出会い 7 





辺りの空気が一気に張りつめた


けれどもガーヤも負けていない
「これはね、あたりまえのことだ、イザーク」

「結婚式まであと2週間…その間はノリコとは一緒にいない方がいい」


「ふざけるな…」
今にも爆発しそうな怒りをこめて、イザークはダンッと机を叩いた


「でもよ…ガーヤの言うことも一理あるぜ、イザーク」
とバラゴ
「結婚式っつうのは、けじめをつける為にするもんだろ…
 同じ家で生活して、一緒に寝て…んで式挙げました、じゃな…」

「たった2週間ですよ」
にこにことアレフが楽しそうに言う


「もうあんた達を追ってる奴はいないんだしさ、心配ないよ」
バーナダムも 、心なしか嬉しそうにガーヤに賛成する


追われていた頃の癖で
未だイザークはノリコを手元に置いておきたがる
少しでも離れると不安で落ち着かなくなる
日本にいた時でさえ、それは同じであった


「イザーク、あんたがノリコと結婚したいと言ったんだよ
 結婚…、結婚式を挙げるってことはね
 世間に対してノリコをあんたの妻だとみとめさせることなんだ」

「あんただって、わざわざノリコの家族に会いにいったくらいだから
 そんなことはよくわかってるはずだよねぇ」

「だから世間が納得する形で、ノリコを迎えてやりな
 たった一度のことだよ、一生で」




「きみ達の立会人は、ジェイダ左大公が務めることになりました」
急にあらたまってアレフが言う


結婚式の立会人には、
公職に就いているある一定より上級の役人がその役を担う

大抵は地区の区長や町長補佐だが
金持ちや有力者の場合には町長直々に当たることもあれば
国のもっと偉い役人が出てくる

王侯貴族の式には、王が立ち会うこともある


そして、イザークとノリコの立会人に
王に次ぐこの国の権力者であるジェイダ左大公がなったという

彼と二人の関係からすれば
別に驚くことでもないが… 


「おれたちは、ノリコを迎えに来たんですよ」
相変わらずとらえどころの無い笑顔でアレフが続ける


「やっぱり、考えていることは一緒だな…」
アゴルが苦笑した


ジェイダは結婚式までノリコを預かるというのだ


「だがまて、千津美と功はどうなる
 ノリコがいなくては言葉がわからん」


「ではおふたりとも一緒にお連れしましょう」
アレフは気軽に請け負う

「おれは功に剣を教えるつもりでここに呼んだんだ
 2週間みっちりしごくから通いなんてだめだ」
あがくようにイザークが言う


ふんふん、としばらく皆考えていたが

「よし、功とおれは式までここにいよう」
と唐突にバラゴが言った


「なにっ」
イザークはうろたえる


「ちょうど寝室は3つだしな…
 おれだって結構いい剣の先生になれるぜ」
と笑う

「しかし、言葉が…」

「さっきから見てるけどよ
 別にこいつ大丈夫そうじゃねえか」

ほとんどしゃべらずにいる功に、バラゴが言う

「おれたちには、言葉なんかいらねえよな」
ばんばんとバラゴが功の背中を叩いた




ノリコは千津美と功に状況を訳すたびに
どんどん青くなっていった

わざわざ来てもらったのに
この展開は予想外だ

「功、なんかごめんなさい」
申し訳なさそうにノリコが言うと

功は笑って
「構わない、言葉がわからない方がむしろいいかもしれん」
と言った

純粋に剣の道を究めたいという思いからの言葉だった

イザークは、功のその言葉にはっとなった



結局、イザークはおれた
功の言葉が少なからずイザークに影響を与えたようだった


ノリコと千津美がジェイダの屋敷に行くことになり
功とバラゴがイザークと家に残った






(イ、イザークったら…)
馬車に揺られながら、ノリコは赤くなってうつむいていた

隣では千津美も同じように赤くなっている


アレフとバーナダムが御者席に座った馬車に乗ろうとした時

「ノリコ」
とイザークが呼んだ

 さっき荷物をまとめた時おやすみのキスをして
 昼間は会っても構わないらしいので、明日またここにくるね
 と明るく別れたつもりだったが

振り返ったノリコを抱き寄せると
熱い口づけを何度も繰り返した
皆が見ているのに…


ガーヤやアゴルとジーナも一緒に町まで帰ろうとそこにいた

ナーダの城から脱出した後
ノリコに抱きつかれて赤くなっていたのにな
アゴルは、あの時のイザークを思い出す

ジーナはニコッと笑って言う
「お姉ちゃん幸せそう」

「やれやれ、長い2週間になりそうだね」
とガーヤはごちる

「ちっ、なんのつもりだよ…人前で」
バーナダムがこぼすと

「一種の威嚇でしょうね」
アレフが笑った




馬車はジェイダ左大公の館に向かって、街を駆け抜けていった




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