出会い その後 6




「いやっ」

「イザークはあたしと会えなくなってもいいの?」


目に涙をためてノリコが言った


「おれは…ただ」

相変わらずノリコに責められると
おろっとしてしまうイザークだった



功達の結婚式まで二週間
自分は仕事があるから一旦帰るが
おまえは家族のもとで少しのんびりしてはどうかと
イザークはノリコに聞いた


ずっと家族から離れて暮らしていた
ノリコを想いやって出た言葉だったのだが

「長い事一人にさせないって
 もう二度と置いていかないって
 約束したよね、なのに…」

ひどい…と怒る


「一人ではないだろう…家族がいるのだから」
イザークが言うが


「じゃあ誰か一緒にいる人がいれば
 あたしのこと置いてっちゃうんだ…」


「そう じゃない」

ノリコを抱きしめて言った

「おれだって、おまえと離れるのは辛い
 だが、おまえの家族にとったら
 それがいいのではないかと思っただけだ」


ノリコは、ううん…と激しく首を横に振った
「イザークの気持ちは嬉しい
 でも家族だって、あたしが毎日しずんでいるのは望まないよ」


「イザークと二週間も会えないなんて…絶対いやっ
 あたしはイザークと一緒にいたい」




結局、二週間後にまた来ると言って
二人は帰って行った


イザークは残るように言ってくれたんだけど…

申し訳なさそうにノリコは言った


構わないよ…おまえが幸せでいてくれたらそれでいいんだ

家族は、暖かく受け入れてくれた


「遠くにいるのに、頻繁に戻って来るよな…」
兄が可笑しそうに言った


「まあ、ありがたいことじゃないの」
母は嬉しそうだ


「遠い、と言っても時間はあまりかからないようだが」
父も笑う


祖父もニコニコしながらお茶を飲んでいる


ノリコたちが姿をみせた時から
立木家に幸せな時間がまた戻ってきた









「君たち、今もこうして離れているときは
 光の世界でつながっているの」

イザークが警備隊に入った日、休憩時間にアレフが聞いた

「あの時はまんまと騙されたよね」
結婚式前夜のことをまだ根に持っているらしい

「いや…あの時だけだ」
少しぎくっとして、イザークが答えた

「ジーナが言うには、あれは光の世界からの結婚祝いだそうだ」
アゴルが言った

元凶と戦い
この世を闇から救い
光の力で満たすために頑張った二人を
光の世界が、あの時 一緒にいさせてくれた

「光の世界ってのも、粋じゃねぇか」
バラゴが笑う


ちなみにバラゴとアゴルも
当然のようにイザークとともに警備隊に入っていた

条件はイザークほど良くはないので
制服を着用している

けれども3人とも「特別隊員」という扱いだった





今朝イザークを紹介された他の隊員たちは面白くなかった
バラゴとアゴルは年齢もいっていて、それなりの経験を積んでいそうだし
いかにも鍛え抜かれたような体格である
それにこの館に度々来たことがあって、ジェイダの家族とも親しそうだ
特別待遇もしかたないだろう

けれどこいつがなんで…
まだ若い…おれたちより年齢が下だろう
こんなに細っこいのに、本当に剣が振り回せるのか
ひどく無愛想なのも気に入らない
第一なぜ制服を着ない
渡り戦士のような格好だ


なんでもグローシアお嬢様と仲良しの
ここにしばらく滞在していたノリコという娘と最近結婚したらしい
なるほど女房のつてか…

イザークはノリコを数度送ってきたが
館の中まで入った事はなく
隊員たちと面識がなかった


イザークが館に来てからというもの
女どもがキャーキャーとうるさい
うっとりとみとれているものもいれば
積極的に世話を焼こうと近づいていくものもいる

隊員たちはそれが一番面白くなかった
普段は手が空いている時に
彼女たちをからかったり、いちゃついたりするのが楽しみなのに
今日の彼女らは彼らを全く相手にしないで
イザークばかりに注意を向けている



隊長は言う
「彼は、君たちの剣の指南もしてくれる事になった
 強制ではないが、向上心を持って参加するように…」


「けっ、おれたちにご指導なさるってか…」

腕におぼえのある隊員が数名集まって
面白くなさそうに言った


彼らはなにやらこそこそ相談して
ニヤッと笑った


その不穏な様子にアレフは気がついていたが

「まあ…下手に親切心を起こしても
 彼らのためにはならないからね…」

放っておくことにした



その日の午後、最初の指南がはじまった

「まず基本の型をやってもらおう」
イザークが言うのを

「おいおい…おれたち初心者じゃねぇんだけど」
と皆笑う

「基本をみれば、あんたたちの癖がわかる…」



「馬鹿にするなっ!」
「何さまのつもりだ…」


数名が剣を抜いてイザークを取り囲んだ

「あんたの剣…どれだけのものか、見せてもらうぜ」

打ち合わせ通り、一斉にイザークに襲いかかる
危害を加える気はなかった
少し恥をかかせればそれで良かった
女たちも、少しは興味がそがれるだろう


ところがあっという間に
全員の剣がはじかれてしまった
「えっ」
あまりの速さに 何が起こったか理解出来ず
皆呆然と突っ立ている


「剣を拾え」
そう言われて、おとなしくはじかれた剣を拾う


「あんた…」
一人にイザークが言った

その隊員はびくっとして
「は…はい」
と答える

「振りかぶる時、肘が外側にむきすぎている」
剣を持った両腕をあげさせ、肘の位置を内側に修正した

「こうした方が無駄がなくなり、正確に狙える」


「それから…」
ひとりひとりに、気づいたことを指摘し
アドバイスしていった



「では、まず基本の型を」
あらためて言ったイザークに、逆らう隊員はもうひとりもいなかった







NEXT

出会い

Topにもどる


Copyright © 2008 彼方から 幸せ通信 All rights reserved.
by 彼方から 幸せ通信