出会い その後2





二人は京都へ向かう新幹線の車内にいた

東京駅で買ったお弁当を食べながら
うふっ、とノリコが笑った


なんだか、嬉しい
こんな旅も悪くない…


隣に座っているイザークが聞いた

「おまえにとったら、 やはり生まれ育ったこの世界がいいのだろうな
 ここの平和な暮らしが」


「それはね、違うの…イザーク
 そういうんじゃないのよ…」


あなたはいつか言ってた

元の世界にいたなら
こんな目にあわずに平和に暮らせていただろうと

でもこの世界も一見平和に見えるけど
争いは絶えない…

いつか話したよね
この日本でかつて
たった一つの火薬玉が一つの都市を破壊し
十数万人の命を奪った
そんな過去がある

そして今
それよりももっとすごい威力があるのを
平和のためと言いながら
維持している国がいっぱいあるんだ

力を誇るために…


イザークはそれを聞いて
「世界の覇者となるために目覚めと天上鬼を得る」
同じ理屈だな…と笑った

どこの世界だって同じ
明日の事はだれにもわからない

だから…


「今出来る事を精一杯しようと思っているの
 そしてどんなに小さい事でも
 嬉しかったり、楽しかったりしたら
 感謝していきたいんだ」

「こっちの世界に帰って来られるようになった
 こうして旅をしている
 お弁当を食べながら」

くすりとノリコは笑った

「イザークと一緒に…
 これが一番重要なんだけど」


「そのひとつひとつに
 あたしは幸せだと思って感謝するの…」




「でも、あたしはあっちでの暮らしが好き 」

イザークと出会えた
イザークと一緒に旅をした
そして今はイザークの妻となり二人の家がある

そんな世界が一番好き…



そう言うノリコが愛おしくて
イザークは思わず伸ばしたかけた手を途中で止めた

日本に来たら、人前で抱き寄せたり、口づけたりは
決してしないと約束させられていた
家族の前でもダメだと

「不便な国だな…」

ぼそっと、イザークがつぶやいた

「えっ、なあに?」
ノリコが聞くが

「いや…べつに」
引っ込めた手を見る




「あ、そうそう、千津美たちったらね…」
可笑しそうにノリコは笑う

「ジェイダさんのところでは、同じ部屋をあてがわれて
 仕様がないから一緒に寝てたんだって」


「どうせ、バラゴやアレフあたりが企んだんだろう」
あいつらときたら、性懲りもなく…


結婚式の日から、新婚の家にいるのは遠慮して
バラゴは自宅へ、功はジェイダの館で寝泊まりした

こちらに戻ってくるまでの夜を
千津美と功は一緒に過ごしていたわけだ

「千津美ったらね…
 最初はドキドキしちゃったけど
 慣れてきたら安心できて
 あたしの気持ちが良くわかるって…」

「だが、こっちへ戻ってきて
 また別なところで暮らすのだろう」

おれたちはその点、結構ついてたな、などとイザークは思う


「うん、だから…
 きっとあの二人…そのうち、っていうか
 結構早いんじゃないかな…」

そうか、とイザークも微笑んだ

剣を習う時の、功のまっすぐな視線を思い出した
千津美を護りたいと
あいつはその事しか考えてなかったな…

一度など、おれの剣をはじき返した
おれはノリコの事でぼろぼろだったのだが
それでも…

「惜しいな…」

あいつは、すごい剣士になれる素質はあったんだが


「仕様がないよ…イザーク」

あたしがあっちの世界で暮らす事を決めたように
功はこちらに戻ってくる事にしたんだもの


「ああ…」

おれも結構楽しかったから、それで良しとしよう

おれの教えるすべてを
ひたむきに学ぼうとする功が
好ましかった

弟…という存在がいれば
こういう感情を抱くのだろうか

あいつを手元においておきたかったんだが
それは我がままというものか


ちらりと、ノリコを見る

彼女がおれの傍にいる
それ以上を求めてはいけないのだろう

それで充分だ




ノリコは結婚式を終えた後の生活を思い浮かべていた
まだほんの数日間の事だったが



朝、イザークの胸の中で目を覚ます
彼は大抵 先に目を覚ましていて
あたしが起きるのを待っていてくれる

今までと同じ…ではない

ノリコはちょっと赤くなった


それから朝ご飯を用意して
一緒に食べる

食べ終わった頃、千津美と功が来る

功はすっかり乗馬をマスターしていて
千津美を前に乗せてくる

「馬に乗ったの、初めて」
最初の日に千津美はとても嬉しそうに言った

「あたしは最初の頃…」
イザークに迷惑ばかりかけちゃって
焦って、言葉が通じないのわかってたけど
日本語でべらべらしゃべってたっけ

彼は後で言ってくれた
そんなあたしの姿が愛おしかったと

ホントの所はどうだったんだろう…


バラゴさんもきて
お昼を挟んで夕食まで剣の稽古

千津美はいろいろな人に頼まれて
必死にレースを編んでいた

いつでも一生懸命なんだよね
一見ひどく無防備で子どもっぽく思われるけど
彼女の芯はとても強い
誰に何と思われようと、何と言われようと
彼女は揺るがない…



夕食には相変わらず皆が集まって来る

イザークは、迷惑そうにしているけれど
誰も気にしない
あたしだって、本当の彼の気持ちを知っている


皆が帰って
後片付けも終えて

そして

イザークはあたしを抱きかかえると
寝室へ行く…






くっと横でイザークが笑った


「あーーーっっ、イザークったら」

赤くなってノリコが叫んだ

「い…今、変な事考えていたでしょ」




「いや、考えていない」

笑いながらイザークが言う



「う…嘘、ちゃんと見えたんだから」


「おまえに、嘘などつかん」


「で…でも」


イザークが耳元で囁いた

「ノリコの一番愛おしい姿を思い浮かべる事が
 変な事、なのか…」




「うっ」
赤くなったまま顔が上げられないノリコだった



そうこうしているうちに
京都駅に着いた



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