出会い その後1





「ただいまー」


明るい声が玄関から聞こえて来た




「お帰り…
 今回は前触れ無しか」

「だって…」

事前通告するのも金の寝床でしかできない
そこから数分でここに着くし…



「別に構わないよ…
 いつでも好きな時においで」

父は笑って言った


結婚式が終わって数日後
千津美と功を送るついでにやって来た


「式は挙げたのか…」

「うん…」

「じゃあお前たち、やっともう…」

ノリコからきっと睨まれて、兄は口をつぐんだ




イザークの妻となったノリコは
この前来た時より
少しだけ雰囲気が変わっているように思える

黙って傍に佇むイザークとの間に
甘く艶やかな空気があった






夕食後、片付けを手伝おうとするノリコに

母が

「いいのよ、あなたはあっちで座ってなさい」
と言うのを


「やだ、お客様じゃないんだから…
 お母さんこそ、あっちで座ってて」

にこっとノリコが言う


「そうだ」

イザークが立ち上がって皿を集め出した

「かぞく だ…」




「…」



台所でイザークとノリコが並んでいる


食器を洗うイザークと
それを受け取って、拭いてからしまうノリコ



居間からそんな二人を見ながら
なんだか落ち着かない



「天上鬼…なんだよな」
ぼそっと、兄がつぶやいた

あっちの世界で
最大の破壊力を持って恐れられている


その天上鬼がおれの家で皿を洗ってる…




「なんか、言ったか」

父に聞かれて

「い…いやっ、典子の奴…亭主操縦法がすげぇな、って…」


兄が言った




「ほんとに、羨ましいわ」
母が言って、父が困った顔をした


でもノリコが、イザークに大事にされているのが感じられて
ほのぼのと嬉しい家族だった









「ただいま」

功が帰って来た


千津美をアパートに送ってきた

イザークから貰った剣は
千津美のところに置いてきた



「お帰りなさい、どうだった?」
母が聞くが



「ん、良かった」
とだけ言って自分の部屋へと向かうが


階段の所で兄が待ち伏せていた

「北海道の北のはずれ…それとも南の孤島」

章は功の顔に一冊の本を押し付けて聞く

「行ってきたんだろう…」
典子の父親が書いた本だった


「この本が出た頃おれのテレビ局で扱ったんだよ」

だから典子の父親の名前を知った時
違和感を感じた

確か娘は行方不明のはずだが…

「話せよ…誰にも言わないから」









「ハネムーンは?」
母親の気軽な問いに


「あ…あたしたち、旅ばっかりだったから」

今さら旅行なんか…と、ノリコは言うが


せっかくだから、どこか行ってらっしゃいよ
と明るく言われた

「で…でも、こっちのお金が」
先日イザークが功の友達のお手伝いをして
多少は貰ったが
旅行するには足りない


「なに、言ってるの!」
母が怒ったように言った


あなたの日記のおかげで
父親の小説が売れた


この家のローンは完払出来た

父と兄は新車を買った

昨年、父と母は欧州旅行をしたそうだ






だから…


「使ってほしいのよ」

あなた達に…





そして、ノリコとイザークは


京都へと旅することになった
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