出会い 14





数日ぶりにノリコとイザークの家の夕食に面々が集まった

「やっぱりノリコの料理がいいよな」
バーナダムが嬉しそうに言った

「おいおい、奴の機嫌がいいからって調子に乗るなよ」
バラゴが慌てる


「お姉ちゃん、嬉しそうで良かった」
にこっと笑ってジーナが言う
「あの時お姉ちゃんがあまりにも悲しそうで、ジーナ怖かった」

「ごめんね、そんな思いをさせちゃって」
ジーナは人の感情を感じ取る

絶望的だったんだ、あの時のあたしは
この身が粉々になって
なくなってしまえばいいのにと激しく願った
そんな思いが、ジーナを怖がらせてしまったらしい

「ジーナ…」
イザークがジーナを抱き上げる
「ノリコは二度とおまえを怖がらせない
 おれが約束する」


「あんたたちでも喧嘩するんだねえ」
感心したようにガーヤが言った

「でも口喧嘩で良かったよ」

「おれがノリコに手をあげるとでも…」
冗談ですまさんぞ、とイザークが睨むが

「あはは、相手がガーヤだったらきっとぶっとばしてたんだろうな」

「あんだって」
今度はガーヤがアゴルを睨んで場が和む

いつもの仲間の気安い会話がはずむ




「仕事の話、全部断ったんだって?」

アレフがイザークに聞いた

「ザーゴ国軍がきみをほしがっていたよ」

「前にも言ったが、戦に関わる気はない
 ただの警備の仕事で充分だ」


「じゃあ、うちの警備隊に入りたまえ」

にこっと笑ってイザークの肩におこうとしたアレフの手を
イザークがガッとつかむ

「あんたのもとで働く気はない」

「おやおや、嫌われたようだね」
アレフはイザークにつかまれた手をさする

「当たり前よ、あれだけいいようにイザークの事使ったのだから」
今日はジェイダ家の兄妹も来ていた

グローシアの言葉にびっくりした兄たちが

「へえ、アレフはイザークをこき使ったんだ…」
「すごい、警備隊長ともなると違うな」
と感心して言った


「まあ、彼の場合はひどく簡単でしたけどね…」
にこにこしてアレフが答えた

「ノリコのため…と言えば、大抵なんでもしてくれましたよ」


一瞬その場がしーんとなった


「…隊長、あらためて言いますけど、性格悪いですね」

「人の弱みにつけこむなんざぁ、最低だな」

「イザークもイザークだよ、こんなのの言いなりになるなんて」

みんな呆れてる



「し…しかし、戦略法の初歩ですよ、敵の弱点をつくのは…」
慌てて言うアレフに


「そうか、あんたにとっておれは敵なのか」

「!」

「では、戦わねばならんな」

イザークが静かに剣を抜いた


「ちょっっちょっと、あれは言葉のあやで…」
青くなったアレフが弁明する

目の前に剣を持ったイザークが立つ
アレフは両手を上げて降参の意志を示した

「謝る…ノリコをだしに使った事は謝る、もう二度としない…誓う」

だから…

「うちの隊に入るかい?」
にこりと笑って言った


チン、と剣を鞘に収めてイザークが
「考えておこう」と言った






「イザーク、本当にジェイダさんの警備隊に入るつもりなの」
食後二人きりになった時に、ノリコが聞いた

「悪くない話だ …」

「だが、あいつのいいなりにはなりたくなかったからな」
少し脅してやったんだ、とイザークはにやりと笑う


「うん、でも」
ジェイダ は、外交術に長けていて結構外遊が多い
彼の警護にあたるとなればイザークも…

「ジェイダ左大公なら、おまえが一緒にいても気にせんだろう…」
だが契約の時にはその点ははっきりさせなければいかん、と
独り言のようにイザークがつぶやいた


ノリコはそんなイザークの気持ちを嬉しく思ったが
「けどあたしはお家を守るって…」

「何も四六時中ここにいることはない」

「しかしおまえが一緒に来たくないというなら
 おれは館の警備にあたるだけだ」
それも警備隊の仕事だからな、と当たり前のように言う

「イ…イザークったら…」

そこまで考えてもらえて嬉しかったが
本当にそれでいいのか複雑な心境になった


「おまえは何も気にするな」
