちらを見ない…」


だって…


「おれに愛想をつかしたのか」


そんなこと…


「おまえの気持ちは知っていた…それはすごく嬉しかった
 …おれもおまえを離したくなかった」


イザーク…


「けれど、おれはどうしていいかわからなかったんだ」


ノリコは振り返った

目に涙をいっぱい溜めたその顔をみて
イザークは唖然とする


「泣いて…いたのか」

おれが泣かしたのか…


「あたし…」


「イザークはやっぱりあたしの為に言ってくれたんだと…」


「なにを…」


「好きでもないのに…あたしを守らなければいけないって…」


「ばかな…なぜ、そんなことを」


「だって…
 イザークまた冷たくなったし…」

あたし、てっきり…



イザークが赤くなった

「言いたくて言えなかったんだ」

それに気がついたら余計緊張して…
態度に出てしまった


「なにを?」

言いたかったの



ふっとイザークが目をそらした


そんなに言いにくいことなの…




「ごめん…と」



寝ているあたしを抱き起こして彼が言った



「おれは、言いたかったんだ」


「おれが発作で倒れた時、助けようとしたおまえを拒絶した
 そばにつかんでもいいと言った」

「本心ではなかったんだ…
 部屋に来てくれたおまえの目をみれなかったのも
 おれがまだ迷っていたせいで…」




「おまえを傷つけてしまった…」



少しかすれた声で彼が言った

あたしの顔は胸に強く押し付けられて
彼の表情が見えなかった




「本当は、おまえを助け出したらすぐにでも言うつもりだったんだが」


イザークが震えてる?


「タザシーナがいきなり現れて、あんなことになって」


彼の胸が懐かしい…


「つい、言い忘れたのを、思い出して」


彼の体温が暖かい


「今さら言うのもどうかと…」


彼の鼓動が聞こえる


「悩んでしまって…また、おまえに不安を…」


「おれは、だめな…」


ふとイザークは気がつく




「ノリコ…」






「寝たのか…」






イザークは、ノリコを寝具にそっと横たわらせた

そして傍らに身体を滑り込ませ
彼女をその腕に抱くと
頭にキスを落とし、目を閉じた



もう決して離さない…





短編

Topにもどる


Copyright © 2008 彼方から 幸せ通信 All rights reserved.
by 彼方から 幸せ通信