ユミのミニ日記1

X月X日
あたしは、まいにち「がっこう」にかよっています
「ぶんしょう」もかけるようになりました
だから、おかあさんのまねをして「にっき」をつけることにしました
いま、しごとからかえったおとうさんがばらごおじさんやあごるおじさんといっしょにおさけをのんでいます




「勉強してんのか…」

食卓の上に書紙を束ねて綴じたノートを開いて
ユミが一生懸命何か書いているのをのぞきこんだバラゴが訊いた

「ううん…日記」

簡単に答えたユミは
一生懸命一文字一文字丁寧に綴っていく

「日記…?」

ああ…と盃を運ぶ口元をイザークはくすっと緩めた

「ノリコの真似か…」



母親の手伝いはもちろん、二人の弟の世話も率先してやるほど
その年頃の他の子に比べればかなり「おしゃま」なユミの夢は…

おかあさんみたいになること…であった


顔立ちは「そっくり」だとよく言われる…

でもユミは…

料理が上手だとか
家の中がいつも片付いているとか
心映えがいいとか

ノリコに言わせれば…あれは全部お世辞だから…らしいが…

とにかくいろんなことでよく褒められている
そんなおかあさんになりたかったけれど…


でも…その中でも一番目指しているものは…



「イザークはノリコと結婚できてほんとに良かったねぇ」

おとうさんの若い頃を良く知っているガーヤおばさんが
ことあるごとにそう口にする


もっと小さい時は不思議に思ったものだった

だって…
お友達のおかあさんや
みんなでかけた先のお店の人なんかが


「あんなにいい男なのにね…」

そういう視線でちらっとノリコを不思議そうに見ていることに
気配に敏感なユミは気がついていた


両親には言えなかったそのことを
一度ガーヤおばさんにだけこっそり話したことがある


「二人のことをなーんにも知らない人の言うことなんか
 気にしちゃだめだ…」

おばさんは怒ったように首を振ってからあたしを見た

「あんたが…もっと大きくなったら…
 そうだ…ノリコがこの世界へ来た歳になったら…教えてあげるよ…
 とうさんやかあさんがあんたに言えないようなことをね」

片目を瞑っておどけたようにそうあたしに言った


おとうさんやおかあさんが言えないことを聞いていいの…と
真面目に問い返すユミにガーヤは
ひゃっひゃっといつもの笑い声をあげた


「…照れちまって自分からは言えないようなことだから」

構わないんだよ…とおばさんは笑ってたけど…

おかあさんがこの世界へ来た歳になるまで…あと10年ある
でも…なんとなくおばさんが何を言いたいのか…
わかるような気がする



「子供が三人もいて…相変わらずイザークってば
 ノリコにらぶらぶなんですもの」

ザーゴにお嫁にきたロッテニーナさんは
うちに遊びにくるたび…いつもそう言いながらきゃぁきゃぁ叫んでいる


「おまえのとーさんはかーさんに首っ丈なんだよ」

バラゴおじさんはそう言ってよくおとうさんから睨まれている


「初めて会った時のイザークは…とても恐かったの」

ジーナお姉ちゃんはこっそりあたしに教えてくれた

「でもね…ノリコと想いが通じたイザークに久しぶりに会った時は
 それが消えていたんだよ…今彼から感じられるのはね…」

くすくす…とお姉ちゃんは笑った

「ノリコが好きでたまらない…っていう想いだけ…」


「イザークからノリコを取ったら何も残らんな」
「ほんと…こんなに年月が経っても…
 あてられっ放しだとは考えてなかったわ」

おとうさんの(バラゴ曰く)建前上の上司のアレフさんと
奥さんのグローシアさんも呆れたように言うことがある


そして…
大好きなお友達のイルクも…

「ユミ…君のおとうさんとおかあさんはね…
 ものすごい困難を…お互いを想い合う気持ちで乗り越えてきたんだよ…」

おかあさんはいつもイルクや白霧の森のみんなにはすっごく助けられたから
あちらに足を向けて寝られない…っと言ってるけど…

イルクは逆にあたしのおとうさんやおかあさんのおかげで
今…白霧の森に…
それだけではなく世界中に平和が訪れたんだ…と言う


なんだか難しくてよくわからない…
きっとあたしがもっと大人になったら少しはわかるんだろうな…



とにかく今のあたしが目指しているものは…

結婚したって…子供が何人できたって…

おかあさんとおとうさんみたいに
涼くんとらぶらぶでいられること


そのために…
おかあさんを見習って…
とりあえず日記を書こう


幼い心にきっちりと誓うユミであった…

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