出会い その後 20



「考えてみればねぇ」

ノリコたちの家からの帰り道、ガーヤが言う

「あの二人、出会ってからずっと一緒にいたんだよねぇ
 今さら、イザークが一日中傍にいるからって
 ノリコの負担になるはずもないのにさ…」

自分の独り合点を、恥ずかしく思うガーヤを

「おれたちだって、話を聞いたときは
 そうだと思ったんだから…」

同類だよ、とみんななぐさめる

「ジーナにはわかってたんだ」
アゴルが言った

「うん、お姉ちゃんがイザークのこと嫌がるはずないもの…」

「ったく、大人って奴は妙に先入観にとらわれるから、よくねぇな」

「あら、あんたでも反省するんだね…」

「んだと…?」

あはは…と笑い声が夜空に響く


「それにしてもイザークの奴、自覚ないみたいだな…」

話には聞いていたが、実際目の当たりにして
すごい過保護っぷりを、アレフは逆に感心してた

「一人で歩かせもしないとは…」
いや、まいったな…


「功のやつもいい勝負のようだが」
イザークよりは、冷静なやつかと思ってたんだが

「まあ、千津美だから…」

みんな、なんとなくなっとくする


あの二人、今頃どうしているんだろう…






「そうか、めでたいな…」

「おれっ…おじさんかよ」
「あたしなんか、おばあさんよ…」

「ひいおじいさんになれるとはな…」 


妊娠したことを報告をすると
こっちの家族は、相変わらず明るく受け止めてくれる


『ノリコ…』

イザークはノリコに促した

『あ…うん』



「あ…あのね」

ノリコが真剣な顔で話し出した

「子どもはもしかすると天上鬼の血を
 受け継いでいるかもしれなくて…
 そしたら、普通の人間の子どもではないかもしれないので…」

しどろもどろでノリコが話し出すと、みんな静まりかえった

「イザークが、すごく気にしてるの…
 もし、みんながそれがいやだったら」


「いやだったら、どうすると彼は言っているんだ」

父親が聞いた

「イザークはもう二度とみんなと会わないつもりなの
 あたし一人が帰れるようにするって」

他にどういう形で責任を取っていいかわからん…
イザークはとても淋しそうに言ったの


典子の横にいるイザークを見た

とても真剣な顔をしている



「イザーク…」

父親が直接イザークに言う

「わたしたちは君が天上鬼と知りながら
 典子の夫として、家族の一員として
 君を受け入れたつもりだったが…」

どうやら君にはそれがわかっていなかったらしいな…

「いや おれは ただ…」

「君の気持ちもわからないではないが…
 君にも、生まれてくる子どもにも罪はない」

にこっと微笑む

「責任を取るというのなら、典子をお腹の子どもと一緒に
 もっと大事にしてやってくれ」


「だめっ!お父さん…」

慌ててノリコが叫んだので、父親がびっくりする

「そんなこと…言ったら、だめだよぉ」


「?」




「イザークさん!」

突然母親がイザークの手を握った

「!」

「典子を…典子のことを、これからも宜しくお願いします…」

ぽろぽろと涙をこぼしている

「お母さん…」

17歳の時に突然目の前から消えてしまった娘が
今…母親になろうとしている
とても幸せそうな様子で

「典子がイザークさんと会えてよかった…」



「おかあさん…」

イザークはその腕を引き寄せて母親を抱いた
ノリコ以外の人間にそんなことをしたのは初めてだった

「あっ」

突然のことで、母親はびっくりして赤くなる

「やくそく…まもる」


ノリコも他のみんなも
そんな二人を微笑ましそうに見ていた



どうしてこの家族はこう難なく
おれを受け入れてくれるんだ…

ふとある疑問が頭をよぎった…


イザークは母親を腕から離すと

「ノリコ…」

「うん?」

「彼らは、天上鬼のことを本当に知っているのか」

「えっ」


イザークは真顔でノリコを見る

「し…知ってるにきまってるよ
 ちゃんと日記に書いたもの」


ノリコは家族の方を向いて聞いてみる

「みんな天上鬼のこと知ってるよね?」

「そりゃあ、おまえの日記読んだからな…」



「髪の色が変わるんだろブルーグレイに…」

「皮膚は青みを帯びた黒よね…」

「うろこのようなひび割れが出来て…目が光るような水色…だったな」

「でも最初は瞳が細くなって、牙が出るんでしょ」

「爪の形が変わるのはその後か…」

「何段階か形態があるんだよな」

「占者の館でのが、 今までで一番進んだ状態だったらしいな」

