出会い その後 17

元凶が消えて以来、ザーゴの国に平和が戻ってきた




ジェイダの館も、穏やかな時が過ぎていく



「待って下さい…警備隊長」


事務官がアレフにすがりつく


「あの男の、無届け欠勤、勝手な遅刻と早退…」

「すべて容認しろということですか…」




アレフがにこりと言った

「でもその分、給金から引いてるんでしょ」

「しかし…」

「契約でも認められてるって聞いたけど」

「けれど…」

「必要な時はちゃんといるから、いいんじゃない?」



イザークが警備隊に入って半年近くなるが
相変わらずのマイペースだ



隣国との折衝が佳境に入って
ジェイダの警備も忙しかった


イザークは一緒に警備にあたるはずだったが
直前に断って来た


断りを言いにきた彼の様子が変で
気にはなっていたが…


ここ数日、姿を見せないと聞いて
アレフは本当は心配していた


事務官にはそんなことはおくびにも出さなかったが






アゴルとバラゴに
その理由を知っているかと聞いた



二人はイザークの代わりに隊員たちに剣の指南をしていた



「あいつ、いまガーヤのところだぜ」

「ノリコが困って、ガーヤに助けを求めた…と
 いうのが本当のところだが」



「あんた、まだ知らなかったんか…」

逆に驚いたように聞かれた




「いったい何なんです…?」




「ノリコが妊娠したんだ」




はぁーっとアレフは驚いて

「それは初耳ですね…でも、めでたい」

と笑う




けれども二人は
冗談じゃないとでも言うように

真顔でふるふると顔をふって言う



「イザークの過保護が暴走しちまって…」

とうとうノリコもガーヤに泣きついたということだ








数日前のことだった

仕事から帰ったイザークに
いつものようにノリコが抱きついてきた


「お帰り、イザーク」


そんなノリコをぎゅっと抱きしめてイザークは言う

「いい匂いだな…」


ノリコは料理の支度の最中で
台所から良いにおいがただよってくる


「うん、今日もみんな来てくれるかな♪」

ノリコはたくさん夕食に集まってくれるほうが嬉しいらしい



おれはたまには二人だけでもいいかと思う…

だがノリコがそのほうがいいなら別に構わないが…




普通なら、そこでノリコはおれから離れて
夕飯の支度に戻るはずだった



今日のノリコは離れようとしない


「イザーク…」


おれの胸に顔を埋めたまま
ノリコが言った


「どうした…」


「あのね…あたし」

おれの背中にまわした手に力がはいる


「なにか、あったのか…ノリコ」

おれは心配になり、そう尋ねた




「あたし…」

赤ちゃんができたみたい…


消え入りそうな声でノリコが言った










数秒なのか、数分経ったのか
わからなかったけど
イザークが何も言ってくれないので
ノリコは顔をあげた




恐ろしいほど真剣な表情のイザークの顔が見えた

元凶に立ち向かう前の時のような
緊張感すらただよっている


「イザーク…」


喜んでくれるかな…って
一緒にあたしたちの赤ちゃんの誕生を
楽しみに待とうと言ってくれると…思ったのに

嫌なのかなぁ…
子ども嫌いだったのかしら






「何をしている…ノリコ」

真顔でイザークが尋ねた


「えっ」


「今、何をしてる」


「りょ…料理を…」


「そんな必要はないっ…」


イザークはノリコを抱き上げると寝室へ向かい
そぉっと彼女をベッドへおろした


「イ…イザーク」


「ここで大人しくしてるんだ…」





夕飯にいつもの面々が集まって来た


「ガーヤ」
イザークがガーヤに呼びかけた


「なんだい…?
 ところでノリコは…」


「悪いが夕飯の準備をしてくれるか」


「別に構わないけど…
 ノリコ、どうかしたのかい」


イザークは答えなかった




その日の夕飯は何気に気まずかった


ノリコがいないせいで
イザークの仏頂面に拍車がかかってた

そもそもなぜノリコがいないのか
説明がされていない

けれどイザークに聞くのは
なんとなくはばかれる








「あの日はあんたは、仕事でこれなかったしな」

アゴルが、アレフに言った


「運がよかったってぇことよ」

バラゴも情けなさそうに言った




そういえば、数日前バーナダムがひっそりと

「当分はノリコのところへ夕飯にいけない 」

と言ってた


忙しかったんで、あまり気にも留めずにいたんだが










食事が終わって


「片付けようか…」

ガーヤが言うのをイザークが制して


「おれがするから…かまわん」



それから…やっとイザークが話しだした

「みんな…」


「ノリコが妊娠した」



その場の空気がほぐれて

「それはおめでたいじゃないか…」

「よかったな、イザーク」


みんなが祝福を言おうとした…のだが



「悪いが…」

そんな雰囲気をばっさりと断ち切るように
イザークが言った


「当分は、ここへくるのも遠慮してもらいたい」

ノリコに負担をかけたくない…と






「あんな、恐ろしいほど真剣なイザークは初めてでよぉ」
白霧の森でのほうがまだ余裕があったぜ…

なんて言っていいかわからなかった

とバラゴが頭をふる



「ジーナが、ノリコの赤ん坊は無事産まれると占っても」


イザークはまるで聞く耳を持たん…

アゴルも諦め気味に言った












毎朝起きると、功はまず剣をかまえる

イザークから教わったすべてを
ひとつひとつ思い出しながら…


「ん…?」




「千津美…」


朝食の用意をしている千津美に功が話しかける


「ど…どうしたの?」


相変わらず、おれが話しかけただけで
焦って味噌汁にまだ切っていない豆腐を放り込んでる


そんな千津美をそっと背中から抱きしめて
功が言った


「ノリコが妊娠したらしい…」


「えっ、ノリコも…」



   
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