出会い 15





「本当にきれいだよ、ノリコ」
花嫁衣装を纏ったノリコを見て、ガーヤがため息をついた

「気のせいかねぇ、あんた達が仲直りした後から
 ノリコのまわりが輝いてるように感じるんだ」

「ううん、気のせいじゃない…お姉ちゃんから光を感じる」

「ああ、本当だ…イザークかい?」
ゼーナが笑って聞いた

うん、と恥ずかしげにノリコが頷いた

「やけにあっさりイザークが別れたと思ったら…」
そういうことか、とあきれ顔でガーヤが言った

「もうノリコったら、イザークと絶対離れないのね」
「いえいえ、イザークが片時も離さないのですわ」

きゃあきゃあと女達のおしゃべりはとまらない


千津美は不思議に思っていた

典子は誰にでも笑顔で接するが
イザークに向けるそれには、甘く艶やかなものが加わる
注意しなければわからない本当に小さな変化だけど
二週間ずっと典子の傍にいたので、今ではよくわかるようになった

それなのに…

一昨日の夜、イザークと別れてからも
典子の微笑みからそれが無くならない
まるでイザークがすぐ傍にいるように

そして彼女は静かな光に包まれていた

「光の世界」だったっけ…
前に読んだ小説を思い出した
二人はそこでつながることができるとあったけど…
本当なのかなぁ


「典子・・・きれい」
千津美が少し覚えたこちらの言葉で言った

「ありがとう 」
ノリコがにこっと答える

「千津美のおかげだよ」
頭にのせたヴェールに手をあてた

お礼をいわれて 千津美は嬉しくて赤くなる


「それ、さっきから気になっていたのですけど」
「この縁の飾り…編まれてますよね…」

「ほんとだ、こんな細い糸で…すごい」

ゼーナがヴェールをしげしげと見て

「あんたが編んだのかい?」
と千津美に聞いた

キョトンとする彼女の代わりにガーヤが答えた

「ああ、この子ったら上手なんだ
 さっさと編んでく手の動きなんか見てて驚くよ。それに…」

千津美の頭にポンと手をのせると

「一生懸命なんだよ、ノリコのためにって…ホントにいい子だ」

「功もきっと幸せになれる…」
イザーク並にね、と笑った

「ねえねえ、功ってイザークに似てるって聞きましたけど…」
「ということは、やはりすこぶる美男なんですか」
アニタとロッテニーナがはしゃいで言う

「でもいい男にはちゃんと彼女がいるんですもの」
「ゼーナさまの所にくるのは、おじさんばかりで…」

「あんたたち…相変わらずその話題かい?」
ゼーナに睨まれた

ニアナとグローシアは先に会場に行って
飾り付けだの準備をしている

「左大公夫人と令嬢が直々に会場準備とはねぇ」

「二人には世話になったし…
 そういう気持ちにさせられるんだよ、この二人はさ…」

「あたしは、何もしてないのに…いつもイザークが…」
ストップとガーヤに止められた

「あんたも大概にしな…もういちいち言わないよ」
ったく、誰のおかげでイザークが
光の力をみつけたと思ってるんだい…



コンコンとノックの音がして
ドアが開いた

「そろそろ時間だよ」
ロンタルナとコーリキが顔を出した

花嫁を会場に連れて行く馬車の御者を
この二人が務める事になっていた

どうやら左大公たちは 一家をあげて二人の結婚式に協力する気らしい

「うわっー、きれいだな。ノリコ」
「ホントだ…イザークの奴、惚れ直すぜ」

髪をアップにし、白いドレスに身を包んだノリコは
幸せなオーラを身体中からほとばしらせ
誰が見てもため息が出るような美しさであった

兄弟に挟まれるようにして、ノリコは馬車へ向かった






会場がある建物の入り口に功が立っていた

今日の彼は正装していて
いつもよりずっと大人っぽい雰囲気だ

「藤臣くん…」
ノリコと一緒に馬車をおりた千津美が
功の名を呼ぶ

千津美に微笑むが
彼が手を差し出した相手はノリコだった

花嫁を花婿に渡す、本来父親や兄弟が務める役を
ノリコの家族に代わって功がする事になっていた

功に腕をとられノリコは静々と歩き出した
イザークのもとへ…




会場では人々が花嫁の到着を待っていた

イザークは 演台の前に一人で立っている

「ぜってぇ変だよな…イザークのやつ」
バラゴは ポリポリと頭をかいた

「ああ、おれも昨夜は驚いた」
アゴルが言う

会場警備をしているアレフとバーナダムも
不審げにイザークを見ている

「お…おらも気づいたど」
エンナマルナから駆けつけてきたドロスが言って
上を見る

「あんた…わけ、し…知ってるんだろ」

くすっとイルクが笑った




昨夜はノリコたちが来ないので
男たちは街の酒場へ繰り出した

翌日花嫁を迎えるイザークをだしに
皆で飲もうという趣向だ
アゴルやアレフ、バーナダムも加わる
ジーナはゼーナが来ているので、そちらに式まで預けることにした

ドロスもやってきた

皆集まり、場は盛り上がる…はずだったが

いつもと勝手が違う



イザークの機嫌がいいのだ…
楽しそうとも言える

大体においてイザークは無愛想だ
近頃はノリコといる時はでれでれと楽しそうにしているが
ノリコから離れた途端、不愛想を通り越して仏頂面になる
そんな彼をからかうのが皆の楽しみだった

今日も一日離されてさぞやと期待して来たのだが
少し拍子抜けな感じがして
皆黙り込んでしまった

アレフなぞは、昨日の仕返しをしてやろうと
手ぐすね引いて待っていたのだが…


「た…楽しそうだな、イザーク」
やっとアゴルが口を開いた

「明日ノリコがおれの妻になる
 楽しくて当たり前だろう」
にっと笑ってイザークが答えた

「そ、それはそうだな…」
会話が続かない…

「どうした…やけに静かだな、今日は」
イザークが皆を見た


ふーむとうなってアレフは正攻法で行く事に決めた
「実はおれたち、君の機嫌が悪いのではないかと思ってたんでね」

「なぜおれの機嫌が悪くなくてはいかんのだ」
妙な事を言う …とイザークが呆れる

「だけど今日はノリコと会えなかったんだろ
 彼女、一日館でばたばた忙しくしていたよ…」
バーナダムが言ったのを

「そんなことは知っている」
と軽く受け流した

普段のイザークだったらそんなバーナダムを
ひと睨みするところだが、平然としている

「な…なんだよ、ノリコと会えなくて寂しくないのかよ」
バーナダムは、逆にそんなイザークの態度が気に入らないのか
ムキになって聞いた

「ノリコと会えなければ…」

「寂しいに決まってるだろ」
にやっとしながらイザークが答えた


「お…おめぇ、言ってる事と態度が合ってねえぞ」
と言うバラゴに

「そうか」と言って皆を見回す

「おれの機嫌が悪いのを期待していたのか」


図星だったので誰も答えられない


「それは残念だったな」
は!とイザークは笑った








「花嫁のご到着です」

皆会場の入り口を見た


功に導かれたノリコの姿が見えた


会場にため息があふれた

誰もがその美しさに魅了される


『ノリコ…きれいだ』

『イザーク…』

二人の目が合うと
ノリコを取り囲んでいた光がすっと消えた




そういうことか…

さっきまで不思議に思っていた謎がとけた

「あいつら、ずっと一緒にいやがったんだ」

「いや、まいったな」




功はノリコの手を、イザークに渡した




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