「でもそれ以上にもまだなれるんでしょう」

なんだか楽しそうにペラペラしゃべりだす家族に
ノリコもイザークもあっけにとられる




「死ぬ前に一度見てみたいもんじゃなぁ」

おじいさんが明るく言って
その場が、しんと静まり返った


「お…おじいちゃんたら…」
ノリコが青くなって言うが



「え…と、わたしも実はそう思ってたのよね」
赤くなった母親がつぶやく

「変身してもノリコが抱きつけば
 すぐもとに戻れるんだろ…」
頭を掻きながら、兄が言う


「後学のために…もちろん、出来ればだが」
父親までが少し遠慮がちに言った



「もう!みんなったら」

ノリコが怒って叫んだ


「天上鬼になるたび
 イザークがどんな辛い思いをするかわかってんの?」


「いやぁ、悪い」
あはは、と父親が笑う

「笑い事じゃないんだから!!!」


ノリコが心配してイザークを見る


イザークはなんだか困った顔で悩んでいる

「あーーっっ…イザーク
 もしかして、本気で考えてる?」


「だが…」

せっかく自分を受け入れてくれた家族が望んでいるのなら
応えたほうがよいのだろうか…


「だめっ!」


ノリコに言われて、みんな諦めた






電話が鳴って千津美が取った
なんだかひどく恐縮している

誰だ…こんな朝早くから
気にはなったが、功の頭の中は別なことでいっぱいだった

今日、千津美は大学へ行くと言っている

行くな、とは言えん

昨夜はなかなか寝付かれなかったので
夜中に起きて剣を抜いてみたら
少し気持ちが楽になった…

けれど今朝起きると、やはり気になって仕様がない

本人には何も言ってない
言えば焦ってもっと酷いことになるだろう

母さんや彼女の友人に頼んだところで
あいつが倒れる前に受け止めることなど無理だ

なんとか言い訳して仕事を休むことも可能かもしれんが
毎回と言うわけにはいかないし…

は…とため息が出てくる


「あれっ、食欲ないの?」
千津美が戻って来て訊いた

「あ…いや」
朝食にまったく手をつけていないことに気づき
慌てて食べ出した

「電話、誰からだったんだ」

「うん、あのね…典子たち帰ってきてるんだって」

安定期になるまで実家にいるらしい…

「そうか、それはいいな…」

イザークや家族に護られている典子が羨ましかった


「それでね…どうしてだかよくわからないのだけど」

「なんだ?」

「イザークが
 わたしのこと大学まで送り迎えしてくれるって言うの」

「!」

「チモを使うから、そんなに大変じゃないって…」







場所がわからん、とイザークが言うので
ノリコが父親の車で千津美の大学へ行き
人目のない場所に立っていた

もちろん、父親がその腕を取っている


「しかしなぁ…」
父親が呆れたように笑った



今朝かなり早く二人はやって来て
みんなで話した後、朝食を取った

食後、後片付けをしようと母親が立ち上がると
いつものようにノリコも手伝おうと…したのだが

イザークがちらっと見ると
そのまま椅子に座り続けた

代わりにイザークが皿を集める

ノリコの母は、かなり戸惑っていたが
皿を洗い出したイザークの横で
皿を拭き始めた


ノリコが食卓に座ったままだったので

「どうした、こっちへこい」

父親が居間から声をかけた


するとイザークが手を拭いて
ノリコの腕を取ると、居間のソファに座らせ
また台所へと戻って行った


「…」


ノリコは赤くなって顔を伏せていた


後片付けが終わったイザークが
みんなに言った

「のりこ あんていき まだ」

だから…

「ひとりでうごく…」

みんなの顔を見て

「だめだ」

はっきりと申し渡した




「あっちでもああだったのか?」
おかしそうに、父親が訊いた

「うん」
恥ずかしそうに、ノリコが答える

「妊娠がわかってから、ずっと傍にいてくれる」

「大事にしろなんて、言う必要なかったわけか…」

「そうだよ…」

これ以上大事にされるなんて、考えられないもの



ヒュッと千津美とイザークが現れた



イザークがノリコを連れて帰るというので
父親は一人で戻って行った



「大丈夫なのか…」

大学の建物を見てイザークが言った


「ここ、バリアフリーになってますから…」


「ばりあふりい…?」


「あたし妊婦ですから、エレベータも使わせてもらえるんです」

ニコッと千津美が笑う

「でも、足元には気をつけてね」

「うん、ありがとう」

迎えの時間を確認して、ノリコとイザークは消えた






「どうだった」
