出会い 8 





ノリコがジェイダの館に行ってから一週間が経った
結婚式まであと一週間だ


ノリコは花嫁衣装の準備だとか
なんだかんだと忙しい中

それでも毎日イザーク達のところに行き
掃除や洗濯、夕飯の準備などをこなしていた


「ノリコったら
 結婚してから嫌でも毎日しなくちゃいけないんだから
 今はもっとのんびりすればいいのに」

無駄を承知でグローシアが言うが
ノリコは笑って取り合わない

「今は千津美も手伝ってくれるから…」


その千津美は、ノリコのヴェールにつけるレース編みで余念がない

この世に来て早々に
グローシアやニアナさんに連れられて
ノリコの花嫁衣装を作りにいった
千津美もくっついていったのだが

ノリコがなぜかちょっと不満そうにしているので
理由を聞いてみた

「うーん、あたしたちのウェディングドレスをイメージして
 お願いしたんだけどね…
 他は何とかなりそうなんだけどヴェールがね」

「薄い生地ならあるけど、レースって無いんだよね、ここには
 布だけかぶって、花とか飾ればいいかな…」

「わ…わたしが編む!
 昔っから編み物だけは得意なんで…」


「でも悪いわ、千津美」

「いいの、まるまる2週間時間もあるし
 結婚の贈り物ににしたいから」

千津美が必死に頼むので、お願いすることにした


白い糸を買うと
編み針は意外と器用なバラゴさんに頼んで作ってもらった


「ホントにそんな細い糸で編むのかい」
ガーヤおばさんも、興味津々で尋ねる

この世ではざっくりした編み物はあったが、
こんな繊細なものはない

千津美が編み上げていくレースの飾りに
大抵のものは吃驚する

「あたしにも、何か欲しいわ」
グローシアが羨ましそうに言った

何となく自分がこの世界で認められたようで
嬉しい千津美であった




イザークと功は、毎日早朝から剣の稽古だ
もともと備わった素質と
すでに習得している剣道をはじめいろいろな武道の下地もあり
そして何よりも本人の上手くなりたいという強い意志のせいか
功の上達はぶりは目覚ましかった

イザークに言わせれば
おれほどではないが、ということだが


イザークはノリコが家を出た当初は
ひどく不機嫌で落ち着かないことも多かったが
今はもう諦めたのか、普段の彼に戻っていた
一日過ぎれば、それだけ一緒に暮らせる日が近くなると
やっと自分を納得させたのであろう

それでも午後ノリコ達がやってくる時間になると
そわそわしてバラゴによくからかわれる


千津美と功は相変わらず
休憩時間や食事の時に言葉少なく寄り添っていた

「なんかあの二人見てるとなぁ
 この辺がなむず痒くなってくるんだよな」
バラゴが自分の胸をかく

「あんたが不純すぎて、後ろめたいんだろ」
ガーヤに指摘された

ノリコとイザークは、まだ「出来ていない」が
最初っから抱き合って寝たり、ノリコがイザークに抱きついたり
近頃のイザークは人目もはばからずノリコに口づけたりと
結構べたべたくっついている

しかしこの二人は本当に、一緒にいれば満足という感じで
時々千津美がドジって転びそうになったり
ぶつかりそうになる時に
功がその身体を受け止める以外は
ほとんど身体の接触はない

「付き合ってもう5年だとよ…」
あきれたようにバラゴはつぶやく

イザーク達といい、こいつ等といい
ガーヤの言う通り、おれが不純なんだろうか…
今のところこの見かけが災いして
女とそんな関係を持ったことは無いが

「普通、両思いになったらよぉ」
遠慮なく押し倒すぜ…



夕食時には、ガーヤやアゴルとジーナが訪ねてくる
「お迎え」と称して、アレフやバーナダムも来る
たまにジェイダ家の兄妹も加わる

いつも賑やかな晩餐であった

「おれの家はいつから食堂になったんだ」
しかも無料の…
憮然としてイザークがこぼす


平和な毎日であった
何よりも結婚式を控えている二人に取っては
一日一日がひどくゆっくりと、けれども輝いて過ぎていった





だが結婚式まであと一週間となったその日の夕方

アレフたちはガーヤやアゴル親子と途中で一緒になり
皆でイザーク達の家に向かった

「なんか変だね」
いつもはランプの光がともり
美味しそうな匂いが漂ってくるその家が
今日は薄暗くしんとしている

ノックをしてからドアを開けると
灯りのともっていない部屋に
功とバラゴが呆然と突っ立ていた


「どうしたんだい…」
「何かあったんですか?」

いつもと違う暗い雰囲気に、皆焦って聞く


「ありえねぇ事が起こった…」
信じられないという顔でバラゴが言う


「どうしたんですか?いったい」
アゴルが苛立たしく尋ねる

「まさかノリコの身に何か!」
その場に彼女の姿が見えないのを気にしてバーナダムが叫ぶ



「いや、ノリコなら中庭にいる…」
千津美が傍にいる、と


「いい加減にしておくれ!何が起こったんだい」
切れたようにガーヤが言う




「ノリコとイザークが…」



「喧嘩した…」


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