出会い その後 13




まいったな


イザークは立てた片足の膝に腕を置き
頭を伏せてため息をついた




昼過ぎにノリコにここに連れて来られた
ただ座っていてくれるだけでいいと頼まれた
何度も「ごめんなさい」と謝って
ノリコは帰って行った

これから夜のために料理をしなければいけないそうだ

大学がはじまったし、仕事があったりと、他の誰も時間がないとか



それは別に構わんが…



遠巻きにじろじろと見られている

ランチに出たOL、乳母車を押した母親
学校が早く終わったらしい女子高校生
園児を連れた保育士までぽぉっとして立ち止まっている

きゃーきゃー
かっこいい…

うるさく騒ぎ立てる集団もいれば

けえたいとやらをおれに向けてるのもたくさんいる


さっき目があった途端
何やら勘違いしてすり寄って
ぺらぺらしゃべりかけてきたのがいたので
なるべく目をあわせないようにする

小さな四角い紙を差し出し
「もでる」とかにならないかと
話しかけてきたのもいた
言葉がわからんふりをしてそっぽをむいてたやった

諦めて去って行ったと思ったら
別な奴を連れて来て
今度はまったくわけのわからん言葉で話し始めた
頭に来たので、いきなり立ち上がって
上から睨みつけたら、逃げて行ったが…



「…ったく、なんでおれが」

ただ座ってればいい、と言ったノリコを
少し恨んだ



イザークは花見の場所取りをしていた









それにしても…

上を見上げるサクラという花が満開で空を覆っていた

今日はこの世界ではめずらしいほどの青空なのだが

その青を上に隠し
花の薄いピンクが重なって出来た影
何とも言えぬ美しさだ


その美しさは、あいつを彷彿させるような妖しさがある

京の古寺に出て来たあのおかしな格好をした男
禍々しさは全く感じなかったが、化物の一種なんだろう


あいつが言ったそうだ
おれの力を支配しているのはノリコだと…


おれの力?


光の力…
ノリコがその世界の扉を開いてくれて
手に入れた力のことだろうか

いや、違う

エンナマルナのあの時
ノリコが消えてしまった途端
天上鬼にあっという間に支配されそうになった

そのことか…?

おれの中にはまだあいつがいる

ノリコがおれの傍からいなくなったら
目の前から消えてしまったら

おれは光の力をなくしてしまい
天上鬼となってしまうのか

破壊の化物に…


片手を額にあてて顔を上げる

しっかりしろ、どうにかしてるぞ



生きている限り
おれはノリコを護る
彼女が消えてしまったら
どこまでも追いかけてやる

彼女の全てをこの手にした今
おれの五感のすべてがノリコと共存している
たとえ彼女がどこにいようと
おれにはたどり着ける自信がある

あの頃とはちがう

ラチェフの結界なんぞ
くそくらえだ


おれは破壊の化物になどにならん

決して




ほっほっほ…

奴の笑い声が聞こえた

大事なことにやっと気がついたでおじゃるな…




おれの心は弱い

けれどノリコを想う気持ちが
おれに力を与えている


そういうことか…

くっとイザークは笑った






「なんか楽しそうですね」

声をかけられて、イザークは我にかえった



千津美の友達だと言う女の子が4人そこにいた


「あ…いや、べつに」
赤くなってイザークは言った



「典子さんが千津美に連絡して
 千津美がメール回してくれたんです
 イザークさんがここにいるって」

「千津美は一旦おうちに帰って、なんか作って来るって…」

もう志野原さんではないし、藤臣さんだと藤臣くんと混乱するので
「千津美」と呼ぶことにしたらしい


「そういうのは主婦にまかして
 あたしたちはこういうので…」

スナック菓子だの果物やジュースを買い込んだ
スーパーの袋を見せた


「イザークさんも召し上がって下さいね」


「あ…ああ」



先日のパーティでは初対面だったし
女性・男性陣と別れてしまって
イザークと直接話すきっかけを失ってしまった女の子たちは
このチャンスに飛びついきた


千津美からのメールで、イザークがここにいるとわかった途端
講義など無視して、駆けつけて来たのだ



「趣味は」とか「好きな食べ物は」

などと、まずはありきたりな質問をイザークに投げかける



「しゅみ…?」

「あ…あの好きなことです」


好きな…?

「ノリコ」

とイザークが答えると
きゃーと、女の子たちは騒ぐ

「?」


「じゃあ、好きな食べ物は…」

「ノリコ…つくった」

「んーもうすべて典子さんなんですねぇ…」

うらやましすぎるよねぇーーー
うんうんとみんな頷いている



「典子さん、今日はいろいろ
 お料理してくれているみたいで…」

「大変ですね、すいません」

イザークはなんだかあらぬほうを見て言う

「りょうり…おわった」


「えっ、じゃあ 大変ですから…」

あたしたちここにいるから、運ぶの手伝いに行ってあげたらと
彼女たちが言った


「おとうさん くるま」


「あ、お父さんが車で送ってくれるんですか」

「じゃあ、もうすぐ来られますね」


「いや…くるま いっぱい おくれる」


「渋滞にはまっちゃったんだ」


「でも、イザークさん携帯持ったんですね」

「電話も携帯も通じないところに住んでいると
 お伺いしていましたが…」


「けえたい…」
いや、と首をふった


「じゃあ、どうしてわかるんでしょうか」

「そうじゃないかと想像しているだけなのでは」

三浦さんと園部さんが顔を見合わせた





イザークは周りを見てため息をついた

まだ4月の初めだと言うのに、汗ばむほど暖かい

出かける前にノリコが
「それだけでいいんじゃないの」
とTシャツとジーンズのイザークに言った

冗談じゃない、こんな夜着みたいな格好で外に出られるか
と言って、黒の襟付きシャツを羽織ってきた

けれど、なんだこれは

男たちはまあいい…
夜着を通り越しただらしない奴らもいっぱいいるが

けれど、女たちは…
胸元や肩を 露にしているのが多い
足など、短いスカートから平気で素足をさらしているのもいる

あちらの世界では娼婦でさえしないような淫らな格好だ

まあ、ノリコさえまともなら構わんのだが

しかし、周りにいる女の子たちは幾分まともとはいえ
襟ぐりが広すぎる
座ると膝上までスカートが上がったりして
目のやり場に困る

おれがいなかったら
ノリコもこんな格好をしていたのだろうか

なんだか無性に腹が立ってきた









ところで、イザークの趣味ってなんだろう?    
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