出会い 12





「そうかい、よかったよ」
その場にいた全員が安堵の胸をなでおろした

バラゴがジェイダの館に着くと
そこにはガーヤとアゴル親子もいた
イザークの家には行きづらかったので
ここに集まったようだ

そこで今日の午後
バラゴが突然やって来て
嫌がって泣き叫ぶノリコを
無理矢理馬に乗せ連れ去ったと聞き
心配していたのだ


「ま、今夜だけは見逃してやんな」
「しょうがないねぇ…」ガーヤは苦笑する

「あの時は、おれたち結構困ったんですよ」

ジェイダの警備隊のアレフとバーナダムは
館の客であるノリコを拉致しようとするバラゴを
阻止するべきか、行かせるべきか
判断出来ずに、それでもとりあえず止めようかと思った時

「ノリコを無理にでも連れてこい、と功が言ってる」
というバラゴの言葉に動きが止まり
黙って行かせたのだった

「ちぇっ、なんだよ…
 おれよか功の方が信用あるのかよ」

「あはは、めったにしゃべらない奴が言ったんだ
 言葉の重みが違うよ」
とアゴルが笑いバラゴに睨まれた


「しかし、こいつにはイザークの心が見えたそうだぜ」
功を見ながらバラゴが言う

ちなみにさっきバラゴが言った功のセリフは

イザークの剣をはねのけた功が千津美になにか怒鳴り
千津美がノリコ、ノリコと自分にそう必死で叫ぶので
勝手に理解したものだったが、的は得ていた
バラゴもそれなりに人の心をよめるらしい


「ふーん、雰囲気が似てるだけでなく
 どこか通じるものでもあるのかね」

「まあ、女性の好みは似ているようですけど…」

皆あはは…と笑って、久しぶりに明るい会話が交わされた

なんだか自分たちのことが話題になっているらしく
照れたように千津美と功はうつむいた

ふんふん、と面白そうにそんな二人をみてバラゴは
なにかをガーヤとアゴルの耳元で囁いた

「あんたも相変わらずだね」
ガーヤは二人を横目で見て
ま、いいんじゃないかと言う

アゴルはうーんとうなると
「ノリコとイザーク以上に歯痒いからな、あの二人は…」
と真面目な顔をして言った

それからバラゴはアレフになにか言う

「バラゴも相当人が悪いですね…」
くっと笑ってアレフが言うと

「おめえほどじゃないぜ」
とバラゴが返した


「間に合って良かったわ
 このまま式の日になったらどうしようかと思っていたもの」
グローシアが言うと

ニアナがほっとしたように言う
「そうなの、本当は今日のお昼に花嫁衣装が届いたんだけど
 ノリコに言えなくて困っていたのよね…」


「まあ雨降って地固まるともいうから
 たまにはいいかもしれませんね」

「お父さんたら…お姉ちゃんがあんな悲しそうにするの
 ジーナはもう二度とみたくない」

あの日のノリコの悲しみを一番感じた取ったのは
ジーナだったかもしれない


3人に軽い食事が提供された

食事が終わった頃、アレフが現れ
「部屋に案内しましょう」
功の荷物を取ると歩き出した

千津美も自分の部屋へ行こうと
一緒についていく


「すいませんねぇ、悪気はないんです
 世話焼きな性分なんでしょうね、おせっかいとも言えますが…
 まあ、やっとノリコとイザークが結婚するというので
 つまらなくなって
 つい他にちょっかい出したくなってしまった
 というのが真相でしょうか」

言葉が通じないと知っていながら
ぺらぺらとしゃべるアレフだったが
千津美も功もぽかんとして聞いていた

そうしてアレフは部屋のドアを開け
功の荷物をベッドの脇のテーブルに置く
「じゃあ」と功の肩をポンと叩いてにっこりすると
部屋を出て行った


千津美が部屋の入り口の所で赤くなって固まっていた…

「どうした」
功が聞く

「ふ…藤臣くん…ここ、わ…わたしの部屋…」

「なに…」
功が部屋をみわたすと
鏡台の脇に千津美のかばんがあるのがみえた

典子のうちでも同じ部屋に寝はしたが
ここには大きめとはいえ、 ベッドがひとつしかなかった

「わ…わたし床で寝るから…」

「それはだめだ、おれが…」
功も相当慌てている

部屋ならいくらでもあるのだから
誰かに言って用意してもらえば…
だが言葉が通じない…

「あ、典子の部屋が空いているから
 わたしそっちに行くね」

千津美が自分のかばんをつかんで
焦って出ていこうとした途端
「きゃあっ」と叫んでつんのめった

倒れ落ちる瞬間、功が後ろから千津美を抱きとめる

「あ…ありがとう、藤臣くん」


いつもなら、そのまま抱え起こしてくれるのに

倒れかけた体勢の千津美を後ろから抱きしめたまま
功は動かない

「志野原…」
耳元で囁くような声がした

「何も…しないから…、ここで寝ろ」


かぁっと赤くなって千津美は
「うん…」と答えた


そのまま片腕で千津美を抱き上げ
ベッドの上にぽすんと置く

衝立の中で夜着に着替えるとベッドに横になった

やはり着替えた千津美がおずおずと入って来て
反対側の端っこに身を横たえる

掛け布団から身体が半分以上はみだしているし
今にもベッドから転げ落ちそうだ

功はくっと笑って言う
「そんなにおれが怖いか」

「い…いえ決して、ただ…」
はずかしくて…

千津美の声は消え入りそうだった

功は腕を千津美の身体の下に入れて
ぐいっと引き寄せた


千津美は腕枕される形になった

千津美の額にキスして
「おやすみ」と功が言った



藤臣くんの顔が目の前にある…
身体もあっちこっちが触れている

典子はずっとこうやってイザークと寝ていたんだよね
そうすると安心して良く眠れるって言ってたっけ

私は…ドキドキしてなかなか眠れそうにないや
それに本当にこのまま寝ちゃっていいのかな
藤臣くん、腕痛くないかしら…




この部屋が志野原の部屋だと聞いた時は慌てた
言葉が通じなくとも、例え力づくでも
他の部屋を用意してもらわねばと考えた

けど彼女が典子の部屋へ行くと言って出て行きそうになった時
まったく別な感情がよぎった
「行くな」と…

転びそうになって抱きとめた彼女の身体を
離したくなかった

腕に感じる千津美の柔らかい髪の感触が心地いい
身体に感じる彼女のぬくもりが愛おしい

(何もしないから…か)
ふっとため息をついた





しばらくして二人は眠りについた




NEXT

出会い

Topにもどる


Copyright © 2008 彼方から 幸せ通信 All rights reserved.
by 彼方から 幸せ通信