出会い その後 3





「ん〜〜」


ノリコは、母親に渡されたデジカメを手にうなった


もちろん写した写真は、あっちへ持ち帰れない
両親が欲しいと言うから撮影しているだけだけど…



なんだろう…
これは


イザークにこの街は妙に似合った


この前買ったジーンズに白Tシャツの上から
黒い綿のワイシャツをはおっているだけのイザークは

いでたちだけなら、
どこにでもいる若者のようだ

もちろん今さらながら容姿は抜群だと思う

観光客の女の子たちがキャ−キャ―言っているのが聞こえる


外人観光客も多い街だが
彼らはそれなりに浮いた存在だ


けれどイザークは
この古都の波動に
ぴったりと解け合ってしまったんだろう


古いお寺や街並に立つ姿は
ずっと前からそこにいるかのように

風景と一体となっている


イザークはそんな街や建物に
かなり興味を示して



古い木造の建物に片手をあてて

「ん、すごいなこれは…」


と感心したように見る


火事にあわなければ、ずっともつな




はっと、ノリコは思った

石造りの家が多いあの世界で
彼の実家は木造だったと聞いた
火事で焼け落ちて家族は全員亡くなったと…



そんなノリコを見てイザークが微笑う


気にするな、ノリコ


おれはただ建物に興味があるだけだ…







仏像や観音像にも、イザークは
結構興味を持って見ていた

何を思っているのか、聞いてみた


「上手く説明出来ないが
 これらの像の中に思念のようなものがある」


像のひとつひとつに仏師たちの心がこもっている
拝む信者の気持ちがいっぱいつまっている
イザークにはわかっちゃうんだなぁ




お寺巡りはもう充分かなと
古都をなんとなく散策していた

もう、日が暮れて薄暗くなっている



「そろそろ、お夕食にしようか」
ノリコは聞いた

京会席か、湯豆腐 でもいいかなーと、思いながら


「ん」

と、言ったイザークがふと立ち止まった

山門の前だった



京の街には観光名所以外にも
目立たない普通のお寺が一杯ある

そこはそんなお寺の門だった




「ここはね、応仁の乱の時に焼けてしまったんやけど
 その後立て直されてね」



門の隣で酒屋を営むおばあさんが
店の前を掃除しながら
そこに佇むあたしたちに教えてくれた


「ご本尊はありがたい観音様なんや
 けどきつねさまも奉ってるんよ」


「きつねさまって…ふつう神社じゃないんですか
 お稲荷さまとか…」



あはは、とおばあさんは笑った

「あれはただのお使いやろ…
 ここのきつねさまはね」

なんでも、応仁の乱で乱れてしまって
魑魅魍魎が跋扈したこの世を
立て直した偉いきつねさまだそうだ



「詳しい話は子どもの頃聞かされたんやけど忘れてしもた
 他にもなんや若い男女とか天狗やらとか居たようだけど…
 今うちたちが幸せに暮らしてるんのは
 きつねさまのおかげなんや」



聞いててノリコはなんだか
イザークと似ている、と思った



イザークは相変わらず門の中を見ている



「入ってみる?」
あまりにもイザークが興味深げに見ているので
ノリコは聞いた



「あ…ああ」



「イザーク?」

ノリコが不思議そうに聞いた



「なにか…いる。ここに」


ノリコが青くなるのを

「心配ない、悪い気ではない」

と安心させた




本堂の近くにきてみると




薄暗い境内に

突然… ぽっ…ぽ…と狐火が灯った


「な…なに、これは?」

ノリコは驚いてイザークを見る



彼は ただ、何が来るのか待ち構えている様子だった



カッー、と明るい光とともに
公家の姿をしたものが現れた




「はて…なぜここにまろはおじゃりますか」

不思議そうにその人は辺りを見回した




そしてノリコとイザークを見ると

「そういうことでございますか…」

おっほっほ、と笑った



「そなた」


「随分とおもしろうものを、その身に飼っておじゃるな」
イザークを見て笑う


「 ひどく禍々しいものを…
 けれどその後ろに神々しいものもおるようでごじゃるな」


そしてノリコを見ると


「すずと違ってあやかしを呼ぶ力はない、普通の人間に見えまするが…」


くっっくと笑う


「けれどこの者の力を」とイザークを指す

「支配しているのは、そなたでごじゃりますか」






「さっきから、何をいっているんだ、こいつは」


言葉が理解出来ないイザークがノリコに聞く





「こら」


「わけのわからぬ言葉で話すでおじゃりませぬ」


ぐいっーーと、イザークの後頭部を扇子で押した




「!」

イザークは押された頭に手を当てて、振り返るが



「まあ、よい。久方ぶりにおもしろうものを見せてもらいました」



笑いながら、それはまた消えていった



ノリコもイザークもただ呆然とそこに佇んでいた



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