出会い 番外編 イザーク at 豪法寺運輸 






「いるんだろーー、そこに藤臣が!!!」

豪法寺くんだった

ちなみに藤臣くんも携帯を持っているけれど
お母さんと千津美しか番号は知らない

お兄さんにばれた時は
すぐに着信拒否設定してたし…


藤臣くんに携帯を渡した


「頼む!一生の頼みだ…きいてくれたら恩にきる」
豪法寺にしては、めちゃくちゃ低姿勢な頼み方だ


なんでも急な事情で
今、倉庫にあるすべての荷物を、
別な所へ移し替えないといけなくなったようだ
明日の朝までに…



理由はよくわからんが、せっぱ詰っていることだけは伝わって来た


「小室の奴も来てくれる…だが人手が足らねぇ
おまえ、誰でもいいから知り合いひっぱてこれねえか?」

ふっと、その時イザークと目が合った

「ああ、ちょうど…」


「頼むーーー」と叫ぶ声を、ばしっと切って
功がイザークを見た







あまりにも多くのやっかいごとに関わりすぎて
今ではもう、聞く前から予感がする


功と目が合った時
イザークは今日何度目か数えるのもいやになるため息をついた

「なんだって、こう…」




典子と千津美を典子の家に送ってから
イザークと功は豪法寺の所に向かった

「今日はうちに泊まりなよ」
典子が楽しげに千津美と話していた
「一緒に寝よう」

冗談じゃないぞ、ノリコ
おまえの横に寝るのは、このおれだ…






「お、来たか…」

すでに小室は来ていて
弟の奴、来週から学年末試験で…とすまなそうに話しながら
はしごの上から高い所にある荷物を取って
豪法寺に手渡していた

「でも大学ってよ、早めに春休みにはいるんだな、助かったぜ」
渡された箱をカートに置きながら豪法寺が言う

「ああ、それにもう卒業式に出席するくらいしかやることないからな…」
豪法寺が気を使わないように小室が言った

昔に比べたら随分角が取れたな、こいつら

口に出して言えば
「そういうおまえはどうなんだ!」
と悪友たちから突っ込まれるのが目に見えたので黙っていたが…

「ところでよぉ、助っ人連れて来てくれたん…」

そこで初めて功と一緒にいるイザークの姿に気づいた


「お、おまえ…いったい何連れて来たんだ?」

「ああ、こいつはイザーク…」


「おいおいっ、モデルとかそんな奴連れて来てくれってたのんでねえぞ
おまえみたいないい男だけどよ、雰囲気はそっくりだな
だが、ちーとほそっこい…」

親指と人差し指で顎を挟み
遠慮のない視線でじろじろとイザークを見る

むっとしたイザークがにらみかえすが
慣れたもので
「無愛想な視線までよく似てるじゃねえか」

「そこまで似てるんなら、腕力もあるんじゃねえの」
はしごの上から小室が、しゃべってないで働けよと
荷物を投げるように豪法寺に渡した

「しゃーねぇな、いないよりましか。長い夜になりそうだぜ…
じゃあ藤臣、おまえ奴と一緒にあっちの荷物をこのカートに載せて
いっぱいになったら向こうの倉庫まで運んでくれや」

もう一台のカートを指して豪法寺が言った

豪法寺の言葉がわかったのか
言われた場所へイザークは行く

「上の方からやっつけるか」
功がはしごを持って来た

「いらん…」

「?」

イザークは高く積んである荷物の 一番下の箱を抱えると

「んっ」
とそのまま 全部持ち上げ
ストンとカートのうえに置いた

次から次へと…
あっという間にカートはいっぱいになった

「…」

3人とも惚けてその有様を眺めていた…


「で…?」
いっぱいになったカートを目で指し
イザークが尋ねる

「あっちの倉庫に…」
なぜか赤くなった豪法寺が、向こうに見える建物を指差した
「置いてくれるだけで、いいですから。片付けはあとで…」
言葉使いが丁寧になっている…

「わかった」
荷物が満載のカートを
まるでベビーカーでもあつかっているかのように
片手で軽やかに押して
イザークの姿が別の倉庫に消えた


「お、おまえ…いったい何連れて来たんだ…」

さっきと同じ質問を、全く違ったニュアンスで豪法寺が言った



そこに入ったイザークは
再びため息をつく

とにかく時間を惜しんで
荷物を移せばいいと思ったんだろうが
運び込まれた荷物は床に乱雑に放り出されて
目もあてられない有様だった

「ったく…」



結局、イザークが一人でひとつのカートを使い
残る3人が一緒に働くことになった

やっと自分たちのそれを一杯にして
皆で押しながら別の倉庫に入っていった豪法寺と小室は目をみはった

さっきまであれ程乱雑に散らかっていたそこは
整然と整理されていて…
放り出されていたはずの箱は
壁の片側からきれいにつまれていた


「どうしたんだよ、おまえら」
前の状態を知らない功が二人に聞く


呆然としている間に
イザークはすでに次の荷物を持ってやってきた

「あんたたち… しごと」

「あ、悪い」


「おくだけ…やる」

「置いておけばいいと。後は自分でやると言ってると思うが」
だいぶ慣れて来た功が通訳した


「いや、でも… はは…その方が早いか…」
荷物を床に置いて、3人はすごすごと元の倉庫へ戻った

イザークも数分も経たないうちに戻って来た



仕事は最初思っていたより
かなり早く終わった

誰のおかげかは言うまでもないが

「藤臣、小室、悪いがこっちに余計にわたすぜ」
通常のバイト代を何倍か上回る金額をイザークに渡した

当たり前だろ、そんなこと…
功も小室も文句など言う気はまったくなかった


めしでもおごるぜ、という豪法寺の誘いを断って
二人は典子の家へ急いだ



功は
気づいていた

こいつ、典子が傍にいないと
人が変わる
いっそう無愛想というか仏頂面になり、落ち着かない…
異国で言葉も不自由だからとか
そういうことではなさそうだ…

典子と別れたその瞬間から
また会えるまでの時間を
ただひたすら耐えているかのような風情だ

あれだけ強くて
あれだけの能力を持って

佇まいは優雅ともいえるが
どこか壮絶な気迫をたたえている
簡単な話を聞いただけだが
凄惨な運命と戦ってきたらしい

そんな男が
ノリコと言う存在に
無条件降伏している様が
何故だか好ましく思える


功はイザークに魅かれていた
男が男に惚れる

そういうことだ

千津美に対するそれとは全く別な感情だが

惚れたやつには出来る限りの誠意を尽くしたい

藤臣功はそういう男だった…


そして今彼のためにできることは
一分でも一秒でも早く彼を典子のもとへ届ける

そういうことだった








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