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 出会い その後 10




「じゃあ、17の時から、ずっと?」

ノリコはこくんとうなずいた

まだ恥ずかしさで、顔が熱い…






もう招待客の半分は帰り
残ったのは本当に親しい友人たちだけで
自然と女性軍と男性軍に別れた



女性軍はおしゃべりに花が開いた

「でも志野原さん…じゃなくてもう藤臣さんね
 彼女なんか15の時からよ」

「あ…でも、ノリコはイザークとずっと一緒にいたから
 私たちより、よっぽど長い時を過ごしてるよね」

と言ってから、しまったと思う


「ええっっ、ずっと一緒って
 一緒に暮らしてたの?」


ごめんなさーい、という視線が千津美から送られて来る


「親御さん、よく許したわね」

イザークについての質問は、しないでくれと最初にお願いしている
ちょっと、わけありで…と


でも彼女たちは興味津々だ


「え…と、駆け落ちみたいな、そんな…」
しどろもどろでノリコが答えた

「まあ、わけありと外人と、17歳で駆け落ちだなんて…」

「あら、でも彼ですもの…」

と、皆納得顔になる




「すごかったわよね…あのキッス」

ノリコは赤くなる


「やっぱ、外国の人だから…」

「ほんと…ねぇ、いつもあんななの?」


ノリコは答えられない、とても


…そうだとは





「でも、彼…普通の人じゃないわよね」
長谷さんが言って、えっとノリコは思った



「なにか違うのよ…
 あなた気がついているかしら?」

そう聞かれて、ノリコはどぎまぎする


「椅子に座る時、彼あなたの背に手をあててすっと椅子を引いて
 ちょうど座る間合いでまた椅子を元に戻したのよ」

椅子が戻って来なかったら尻餅ついていたのに
あなったたら全く気にしないで腰を下ろしていて

「立ち上がった時はその逆」

普通の人がやったら、気障になっちゃうんだけど
彼ったらすごく自然で


それはノリコにとってすごく当たり前になっていたので
指摘されると、今更ながらそうなんだと思う

「外国の方だからといっても、普通しないわよね」

「ねえ、もしかして…ほんとはすごいお家柄 なんじゃあないの」

「貴族とか…王族…」


「あり得る…彼だったら」
 クールで影があって、でもエレガントで…」
長谷の友人がうっとりと言い、男性陣を眺める


「クーデターとかで、国を追われて逃げてきたのかしら」

「そしてノリコと会って、恋に落ちたのね」


女子の会話はどんどんロマンチックな方向へ流れていく

ノリコは、すごく困っていたけど
言い訳用にあつらえた話と
そう違いがないようなので、そのまま黙っていることにした









男性陣は功とイザーク、功の兄と豪法寺、小室が残っていた

「イザーク、おめえも、藤臣も…女に関してはなんだな…
 純情…つうか…」
と豪法寺が笑う

「んとによぉ、その気になりゃあいっくらでも
 女が寄ってきそうな面してよ」
小室が続ける

「彼女一筋なんだよなー」
章が言う


「まだ若いのに、結婚なんかして
 なにか? 誰かに取られないかとか心配なのか」


けれどイザークはさっきから、何かに気を取られて上の空だ


「おめぇーっ、聞いとるんか」
豪法寺に怒鳴られて

「え…」
と我にかえって、ぽかんと豪法寺の顔を見た


「おいおい、本当にあの時と同じ奴かよ …」
小室が不思議そうに、そんなイザークを見る


この前会った時は
恐ろしいほどの威圧感で周りを圧倒して
さっさと仕事をこなし、帰っていった

めったに他人にそう言う気持ちを持つことのない二人であったが
イザークに対しては
憧れとも言えるような気持ちを抱いていた


けれども今日の彼は何か違う…
いや全く違う


功がイザークを見て笑った
「ノリコか…」





さっきやっと唇を離したイザークに
ノリコはぷいっと顔を背けて


『イ…イザークったら、約束したのに…』


イザークは、はっと思い出した

『だが…彼らが…』


『恥ずかしいよぉーっ、もう!』

それ以来、ノリコはイザークの顔をみようともしない


怒らせるつもりではなかった
そうしろと言われてそうしたまでだったが…

約束のことは…忘れていた



謝ろうと思っても、ノリコは心を閉ざして
おれの言葉が届かない


ノリコが気になって
さっきから、女の子たちとおしゃべりしている
彼女の姿をちらっちらっと見てしまう

豪法寺たちが何か言っているが
彼らの言葉が耳に入ってこない



功がおれの背中をぽんぽんと叩いた

そういえば、こいつはよく
千津美のこともこういうふうに叩いてるな

なぐさめてくれているのか…


功と目があった

「どうした」と聞かれた



「やくそく…わすれた」

「きす しない」




そういうことか…



功は察して、兄を見た

「兄さん、あんたはいつも余計なちょっかいをする」

…おれだって、恥ずかしかったんだ



「わ…悪い、が…功」
章は慌てて言った


「ま…待て、ぶつなら彼だろ」
とイザークを見た


「被害者は彼なわけだし…」





豪法寺や小室、功までがぎょっとして章を見た


「あいつはやめとけ…」
豪法寺が言う


「おれたち3人にやられた方がまだましだぜ」
小室が続けた


「イザークはノリコのことになると、制御が効かない」
功が言って、兄を見た

「殺されるかもしれん…兄さん」


えっ、と章が横を見る


そこには、さっきから女房の顔色をおろっとしながら伺う
情けない顔をしたイザークがいた




「はっ、功…そういうことか」
章が笑った

「今までの仕返しのつもりなんだな…」

「…」

「おれをからかおうなんて、10年早いぞ」





章は笑ってイザークに言った

「おれをぶってもいいよ」


「ん」
イザークが章を見る

「なぜ ぶつ あんた…」



「そういうつもりではなかったんだけどね
 おれのせいで典子を怒らせてしまったようだ」


「気にしなくてもいいよ、慣れてるから…
 功の奴はそういう時、いつもがつんとくれる」


ウィンクしながら陽気に章は言った







「功…」


二週間…しゃべることはなかったが
ヒアリングは相当レベルが上がった功に
イザークはあちらの世界の言葉で話しかける



「くだらん理由で、人を殴るな」



「殴るのは…」

片手を拳にして目の前に持って行く



「千津美を護るとき…だけにしろ」


その拳を、横の壁にドンっとぶつけた




洒落たレンガ造りの壁の一部が砕けて
ばらばらっと、レンガが床に散らばった




「あっ」

すまんと、イザークは赤くなった


そのすぐ横で、章が青くなっていた






「ごめんなさい…本当にごめんなさい」

ノリコとイザークは店主に平謝りした

頭を下げて、謝罪の言葉を言っているのは主にノリコだったが


ノリコの横でイザークは神妙な顔でいる



更にノリコを怒らせてしまった…

けれど

おれのために頭を下げ
謝っているノリコの姿が愛おしい





「もうっ…もう、イザークったら!!」


怒って言うノリコに、イザークが笑いかける

「そのほうがいい…」


「えっ」
ノリコは イザークを見る



「どうせ怒るなら、おれへ直接ぶつけろ」



「さっきみたいに、無視されたんでは
 おれはやりきれん」









   
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