出会い 4 






典子の実家に着いた頃は、もう深夜近かった

なぜか典子はガレージの前の戸を開けて待っていた
到着の時間を前もって知らされていたように…
もちろん千津美も一緒にいた

パジャマにカーディガンを羽織っただけの姿に
功は何故だかうろたえる




「早かったね、朝までかかるって聞いていたから…」

豪法寺のところで、おむすびやらサンドイッチやらを食べていたが

夕飯を暖め直してくれたので
イザークと功はそれを食べた

他の皆はもう寝ているのだろう…

『おまえたち、眠くないのか?』
イザークが典子に語りかける

『大丈夫、どっちにしろ千津美とおしゃべりしていたから…』



イザークは貰ったお金は全部典子に渡した
たった数時間でこんなに貰えたの、と吃驚する

「イザーク、お仕事で迷惑かけなかったかな」
無邪気に典子が、功に尋ねる

「あ、いや…」

「うふっ、イザークって完璧主義なところがあって
 依頼された仕事はきっちりしないと気がすまないんだけどね…」

そうだろうな、と功はすごく納得してコクン頷く

「でも他の人にとったら、時々迷惑みたいなこともあるようで…」

「そ、そんなことはない。すごく助かった…」

功がそう言うと

「よかったァ」
ニコッと微笑む典子






二人で風呂につかった
浴槽のふちを抱えるように腕をのせ 、イザークが深いため息をつく

怪訝そうに功がイザークを見た


「あんた… チヅミ と  まだ?」


突然の質問に
功は赤くなってそっぽを向いた


ふん、とイザークは鼻で笑う

わざわざ聞かなくたってわかっていたが
なんだか、こいつをからかってみたくなる衝動が抑えられない

だが…

「そういうあんた達は?」

功に返されて、今度はイザークが目をそらした


「おれたち…… けっこん こんど」


「あ、おめでとうございます」
功は礼儀正しく言った


そんな功を、好ましげにイザークは見る







風呂から上がると、典子達はまだ起きて待っていた


4人で居間に座り
相変わらずきゃあきゃあと語らっている女達を
男達は呆れながらも、愛おしげに見つめる


ふと、会話が途切れた時に
イザークが言った


「おれたち しき…」

皆怪訝な顔で、彼をみつめる


イザークは功をまっすぐ見つめると、言った

「くるか…」


典子は驚いていた

あちらの世界とこちらの世界
何も交わらせてはいけないと、最初にイザークに釘をさされている

お土産を持ってきたかったけれど、ダメだと言われた

カメラを持って帰って
あちらの世界を写して家族に送りたいと思ったけれど
それも却下された

もちろん家族をむこうに連れて行ってみたかったけれど
だめだとわかっていたから、何も言わなかった





でも今、イザークは功達を
あちらの世界へ連れて行くと、言っている


彼は、きっと功達が気に入ったんだな…


フッと典子は微笑んだ
(なんだか、功の事、弟みたいに思ってる?)


家族の幸が薄かったイザークを思って典子は言った

「是非、来て千津美…そうしてくれたらすっごく嬉しい!」



結婚式は、彼らがあちらの世界に戻って二週間後くらいだと聞いて
功はつぶやく
「卒業式までは、暇だが…」

「あ、私も春休み中だし、バイトとかキャンセルしたら大丈夫です」
功が行きたがっているのを察した千津美が言う


「きゃあー嬉しい!じゃあ来てくれるの?」
典子がはしゃぐ



話は決まった

あまりのんびりしていられないので、
明日の夕刻に出発する事になった


「心配しないで、
 式を終えたらイザークがちゃんとこっちに送り届けてくれるから…」





夜がふけて
そろそろ寝ようかということになった


あっちにね、と別な部屋を指差して典子が言う
「お布団敷いておいたから… 」



イザークが典子と何か話してる
もめてるのか?
あの二人にしては珍しいことだ…
などと思いながら功は、指定された部屋に行き
用意されたふとんにもぐりこんだ

なんて一日だったんだ…

思いがけない出会いがあり
結局異世界へ行くことになってしまった

功はめずらしく興奮して落ち着かない
千津美と初めて会った時みたいだ
あの時おれ、眠れなかったっけ…

まだ高校生だった自分を思い出し
ふっと笑う




「あ、あの…」
真っ赤になった千津身が 部屋に入ってきた

功はがばっと起き上がる

「ど、どうした」

「イ、イザークさんが……ここで…寝ろって……」

最後の方はほとんど言葉になっていない




「そ…そうか、ではここに…」

隣の寝具を指差す




あいつ…さっき風呂で聞いた限りでは
典子とまだそういう関係とは…


功の思考がぐるぐるまわる
さっきとは別の意味で落ち着かない

けれどすでに寝入った千津美の横顔を
愛おしげにみつめて
功も目を閉じた






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