出会い 3 






母に尋ねてみたら

老朽化して取り壊される予定の市のコミュニティーセンターが
封鎖された状態であると教えてくれた

「体育館があるから、そこならいいんじゃない?」

と言われた。

「人が入り込めないように、高い柵で囲ってあるらしいけれど…」

その方が誰にも見られないから、ありがたい、とノリコは思った。


「あんたも夏になるとよく行ってたよね、あそこのプール。覚えてる?」

「ん、ぷーる…」

「なんだ、それは?」


っもう、そこに食いつかないでよ
先の展開が見えてきたので、さらっと無視して

千津美たちに

「じゃあ、行こう…千津美、功!」

さっきみんなで、「さんづけはやめよう」って話したの
ついでに千津美たちに
「もう名前で呼んだら…」
って言ったら、
「よく言われるんだけれど…」
って、二人とも照れちゃって…


功が運転出来るので
ノリコの父の車で出かけた

道はかろうじて覚えていた


見覚えのあるその建物は夕焼けの中に
小さい頃の思い出のまま
ひどく懐かしい風情でたたずんでいた

よく通ったな、ここのプール
体育館では友達とバトミントンや卓球したっけ…



柵にイザークが手をあて、しばらくうつむいていた

「あっちだ…」

千津美と功は不思議そうにしていたけれど
黙って後についてきた


ひとりずつ抱えて跳び越えることも出来たんだろうけど
千津美とあたしだったら、二人一緒でOKかな

でも功を抱えて…考えただけでノリコはうぷぷと吹き出してしまい
イザークが怪訝な顔をして彼女をみた


一カ所、 板を止める釘がゆるんでいる所があって
イザークが少し力をいれると
ぱかっとはずれた

「あと… もどす」


体育館の扉にも鍵はかけられていたけれど…


「あとで戻そうね…イザーク」

扉ごとはずして、中に入った





少しほこりっぽい体育館で
剣を抜く

ガーヤのまねをして
「源の力」について語ってみようかとも思ったが
がらではない…
第一灰鳥ではないおれに語る資格はないだろう…


「こう…」

「けん、きずつける ちがう」

「まもる、だいじな…」


イザークはその視線を

相変わらず楽しそうに語らっている
ノリコと千津美に向けた



「ああ…」

わかったと、功がうなずいた

功に基本の型から教え始めるイザークだった





どのくらい経ったのだろうか

とうとう功が音を上げた
くたっと床に座り込んだまま、立てない


「藤臣くん…」
心配そうに千津美が駆け寄った


「す…まん、し…ばらく…」
息があがって、話すことすら満足にできない

「おわり…きょう」

剣を鞘におさめてイザークが言う

ノリコが持参して来た水のボトルを功に渡して
イザークのところへとことこと行った


体育館のプールに面した側はガラス張りになっている
外を見ながら腕を組んだイザークがたたずんでいた
日はすっかり暮れていたが
月の明かりで意外と明るい…

じっと外をみつめていたイザークが言った

「ノリコ…」

「ぷーるって、あれのことか?」




「!」

「おまえがおれの問いを無視することは、滅多にないからな…」


視線は外に向けたままだ


って、水もないそこに、何が見えるの〜?


読まれてたんだなぁ

体育館に入った時、窓からプールが見えてドキッとした
なるべくそっちを見ないようにしていたんだけれど
イザークには、ちゃんとわかっちゃうんだから…


「…で、ノリコ」
あれはなんだ、と問う


母を恨むノリコだった


その時、千津美の携帯が鳴って ノリコを救った






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