出会い 11





今晩だけは二人きりにしてほしい、と頼まれた
その前の数日間の出来事のせいで
バラゴも反対出来なかった

「ガーヤやジェイダ左大公には、明日おれが謝る」

とイザークが言った


ノリコは千津美と功に言う
「ありがとう、あなたたちのおかげだよ」

「そんなこと…わたしたちはただ、きっかけを作りたくて…」

「でも、功はイザークの気持ちがわかったんだね
 すごいよ」

功がくすっと笑うと
「こいつがいつもしている事を、真似ただけだ」
と千津美の頭をぽんと叩いた

千津美が照れて赤くなった


千津美と功を馬車に乗せてジェイダの館へ出発する前に
バラゴが喧嘩の原因を聞いた

「あっちに行ったら、みんなに聞かれるからな…
 散々心配させたんだから、教えろ」


「あんたたちのせいだ」

「ん?」

「おれたちを離したあんたたちが原因だよ」

にっと笑ってそれだけ言うと
イザークは家の中に消えた

「んーーー」
バラゴはポリポリと頭をかいて

「まっ、いっか。ようやく笑ったしな…」




台所ではノリコがイザークのために
簡単な夜食を作っていた


仲直りの後、二人はもう絶対離れないというように
中庭のベンチに長い事寄り添って座っていた

結局夕食は無しになり
気がついたノリコが恐縮するのを

「いいって、おれたちはあっちで何か食わせてもらうからよ
 それよりイザークになんか食わせてやりな
 あいつあれからずっと食事なんかしてないぜ」

とバラゴが教えてくれた




料理をするノリコを後ろからふんわりと抱きしめた

「イザーク…」

何も言わずにずっとそうしていた



イザークにとっても…ノリコにとっても
久しぶりの食事だった


そして初めてこの家で、二人きりで過ごす時間だった


「話をしよう」と言ったわりには
それ以来二人はほとんど言葉を交わしていない


ただお互いの存在を確かめるかのように
寄り添っていただけだった


食事の後片付けは、イザークも手伝ったので早く終わった

ノリコを抱き上げると、居間の床に座る
ノリコをその腕から離さず
瞳を見つめた

あまりにも近くにあるイザークの顔に
ノリコはドキンととときめく

「おれたちは…」
イザークが話し始めた

「ずっと一緒にいたせいか
 今みたいに、限られた時間でしか会えなくなると
 意思の疎通が悪くなるらしい…」

さっき気がついたと、笑う

「これからはノリコ
 今までとは違う…
 おれは仕事に行って、おまえはここにいる」

ノリコが不安そうな顔をする
そんなノリコの頭にひとつキスを落として
イザークは続けた

「おれは、王女との縁談も仕事の事も
 どうでも良かったので、あえてお前には言わなかった
 けれどおまえにとったら、それはそうではなかったようだ」

「そしておまえが我がままだと思って言い出せなかったことは
 おれは出来れば、すぐに聞きたかった」

「イザーク、ごめんなさい…あたし」

おまえが悪いのではない…と指でノリコの額をはじく

「だから、これからはなるべく全てを言おう、な…」

優しく言われてノリコはこくんと頷いた






「おれは今依頼がきているという仕事は全部断るつもりだ」

「え、でもイザーク…」

「おれはもうおれのやるべき事はしたつもりだ…
 この世はもう闇に支配されてはいない
 それでも起こる争いごとを収めるのは、おれの仕事ではない」



「王女との事も…
 おまえはおれが良い国王になれるといってくれたが
 おれはそうとは思わん…」

「傾国 という言葉を知っているか?」

「えっ」

「おまえはかの国の国民に恨まれたいのか…」

イザークは可笑しそうに笑う



「仕事は前のように、警備などを請け負うつもりだ」

もう渡り戦士ではないが…


「二度とおまえを置いていったりはしない…
 長い間一人に させるなど、絶対にしない
 それは約束する」

お前の為ではない…
おれがそうしたいんだ…


そう言ってイザークはノリコをぎゅっと抱きしめた

「この家で一緒に暮らそう…」




「うん」


ノリコがうなずく




その夜、久しぶりにノリコはイザークに抱かれて眠った











翌日、ジェイダの館に戻ったノリコが
こっそり聞いた

「ねえグローシア、『傾国』ってどういう意味?」









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