出会い 6 





「うわーーーっ、きれい、柔らかい」

落ちていったその場所に 千津美が叫んだ


金の床…

そこに現れたことは、あたしにとって長いこと呪縛だった
けれども今は…



あたしは、千津美と一緒にふかふかなその場所に寝転んで
気持ち良さを満喫する

ここが初めてのこの世界との出会いの場…
でもあの時とは違う
帰って来た、という思いを抱いて言った

「気持ちいいよね、ここは」



功はあたりを不思議そうに見回していた


日本を立った時は夕方だったが
ここはまだお昼過ぎのようだ

お家に帰る前に、ちょっとだけカルコの町へ寄ることにした


イザークがシンクロして皆を連れて行く

一人シンクロは体力を使うので
普通の人間だったら倒れてしまう

あたしも一度やったけど
後は悲惨だった

けれどもイザークは平気だ
体力が尋常ではないからだろうか

3人も連れて飛ぶことは
ドロスさんでも出来ない

ふとグローシアが以前言った言葉を思い出した

「イザークって凄いよね…なんでもできちゃうから」



何でもできる…
だからいつも何でもしてくれる

当たり前のようなことだけれど…

それに甘えてはいけないんだ




カルコの町…

異世界での風景に、千津美はついキョロキョロしてしまう

ノリコとイザークの服を借りて
二人とも装いはこの世のものだった

藤臣くんなんか、バンダナで髪を押さえて
結構似合ってる…



「あんた」

町長が功をみつけて言う

「髪を切ったのか…」

そして千津美に目をむけると

「ノリコはどうした」



言葉がわからない二人はただ立ちすくしていたが

怒ったように町長は大声で続けた

「あんた達はくっついたと、思っとったんだぞ
 それを…」
功を睨みつけて怒鳴る

「それにしても、女の好みは変わらんようだな」
千津美をみて言う

あんときは好みがどうのと言っておったが…



「そいつは、おれじゃない」

後ろから声がして、町長が振り返ると

懐かしい二人の姿があった



「お久しぶりです」
ノリコが挨拶する


「いやぁっっ、随分会ってなかったしな…」
町長は頭をかいて、二つのカップルを見比べる


「比べて見ると、やはり 違うな…」


ノリコが
「あたしの島から来たばかりで…」
言葉が出来ないんです、と笑って話すと


「そうか…そうか、あの頃のあんたみたいだな」
懐かしげに町長が言う


今日は少し寄っただけで、すぐこの町から離れる
というイザークに、町長は
ではお医者さんのところでお茶でもと誘った


千津美と功は少しこの町を歩いてみたいと言うので
二手に分かれた




市場のお店をひやかしたり
町並みを歩いてみたりした後


千津美は少し疲れて、噴水のそばに座り込む

功は、イザークから渡されたお金を持って
飲み物を売っているらしい屋台へ向かった

飲み物を指して、お金を見せる
言葉はできなくとも、あまり不自由しなかった



「よお、お嬢ちゃん一人?」
「遊んであげようか…」

気がつくと座り込んでいた千津美を
数人の男達が取り囲んでいた


「やだ…この人達」
言葉はわからないが、嫌な感じがする

慌てて立ち上がり
功が去った方へ強行突破しようとするが…


「ふっじおみくーん」
千津美の声が聞こえて

功は慌てて走り出した



千津美は4人の男達に囲まれ
そのうちの一人に肩をがっちりとつかまれていた


千津美は泣き顔で功をみる
男達もつられて功を見た



「この女、せっかく親切にしようしたのに
 おれの仲間を噴水に突きとばしやがった」


「このおとしまえはつけてもらうぜ」



言葉はわからないが
とにかく千津美をつかんでいる男を投げ飛ばす

男達は次々と襲いかかって来たが
功は難なくやっつけていった



するとその一人が剣を抜き
それに同調して
他の奴らも嬉しそうに剣を抜き始めた


もちろん功は丸腰だ


剣の扱いなら先日イザークに教えてもらった
けれども…
こんな場合どうすればいい…


千津美を背中にかばい
功は途方に暮れる

学生同士の喧嘩とは訳が違う


「覚悟はあるか」とイザークに問われた

それは、こういうことだったのか…



最初の一人が振りかぶって来た
功は太刀筋を見極め、するっとかわした

けど…
「やっちまえ、一気に」

同時にかかられて
もうだめかと諦めた瞬間