ポンと頭を叩かれた

おまえを置いていきはしない
長い事ひとりにはしないと言った
約束は守ると…


優しく微笑むイザークに抱きついてしまった

「あたし…怖い」

「なにかあったのか、ノリコ?」

イザークが驚く

「幸せすぎて、あたし、怖い」
イザークの胸に顔を押し付けて叫んだ

「当たり前だろう…そんなこと」
イザークがノリコの背中に腕をまわしながら静かに言った

おまえには、幸せでいてもらわなくてはいかんのだ




「あ…」
イザークの優しい想いに包まれたノリコの心に
光の波動が静かに感じられた…







明日は一日会えないということだった

ガーヤが
「我慢しておくれよ」
と申し訳なさそうに言った

花嫁になる準備でノリコは一日忙しいらしい



館に帰るノリコ達を馬車の所まで見送りに来た

「次…会うのは、式の時だな…」
イザークが言うと 

「うん」
ノリコがうなずく



「おいおい、ホントにいいのか」
バラゴが聞く

「行っちゃっいますよ」
御者席でアレフも言う

いつもはあれほど別れを惜しむイザークが
ノリコを馬車に乗せて、あっさりと引き下がった

「かまわん」
とだけ言って、馬車にいるノリコを見た

ノリコもイザークを見ている
お互いに交わす視線は、穏やかで揺るぎなかった



ノリコが傍から離れていく時にいつも感じていた不安が
嘘のように消えている

あの喧嘩がきっかけで
おれたちの関係は少し変わったのだろうか

去っていく馬車を見送りながら
イザークは不思議な感覚を覚えた

「ノリコはここにいる…」
ここに、と自分の胸を押さえた
心の中にかすかな光の波動を感じる




『イザーク…』
ノリコの 声が聞こえた




『一緒だよ、ずっと』




『ああ…』



ノリコ…












おまけ


「な…なんなんですかっ、いったいあの男は!」

ノリコとイザークが式を挙げた数日後の事だった

館の事務官が憤慨しながらジェイダの所へ来た

イザークが警備隊に入ってもいいと言うので
契約書作成のため、条件を聞きに事務官を差し向けたのだった


「あいつときたら…
 夜勤はしない、毎日定時に帰りたいなどと言うので
 ジェイダ様のご都合で夜遅くなる事もあり得ると釘をさしたところ
 では残業分は別な日に早く帰らせろときたもんですよ

 外遊警備の際の妻の同行、まぁこれは想定内でしたが
 さすがジェイダ様、先見の明がおありですね

 ただし外遊について行くか
 残って館の警備をするかの選択をさせろと…」

はぁっとため息をつきながら、続ける

「制服の着用は拒否
 隊長の指示に必ずしも従うとは限らない
 有給でなくともいいので休暇は自由に取らせろとまで…」

「これでは渡り戦士に警備を任せるようなものではないですか!」


まあまあ、とジェイダが事務官を宥めるがあまり効果はない


「それにですね、ジェイダ様がご提案された
 我が警備隊員や国軍の兵隊への剣の指南の件ですが…」

「やってもかまわん…などと偉そうに」
イザークの口調を真似る

「だがその分の給金は別にもらう…とこうですよ」

「聞く所によれば、使用人を雇って豪邸に住めるほどとか…
 金には不自由していないはずです、だから
 そのくらいは普通ボランティアでやるものだとほのめかしたら
 そんな便利な奴がいるなら紹介しろ、ですと」

思い出してむかむかしてるようだ

「私もしゃくなんで…チクッと言ってやったんです
 そんな顔して随分せこい事言うんですね、って」

「そしたら、しれっと『顔は関係ない』などと …
 ちょ…ちょっと見てくれがいいと思って」

悔し涙まで流しはじめた


「ジェイダ左大公…
 ほんとうにあの男を雇うおつもりなんですか! 」





結局イザークの提示した条件すべてをのんだ契約書が作成され
契約は締結された









今回、千津美と功の出番がありませんでした
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