仕事から帰った功が訊いた

「うん、ちゃんとイザーク来てくれたよ」

でもなぜか落ち込んでいる

「なにか、あったのか?」

「イザークに…怒鳴られちゃった…」



約束の時間に遅れてしまった千津美はかなり慌てていた

待っているイザークの姿を見て
駆け出した途端、思いっきりつんのめった

けれど、なぜか地面に倒れる前に
ふんわりと浮いたまま、身体が止まった

気づいたイザークが気をめぐらせたのだった

イザークが駆け寄って

「なぜ、走るっ!」
と怒鳴った

「もっと自分の身体とお腹の子のことを考えろ」


ほんとだよね、もっと気をつけないと…

しきりに反省する千津美を見て功は気づいた
おれが妙な気をまわさないで、言っとくべきだったのだ

結局おれは、なにもかもをイザークに押し付けたのだろうか

でも、なぜだか彼がそれを嫌がってないような
そんな気もした






季節は秋だった

千津美と功が、つきあい出して6年目を迎える時
典子と家族には、典子が消えて4年目の秋だった



「おじゃまします〜」

玄関で声が聞こえたので、母親が出て来た

「あら、あなたたち…」

典子の友人が揃って来ていた


不思議そうな典子の母親に

「おばさん、もしかして忘れてた?」
意外そうに友人の一人が言った


今日は、あの爆破事件があった日だった


毎年、その日には典子の友人が家に来て
思い出話などして帰る習慣になっていた

「あら、いやだ…言い忘れてたわね」

「言い忘れたって…なにを?」

友人たちが不思議そうに訊く


「典子、帰っているのよ」


「!」




居間に案内されるとそこにノリコが座っていた


「典子…」
友人たちがみな驚いてノリコを見た


「あ…みんな、元気だった?」
ノリコがニコッと笑う


だっとノリコのもとへ駆けつける


「ど…どういうこと?」

「いったい、なぜここにいるのよ」

「ちゃんと説明しなさいよ!」



「あ…あの」


こちらへ戻って来られるようになっても
昔の友人たちへ連絡が取るのがはばかれた

いわゆる「反政府主義者」の言い訳が
当時のノリコのことをよく知る彼女たちには
通じないような気がしたからだ


「心配したんだよ、あたしたち」
「でもまた会えて嬉しいよぉ」
「良かった…本当に」

泣いてくれる彼女たちに
なんだか悪いことをしたような気になった


仕様がないので例の話をした
けれど、やはり彼女たちはなかなか信用しない


「じゃあ、あの頃すでに彼と出会ってて
 駆け落ちの用意ができてったわけ」

「そんな緊迫感、全くなかったよね」

「あのおとぼけもんの典子が
 そんな恋愛してたなんて…」

あり得ない、とみんな言う


「異世界の夢の話の方が、ピンと来るわよね」

「そうよ、典子のお父さんの小説読んだとき
 これだって、思ったもの」

「あれは、やっぱりあたしの夢の話を聞いていた父が
 創作した小説なんだよ」


「だいたいその話が本当だとしてもさ
 その彼氏って、まだ高校生の典子を
 親元から離して平気っていうのがうさんくさいわよ」

「そうよね…まともな人なら愛する彼女のために 
 卒業するまで待つくらいしてくれるよね」

「自分勝手っていうか…」


「イザークは悪くない!」
彼が悪者にされて思わず、ノリコが叫んだ

「あ…あたしが勝手に飛ばされて…」

「飛ばされて…?」


「あっ…いえ、あの…飛び込んだの…彼の胸へ」

「もしかして、片思いで…?」

「うん、最初は…」

「じゃあ、あの爆弾とかって、まさか典子が作ったの?」

「ち…ちがう、えーと…彼が…」

「典子のこと好きでもないのに、そんなことしてくれたわけ?」

「優しい人なの!」

「…」

友人たちの疑い深い視線を受けて
いつものノリコの癖が始まり、ぺらぺらしゃべり出す

「あ…あのね、
 本当はあたしのこと、厄介だなとか思ってたんだけど
 でも すごい優しい人で、無視するとかできなくて
 それでね、あの時もあたしのために
 その…助けてくれて
 一緒に走って逃げてくれたのよ」

「…」

「そ…そしてね、結局あたしのこと
 そのまま、いろいろ面倒見てくれたし
 言葉も教えてくれて…」

「言葉?」

「彼、日本語あまり出来ないから…
 だったらあたしが彼の言葉習おうと思ってね」

「ねぇ、典子…なんだか、あんまり話に筋が通ってないよ…」
「 好きでもない女の子のこと
 なんでそこまで面倒見る必要あるの?」
「いくら優しくても、親元に送り返すのが常識でしょ」


