出会い その後 5





ノリコとイザークが訪ねたとき
千津美はひとりでアパートにいた

「藤臣くんは、バイトなの…」
手を口に持っていって赤くなる

あの世界から帰ってきた翌日に
着替えを数着持った藤臣くんが来て

「一緒に暮らそう…」

とだけ言った


「わたしの…せいかも」

あの日、私を送ってくれた藤臣くんが帰る時
とても寂しい想いがしたのだけど
それが顔に出てしまったのかな

いつも彼は私の考えてる事
わかってしまうんだもの…


「千津美だって、功が何も言わなくても
 よくわかってるんでしょ、彼の事…」

ふふ、とノリコは笑う

「そういうのは、お互いさまなんだよ」



お互いさまか…

ノリコらしいな
イザークがふっと微笑う




「藤臣くんは…」
恥ずかしそうに千津美が話している


「ここはやっぱり二人で暮らすには狭すぎるからって…
 広い所に引っ越すために、バイトをしてお金を貯めているの」

来月から就職だから、少しはゆっくりして欲しかったのに


「あたしもバイトに行く…って言ったんだけど」

おまえはまだ疲れているようだから
少し休めって…



こっちの世界に戻ってきた翌日
お昼ごろまで起き上がれなかった
まだお布団にいた時、藤臣くんが来て


「 具合が悪いのか…」

すごく心配してくれて

そうじゃないの…

本当は、藤臣くんと当たり前のように
一緒にいられた時が終わってしまって
なんだか寂しくて…気が抜けて
起きるのがいやになっちゃっただけなのに

でもその事がうまく伝えられなくて
また迷惑かけちゃって…


「千津美ってば…」

ノリコが笑う


「功はちゃんとわかってるよ、そんなこと」

今、あなたが功のために出来る事は何?



「えーっっと

 ご飯つくって…お部屋掃除して…お洗濯して」

あっ、これって…千津美ははっと気づいた

ノリコはにっこり笑った


「功との生活を大事にすればいいのよ」



「うん」


千津美も嬉しそうにうなずいた








ノリコと千津美が仲良く料理をしていると
功が帰ってきた


「おかえりなさい」
赤くなって千津美が言う
なんだか、まだ慣れない…

「ただいま」
功が答える

ノリコに会釈すると
奥の部屋にいるイザークに目を合わせた

イザークはただニヤッと笑っただけだったが
功は少し焦ったように赤くなった






「うーん」
ノリコも千津美もうなってしまう


狭い6畳間に身長も大きいし足も長い二人の男たちが
文字通り、膝を付き合わせて 話してる

イザークは片膝を立てて
功はあぐらをかいている


「典子の家は広かったから…
 こんなふうに感じなかったけど」

「広いって…こことは住宅事情が違うし」


でもなんだか
あの二人、見てて絵になるよね…




「それで… 千津美 けっこん?」

イザークが問う

「いや、まだそれは…」

と、功が言う


「なぜ」

「千津美はまだ学生だし…」

「かんけい ない」

こいつら…一緒に暮らしておいて…
おれも人のことは言えんが…

「なぜ、まつ?」


功がイザークを見る


「さっさとしろ」

とイザークが言った


おれたちとはちがう
おまえたちは自由なのだから


「ああ」
何か考えているかのように、功が答えた









「ごはん、できたよ」


千津美の小さな食卓を囲んで
夕飯を食べた


「なんだか…懐かしいなぁ」
千津美が言った

毎晩のように、ノリコとイザークの家で
大勢と食卓を囲んだ

会話のほとんどはわからなかったけれど
長い間、一人で過ごしてきた千津美にとって
とても楽しい一時であった


「千津美…」
ノリコは何かを言いかけたが
イザークがそぉっと制した


功が黙って千津美を見ている
千津美も気づいて功を見た


そしてとても嬉しそうに笑った


もう一人ではないんだ…と







功が言った

「おれたち結婚式を挙げようと思う」


おれたちまだ学生だし

知り合いだけ呼んで
簡単にすますつもりだが


「あんたたちに、仲人やってもらいたい…」









「仲人って…なんだ」

イザークがノリコに聞いた


「んーっ、結婚式の時、傍にいる人かな」

実はノリコもよくわかっていない

わかっていないながらも
功の真剣さに押されて引き受けてしまった




大体において
功が考えているような式には仲人など必要ないのだが

彼はどうしても二人にその場にいて欲しかったようだ


式は二週間後に決まった





NEXT

出会い

Topにもどる


Copyright © 2008 彼方から 幸せ通信 All rights reserved.
by 彼方から 幸せ通信