出会い 5 






翌朝起きると、千津美も功もまず姉と親に電話して
今晩出かける事を話した
知り合ったカップルが結婚式を挙げると言うので
招かれて行く、と
どうせ暇な時期なので
そこにしばらく
滞在したいと

僻地なので電話も携帯も通じないが
心配しないで欲しいと

「どこなの?そこは…」
口の重い息子の説明に納得がいかず
母親が問いかける
「ん、北の…北海道の北のはずれで…」

続かない…

業を煮やして
「本当に信用出来る人達かどうか…お昼にでも連れてらっしゃい!」
と言う事になった


千津美の姉とて心配する
「功さんが一緒なら安心だけれど…でもほんとに大丈夫なの?」
「大丈夫、お姉ちゃん。すっごくいい人達だから」
「でも…」」

藤臣家へ招かれたことを言うと
藤臣の母の判断を信じる、と言って折れてくれた

「でもそんな僻地に住んでるなんて、変わっているわね」

「ほら、電気もガスも使わない…
 そんな暮らしをおくってるんだって…」
ちくりと千津美の胸が痛んだが、嘘じゃない、決して…
自分に言い聞かせる

「どこなのいったい、そこは?」
「み…南の孤島で…」




お昼前に、皆で功のうちへ出かけた




キッチンがいやに賑やかだな…
ちらっと章がそっちを眺めた
明け方まで仕事をしていたので、今日は一日休みだった

昨夜は一晩中バイトだ、と功から連絡があったらしいが
じつはそうでもなかったようだ
今朝連絡があって
いきなり数週間、知り合いの所に出かけると言い出した

電話も携帯も通じない僻地だと…
いったいどうしたんだ功は
あのいつも冷静なやつが
言ってる事もやってる事も
まるで筋が通っていない…

イザークという男をみつめた
テレビ局に勤める彼は
いわゆるイケメンなタレントや俳優達を
毎日のようにみているのだが

そんな奴らも足元に及ばないほどの
いい男だ…
スタイルは抜群で
足の長さなど反則ものだ
所作にも優雅な品がある

モデル会社の社長が三顧の礼を尽くしてでも
迎え入れたいと思う男だろう

少々…いやかなり無愛想だが

なるほど
気があうのも無理はない
この二人にはどこか通じるものがあるんだろう…

しかし何故こんな奴が
都会を離れ、恋人と二人っきりで僻地に住む…
結婚式っていうのは
親や親戚のいるとこで挙げるべきなんじゃないか?


いつも母さんひとりしかいないキッチンに
今日はちぃちゃんと典子という女の子が一緒にいて
おしゃべりに花が咲いている
母さんも随分楽しそうだ

それに比べて…
ふっと章はため息をついた

リビングには、寡黙な父親と
それに輪をかけて無口な弟と
弟なみに無愛想で、しかも仏頂面のイザークという男がいて…


皿洗いでも何でもするから
キッチンで女たちと一緒にいたいと
章は心から願った



皆で食事をした

最初は少し用心していた母さんも
今ではすっかりこの二人を気にいったようだった

典子という娘は、
誰もが警戒心を解き、心を癒してしまうような
そんな娘だった

そしてイザークという奴…
さっきのあの仏頂面が一変している
典子を見る目が
おれが恥ずかしくなってしまうほど、甘い…

功だってあんな目でちぃちゃんを見ないぞ
少なくとも皆の前では…

でも母さんにはそんな二人がすごく好ましく映ったようだった

外国人のイザークが
なぜ典子と二人でそんな日本の僻地に暮らしているのかという謎は
最初に聞くなと釘を刺されて、不信に思っていたのだが
二人を見ていると、そんなものも簡単に溶解してしまった

お互いを疑わずに信頼しあっている
羨ましい程に愛し合ってる
それを隠す事なく示している
本当に見ていて気持ちのいいほど
仲の良いカップルだった

結局なんの文句も言われず
功達はイザークの所へ旅立つ事になった
ま、功も成人した男だしな
反対されても行っただろうが

おれが皆を車に乗っけて送る事になった
典子の実家へと向かった

上がれと言われたが遠慮して
功に「気をつけろよ」とだけ言う
功は「ああ」と片目をつぶった

去り際に見たその家の表札が気になった
「立木久典…?」
どこかで聞いた名前だが…


しばらくして4人は庭に立つと
家族に見守られ
シンクロしてこの世界から旅立って行った






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