「でも、あたしが泣きそうな顔でいつも必死ですがりついてたから…
 彼ほっとけなくて…」

「そこまで、好きだったの?」

「うん」

「で、今どうしてここにいるの?」

「それは…実は…」

じーっと見られて赤くなった

「赤ちゃんが出来て…」


友人たちは、はーっとため息をつく
「典子…」
「世間からずれてると思ってたけど…やっぱり」

なんだかすごい同情の目で見る

「?」

「それで捨てられちゃったのね…」
「でも良かったじゃない、やっと帰って来られて」


「ち…違う」
ノリコは友人たちの誤解に慌てた

「あたしたち、この春に結婚したの…」

「結婚ですって?」
「なんで今さら…」
「そろそろ子どもでも作るか、とか計画的に?」

「やっだぁ、そんなんじゃないよ
 結婚したから、出来るの普通でしょ」

「まさか結婚するまで
 そういう関係じゃなかったとか言わないでよ」

「へ…変なこと言わないでよ…
 結婚もしてないのにそんなこと…」


「…」


「ねえ、やっぱりおかしいわよ…あなたの話」
「四年間もずっと一緒で
 今さら結婚して初めて結ばれたっていうの?」
「それまで一体なにしてきたのよ、二人で…」

「な…なにって…」
遠慮のない質問が畳掛けられて、ノリコは途方にくれる


ああん、もう…どうしていいかわからないよ
イザーク…




今日も千津美を大学からマンションへ運んだ

「今日は、功が早く帰ってくるから」
お茶でも飲んで待ってて、と千津美が言った

ノリコは家族といるので、イザークの気持ちにも余裕がある
久しぶりにあいつの顔を見てやろうか、と思っていたが…


「ん?」

イザークがふりかえる

「悪いが、功にはまた来ると…」
それだけ言うとイザークは消えていった






友人たちの背後に、シュッとイザークが現れた

運良く誰もそれを見ていない



「呼んだか、ノリコ」

いきなり背後から声が聞こえたので
みんな後ろを向いた


見慣れない女の子たちにイザークは視線を合わせた

友人たちは固まって、誰も何も言わない



「ひろみと利恵ちゃんと昌子…あたしの高校時代の友人
 みんな、あたしの夫のイザークよ」

ノリコが紹介した


名前がなんとなく記憶にあるな、とイザークは思った

「はじめまして」
と言ったが返事は返ってこなかった


彼女たちの横を廻ってノリコの方へ行った

友人たちは視線を彼にあわせたまま
イザークの動きにあわせて、顔を動かす

その長い足をもてあますように、ソファに座ると
みんなポッと赤くなった


さっきまであんなに質問しまくってたのに…
今は息さえ潜めている

「どうしたの、みんな…?」

「えっ」
「その…」
「ちょっと」
間が悪そうな返事をした後

「わかるわ…ノリコの気持ち」
ボソッとひろみが言った

「?」

「狂言でもなんでもしたくなるわよね…」
利恵ちゃんもつぶやいた

「家族捨ててでも飛び込んでいきたいわ」
昌子がため息をついた

「…」


「ただずっと彼の傍にいたいよね」
「四年間、何もなくってもさ」
「毎日、顔が見られたら充分だよ」

「…」




「あ…お茶を」
イザークに飲み物がないと気づいて
ノリコは条件反射で立ち上がろうとした

「ノリコ…」
はっと気づいてまた腰をおろす

「自分で…」
と言ってイザークは立ち上がって台所へ行った



「ど…どうしたの?」
