出会い その後 16




「きれいだね」

「ああ」



周りでは酔っぱらった集団が嬌声をあげたり
踊りだしたりと騒がしいが


二人は気にならなかった


ノリコはイザークの身体に頭をもたれさせ
桜の花を見上げる



あたし、少し酔ってるかな…
こんな風にイザークに平気でくっついて

お父さんがくれたお酒を、 イザークは結構飲んでいるが
一向に酔っている様子はない

あたしは、それを少し貰ってほんの数口飲んだだけなのに
なんだかぽぉっとしてきて
恥ずかしいという感覚がちょっと麻痺しているような気がする



ライトアップされた桜の花は
昼間とはまた違った妖しげな美しさを醸し出していた



「あと数日するとね、花が散り出すの…
 こうして咲いているのもきれいだけど
 花の散る様子もすごく、素敵なんだ」

ノリコがしゃべりだす

「花吹雪とか零れ桜とかいってね、きれいな言葉でしょ…
 あたし小さい頃から
 花びらがいっぱい舞い落ちる中にいるのが好きだったなぁ 」

桜の散る中をはしゃいでくるくる廻っている
幼い自分の姿を思い浮かべた




そよっと優しい風が吹きはじめ
花びらがはらはらと舞い落ちる

「あら、急に風が…」

「でもきれい…」

女の子たちが嬉しそうに言う


あたり一面に桜の花びらが舞い
幽玄な雰囲気の中…
ノリコはうっとりとその世界に浸った


数分すると風はやみ、花片が落ちるのは止まった



「ありがとう…イザーク」


あたしが望んだら
お月さまでも取ってくれそう…




「イザークが好き」


ずっと前の自分に戻って、そうつぶやいてみた
あの時のあたしは必死で思いを告げたんだ

イザークが好き…

その気持ちは今も変わらない
でも今はその想いがちゃんと受け入れられることを
あたしは知っている


ただそれが嬉しかった


こんな時はいつも不安を覚えるのに
酔っているせいなのかな…
めまいがしそうなほどのしあわせを、すっと享受出来る



「あたしはイザークが好き」

くすっと笑ってノリコがつぶやいた




「ノリコ…」

イザークが囁く


「少し酔ったな…」

だが…
そんなおまえも悪くない…


声がした方を見上げる

イザークの微笑みが優し過ぎて
なんだか、泣きたくなった




深夜近くにお開きになった
明日はもうあっちへ帰ると言うあたし達に

千津美と功が少し寄って、と言う


駅へと向かう他の人たちと別れて
四人は近くにある千津美と功のマンションへ歩き出した




「ノリコ…」

少し難しい顔をしたイザークが聞く

「往生際が悪い…は日本語で、なんと言うんだ」

「?」



「功、どこか人目につかない場所がないか」

「ああ…」


功も気づいたらしい



人前で恥をかかされたその集団は
そのまま引き下がるつもりはなかった


人影に潜んで、ずっと彼らを監視していた

特に仲間を投げ飛ばしたイザークと
脅した功を
徹底的に叩き伏せようと狙っていたのだ


功に誘導されて
四人はもう人気が無くなった公園へ足を踏み入れた



「功…ノリコを頼む」


「おれが相手をする…」



無視して、逃げ出すことも可能だったが

こいつら…
少し痛い目に会わせたほうが
この世のためになりそうだ

ったく、どこの世界にも必ずいるのか
こんなくだらん奴らが…



公園の中央に立ったイザークの周りを
手に金属バットを持った十数人の男たちが、 囲い込んだ




「あんたたち…おうじょうぎわ わるい…」

イザークはニヤッとわらう




「典子…」

青くなった千津美に、ノリコは微笑ってみせた

「大丈夫…」

イザークは強い…とても強い





バットを振りかぶって来る男を余裕でかわしながら
他のやつの叩き付けてくるそれをばしっと受け止めると
ぐいっと引っぱってから、そのままそいつの身体をついた


それはイザークの独り舞台だった
ひとり…またひとりと倒れていく



「イザーク、楽しそう…」

千津美がつぶやく


彼は…遊んでいるかのような
楽しげな表情だった


「や…やろう」

リーダーが 拳銃をだした



「あ…危ない、イザーク」

思わずノリコが叫ぶ



拳銃が火を噴いた瞬間

イザークは気をめぐらせ、銃弾をはね返した



「ば…化物」

そう言うそいつを殴り倒して

「終わった」

イザークは手にしたバットを投げ捨てた






「なにをしている」

その場を去ろうとすると
功がしゃがみこんで、イザークの投げ捨てたバットになにかしている

「い…いや」
と言って功は立ち上がった


心配はないだろうが…
取り敢えず、指紋を拭い取った





千津美と功のマンションでお茶を飲みながら

イザークが功に言った

「剣を…」

功が寝室に隠してある剣を持って来る


「功は一度この剣を通して、おれの心を読み取ったことがある」

イザークはそう言って功をみた



「もし、なにか伝えたいことがあれば
 剣をかまえておれの心に語りかけろ」

わかっているな…と言うイザークに
功はこくんとうなずく

「イザーク…」

問うように見るノリコに
イザークは笑って

「おれたちのようにはいかんが…
 漠然とした意志は通じると思う」

「ただし、おまえたちは直接は連絡できん」

すまんな…

と言った

「ううん…」
ノリコは顔をふるふると横に振る

イザークは
あたしのために、みつけてくれたんだ

千津美と連絡出来なくなると思って落ち込んだあたしに
そのうち通信出来る手段をみつけてやると言った
あの言葉を忘れずに



いつだったか…雨の一日
まだ使命を終えていなかった旅の宿

旅立つことが出来ずに宿に閉じ込められたあたしたちは
ベッドの傍に座り込み
いつものようにあたしがぺらぺらおしゃべりしてたんだ
あの時は、こっちの世界のことをいろいろ話した


イザークはベッドに肘をついて
そんなあたしの話を興味を持って聞いていた

やがて、ぽんとあたしの頭をたたいて

いつか二人でおまえの世界へ行けたらいいな

と静かにつぶやき、あたしを抱きしめてくれた…


生まれた故郷から遠く離れたあたしを思って
なぐさめてくれたんだ
その時はただそう思っていた



けれど、イザークはその言葉を忘れずに
あたしをここに連れて来てくれた


イザークは決してお座なりな言葉など言わない
あたしの我がままでさえ、いつも真剣に叶えてくれようとする



千津美たちに別れを告げて
帰ろうとイザークはチモを呼んだ



「イザーク」

ノリコはイザーク に抱きついた

「ど…どうした」


「ありがとう」


「本当にいつもありがとう」


イザークは両腕をノリコにまわし
きつく抱きしめた













不法滞在者隠匿、証拠隠滅、銃刀法違反
イザークのために功がどんどん罪を重ねていきます
   
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