出会い その後 14




豪法寺と小室が
ビール缶が一杯入ったアイスボックスを持って現れた

「やだー、こんなに飲む気なの?」

女の子たちが騒ぐ

「にゃろ、あったりめぇだろーが
 年に一度の花見だぜ」


「いい場所が取れたんだな」
功と同じく、数日前に就職したばかりの小室が言った


「イザークさんが場所取りしてくれましたからー」
女の子たちが楽しげに話した


「ひる から…」
仏頂面のイザークが答えた


「おつかれさん」
豪法寺は、 ビールの缶を渡した


イザークはぷしゅっと開けると、いっきに飲み干す


女の子たちがくれたじゅうすは甘すぎて
のどがいっそう渇いていた


「ん?」

気がつくと女の子たちにじーっと見られている


「ビールのCM見てるようだわ」
長谷までが照れたように言った


「しぃえむ?」


「イケメンがね、ぐいぐいとビールを飲むんですよ」

「でもイザークさんのほうが絶対素敵です」

「一晩中でも見ていたいわ…」


うっとりとみつめられて
イザークはすっかり困ってしまった




「モテんな、やつぁ…」
豪法寺が言った

「当たり前だろ…めったにねぇほどのいい男だ」
めっぽう強いし…それにしても

「今日の奴は、あの晩の時みたいだな」
小室が言った

藤臣たちのお披露目の時はなんだか雰囲気が違ったが
今は、豪法寺のところで仕事をした時に戻っている


「そいつはよー、そのうちわかるぜ」
豪法寺が笑う

「おめぇ、こないだの日曜、こなかったもんな」








前の日曜日に藤臣たちの引っ越しを手伝った

引っ越しと言っても
家具や食器など必要なものは全部揃っているので
衣類と本や勉強道具などを新居に運ぶと
あとは残った家具や電化製品その他諸々を処分をするだけだった
イザークも手伝いに来ていた



荷をほどく手伝いをしに
ノリコは直接新居へ行った

「でも家具とか全部捨てちゃって、本当にいいの」
荷物を整理しながらノリコが聞いた

「うん…前の家から持って来た古いものばかりだし」

それに…

「ここのマンションの人たちが戻ってくるまでに
 住む場所をみつけて、少しずつ買い揃えようって…」

二人のものを…

藤臣くんがそう言うの…

千津美は嬉しそうに微笑む


「幸せなんだね…」

千津美の幸せそうな笑顔に
ノリコもなんだか嬉しくなって言った

「千津美、すごくきれいになったよ…」

「えっ…やだっ典子ってば…」

千津美は赤くなる



「あ…あのね、藤臣くんがね…言ってくれたの…」

「うん、なにを?」


これ以上ないというくらい赤くなりながら
千津美が小さな声でいう

「わた…わたしのこと、好きだって…」
愛してるって…

「うわーっっ、それってすごい」
よかったね、千津美…


「うん」
藤臣くんの気持ちはわかっていたけれど
言葉にしてもらえたら、すごく嬉しかった…

千津美にはそれが宝物のようなものなんだ

自分はイザークに毎日のように言われている
それはそれでとても嬉しい…

人には人それぞれの愛し方がある
イザークと功のそれは、形は違うが
相手を想う強い気持ちは変わらない


荷物整理は大したことはなかったので
すぐ終わった
そろそろアパートのほうが片付くから
あっちのお掃除にいくことにした


「でもさぁ…千津美」

「えっ」

「いいかげん『藤臣くん』って呼ぶのやめたら…」

「えーっ、わたしそう呼んでたの?」
気をつけてるのに…
千津美はちょっと落ち込むが

「いきなりは無理だけど、少しずつね…」
ノリコが笑って言った




相変わらず片手で冷蔵庫を抱えるような馬鹿力を発揮して
イザークはひょいひょいと荷物を運んで行く
その表情はひどい仏頂面だったが…


「ったく、奴と来たら…」

豪法寺が呆れて言った

「今日はやけに機嫌がわりぃようだが…
 女房とまたけんかでもしたんじゃねぇか」


くすっと功が笑った



すべて車に運び込み、アパートが空になった頃


「こんにちは」

明るい声がした


ノリコと千津美がやってきた

「あ、豪法寺さん。イザークがお世話になっています」

ノリコがニコリと笑う


「いや…べつに世話なんか…」
丁寧に挨拶されて、なぜだか豪法寺は赤くなった


「あっちは片付いたのか」
功が聞いた

「うん」
答える千津美と功の間の空気が
今までとは微妙に違うのが感じられる



「うふっ」
それを見てノリコが微笑んだ


「何を笑ってる」
ふわりと優しく肩を抱かれた


「だって…イザークだって気づいてるんでしょ」

「ああ…」


「よかった千津美…幸せそう」

「功のやつもな…」




「そろそろ車を出す…」

そう言って振り向いた豪法寺があっけにとられた


あの仏頂面はどこへ行ったんだ
イザークのやつ、なんて顔で微笑う
なんて目でノリコを見る…


「ああ…イザーク、悪いが」
功が言った

これから、車に積んだ荷物を店に持って行って
おろす作業がまだ残っていた


「ん」

と言ってイザークはノリコから離れた


車に乗り込んだイザークは
以前にも増して無愛想になっていた







「えっれぇわかりやすいやつだぜ、あいつは」
豪法寺が言って

わけがわからん、と小室が見る




「遅くなって、ごめんなさーい」

千津美と功が現れた


功は一旦うちに帰って、軽装に着替えてる
千津美がこしらえた弁当を両腕に持っていた


「あら、大丈夫よ」

「典子さんもまだ来ていないし…」



「あ、典子はもうおうち出たんだけど
 渋滞にあっちゃって遅くなるって…」

父親の携帯から、連絡があったと千津美が話した

「えっっ」
「じゃあ…」

友人たちが不思議そうに顔を見合わせる


その時

がばっと、イザークが立ち上がった



「きゃあ」

いきなりなんで、なんだか吃驚して
彼女たちは悲鳴をあげてしまった


「な…なに?」


「ちょっと」
と言ってイザークは立ち去って行った


呆然とそんな彼を見送る




渋滞を抜け出してやっとたどり着いたが
駐車場などどこも満車で
仕方なく道路のあまり邪魔にならないところへ
車を停めた
長くは停められない


「おまえひとりでは、無理だろう。全部持つのは…」

ノリコの父が言う


料理のお重やタッパーは
両手に余る量だ
皆へと、一升瓶を持って来たが
これでは…

手伝ってやりたいが…車をここに置きっぱなしにするわけにはいかない…

「千津美さんに連絡して、功くんにでも来てもらえ」
と携帯を差し出した



「大丈夫…」

ノリコが言った

「来てくれる…」



車のトランクを開けて、荷物を出したころ

気がつくと、典子の横にイザークがいた



荷物を全部抱えたイザークに
寄り添って歩く典子の姿が視界から消えて行った


「遠耳か…」

父親が笑って見送った



「こんばんわ」
ノリコがみんなに言った

「今日はいい天気で、暖かくて良かったね」

明るく笑う


後ろには荷物を抱えたイザークがいた


女の子たちは目を見合わせた








   
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