「なんか今、恐かったよ」
「怒ってるの」


「違う…彼、心配性で」

「心配…なんで?」

「安定期に入るまでは、なるべく動かないようにって…」

「お茶くらい、持って来れるでしょう」

「うん…でも足を滑らせたらどうするとか…」

「待ってよ、じゃあ掃除とか洗濯とか…」

「家では全部彼がしてくれた」

えーっと驚いた声をあげて言う

「愛されてるじゃないの…典子」


「うん…すごく」


あっさりと、そして幸せそうにノリコが肯定したので
みんな、なんだかあてられてしまった



イザークが戻って来て、みんなの分も新しくいれたお茶を
手慣れたしぐさで配った

みんな恐縮してしまって動けない

再び横に座ったイザークにノリコが言う

「あのね、イザーク
 今日、覚えてる?」

「うん?」

「あたしがイザークのところへ行った日だよ
 彼女たちあの時一緒にいたから
 毎年この日に訪ねてきてくれるんだって」

「ああ…」

ノリコの考えたシナリオを思い出した
確かおれはかけおちするために、火薬玉を作ったんだったな…

「しんぱいかけた…すまん」

友人たちに目を合わせて言った

彼女たちは、ふるふると顔を横に振ると

「あたしたち今とても嬉しいです」
「典子ってば、イザークさんに大事にされてるし」
「本当に幸せそうなんですもの」


そんな友人たちの気持ちが嬉しくて
ノリコの瞳は潤んでくる

イザークがそっとノリコの肩を抱いた


友人たちはそんな二人をっぽぉっとみつめていた





「典子、応援するからね」
「 元気な子を産んでよ」
「また会おうね」

そう言って彼女たちは帰っていった



「見た?」
「見たわよ…」
「まったく…」

家から一歩外に出ると、友人たちが顔を合わせる


じゃあもう帰るね、と言うと
イザークがすっと立ち上がった
一瞬遅れてノリコも立ち上がる
その時、彼の手がさっとノリコの背中に添えられた

そういえば、自分たちがここへ来て以来
ノリコはずっとソファに座りっぱなしだった

玄関へ行き、友人たちを見送る間もずっと
その手は添えられたままだった


「エスコートってていうのかしら?」
「家の中でエスコートしてどうするのよ」
「護られてますって感じよね 」
「一人で歩くのもだめって言ってたじゃない」
「少し大げさに言ってるのかなって思ったけど」
「本当に大事にされてるんだ」

はーっと、みんなため息をついた




「やっぱりイザークってすごいや」

友人たちがいなくなった玄関で
ノリコが抱きついてきた

腕を背中にまわして顔を胸に埋めるだけで
身体は触らないように気をつけて…

「え…、おれは、なにもしてないが…」

「あたしが一生懸命説明してもちっとも信じてもらえなかったのに
 イザークを見た途端、納得しちゃうんだもの…」

「?」

よくわからなかったが、おれの顔を見上げて
ニコッと笑うノリコが愛らしく、そのまま唇を重ねた


玄関のドアが開いて友人たちが現れた

「きゃっ」

目の前で抱き合って口づけている二人に驚く

「ごめんなさい、か…傘を忘れて」
「鍵がかかってなかったから、そっと取ろうと…」
「す…すぐ帰るから…そのまま続けて!」

慌てて出て行った


ポカンとノリコとイザークは見送った



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