だんっとイザークが目の間に現れた

気のせいか上から降って来たようだったが…

イザークは男達を睨みつけて言う
「丸腰のやつに…最低だな、あんたたち」

剣も抜かず、あっという間にそいつ等を倒すと
千津美と功を連れてその場から離れていった



お医者さんの所から辞去しようとしたとき
町長を呼ぶ声がした

「大変だ、喧嘩だ…町長
 噴水の所で若いカップルがチンピラに絡まれてる」

「男の方はすっげえ強いんだが、奴ら剣を抜きやがった」

「しまった…」

イザークはノリコに言う
「町はずれの人目の無い所にいろ」

そしてダッとその場から飛ぶように走り出した

「あ…あいつ」
驚いている町長に別れを告げると

ノリコは町はずれに向かった



待っていたノリコのもとへ飛ぶ

「大丈夫だった? 千津美…功」
ノリコが心配して駆け寄った

「あ、あたしのせいで…」
まだ恐ろしい思いの去らない千津美が震えながら言う

「藤臣くんが危ない目に」
ぽろぽろ泣き出した


そんな千津美の肩を優しく抱きながら
功は

「おれに…」

イザークの目をまっすぐ見つめて言う

「おれに、剣を教えてくれ」


イザークが来なければ
おれは志野原を護れなかっただろう

この世界に来さえしなければ
こんな目には会わなかった、とも言える

しかし、そういう問題ではない
ただ、どこであろうと
志野原を全身全霊かけて護れるおとこでありたいと…


「わかるよ、功」
思いがけずノリコが功に言う


「イザークは何度もあたしに言ったもの
 元の世界にいたら…この世界に来さえしなかったら…って」

「どこの世界だろうが、関係ない
 愛する人を護りたいって、気持ち…」

うん、わかるよ


イザークは自分が連れて来た二人を危ない目に会わせてしまったことを
ひどく悔やんでいたが

ただ 「行こう」とだけ言った




シンクロして二人の新居に着いた


そこにはガーヤ達が待っていた

「ジーナが占ったんだ、あんた達が帰ってくるって」
アゴルが言う

「あっちからお客さんを連れてくるっともな」
バラゴが功と千津美を見て笑う


ここへ来る前
前日の片付けが終わっていなくて
慌てていたノリコに

ガーヤが
「いいから、あたしがやっとくよ
 せっかくなんだ、早く行っといで」
と追い出されたのだ

その申し出を有り難く受け取り
鍵を渡して、ノリコ達は旅立った

今、美味しそうな料理の匂いと
ちゃんと人数分揃ったお皿が食卓に並べられていた

「でも…もうすぐアレフさんとバーナダムもくるよ」
とジーナが言うが

「いいんだよ、あいつらは」
とおばさんは取り合わない



皆に千津美と功を紹介する

「ふうん、雰囲気というか感じはイザークそっくりだね」
功を見てガーヤが言った
そして千津美ににこりとわらうと
「こちらもノリコ似だ」


「でもよ、これがよ…」

「本物の男の身体だぜ」
自身も努力して鍛えてきたバラゴが
功の厚い胸をばしっと叩きながら言う

「あはは、イザークは鍛える必要ないからな
 その力は生まれつきで…」
何気に言ったアゴルの言葉に

皆ハッとなった
言った本人も、「うわっ」と 口を押さえる


生まれつき…備わった「天上鬼」の力

知ってはいてもそのことを
あからさまに口にするようなことは誰もしなかった


けれどイザークがくすっと笑って言う
「おれだって…ガーヤに剣を習った時は
 結構真剣だったんだが」

こわばっていた空気が、その一言でやわらいでいった


『イザーク…』
それでも心配そうにしているノリコの手を取ると

「行くぞ」
と食卓へ誘った


『なぜわからん』

ノリコは、聞こえて来た彼の言葉にはっとする

『もう目覚めだの天上鬼だの、そんなことはどうでもいい』

気にするなノリコ、と 微笑む


『おまえがおれの傍にいる… それだけでいいんだ』





皆で食事をしていたら、アレフとバーナダムも現れた

やれやれと面倒くさそうに、ガーヤが彼らの分の皿を用意した
たぶんわざとやって、恩にきせているのだろう

楽しく過ぎていくはずだった晩餐が
ガーヤの言葉で一変した


「何を言ってる?ガーヤ」

先ほど、 天上鬼の力に触れられた時は
余裕でかわしたイザークが
今は恐ろしい程真剣にガーヤに問い返した










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