序章 その想い 






あたし達の長い旅は、ようやく終わった

イザークが
「ザーゴに住むか…」
と、言ったので一も二もなく賛成した

あの当時の仲間が一番いる所だから
知り合いの近くにいたいと、言うのが照れくさいのかな
それとも、寂しがり屋のあたしに気を使ってくれたのかな

ここにはジェイダさん一家と
警備隊のアレフ、バーナダムがいる
ガーヤおばさんのお店もある

バラゴさんやアゴルさんとジーナは
どこに行こうが絶対ついてくるし…
それを迷惑そうにしながら
本当は嬉しいんだよね、イザーク
わかるよ、あたしには


あたしはね…

あたしは、イザーク
どこででもいいんだ
あなたと一緒だったら
たとえ地の果てでも
旅から旅の、知る人など一人もいない生活でも
あなたさえそばにいてくれれば…

せっかくイザークがザーゴに住もうと言ってくれているので
そんなことはもちろん言わないけれど…


あたしはあなたの胸に抱きついて言ったんだ
「嬉しい、イザーク!!!
 また皆と一緒だね!」
そんなあたしに、あなたは優しく微笑んでくれた

まるで、おまえの考えている事などお見通しだぞ
とでも言う様に…

二人で住む家を探して、
修築したり、改装したり
その間に家具とか揃えて、内装を決めたりして
やっと今日からそこに住める様になった





最初はびっくりしちゃった
この町に住むって、言った途端
ニアナさんとグローシアが張り切って
いろいろ見せてくれたんだけれど
住居を… 

なんか、100人招待しても大丈夫そうな大広間だとか
寝室だけでも、両手の指では足りないような豪邸ばかりで… 

イザークは平然としていたけれど
あたしはちょっと困った…

「どうした、ノリコ? 何か不満か?」

イザークがそんなあたしに気づいて、不思議そうに問う

「だ、だって…イザーク
 こんな大きなお家では、あたし掃除とか無理だよ、一人では」

「ぷっ、何言っているの? ノリコは」
グローシアが吹き出して

「そんなのはちゃんと使用人がしてくれるから
 ノリコはただ座って、イザークの事だけ考えていればいいのよ」

「えっ、でも… 」

せっかくの好意なので、否定したくないんだけど…


イザークが あたしの顔を覗き込んで、言う
「おまえの家だ
 おまえが一番気に入るようにすればいい
 希望があれば、遠慮なく言え」

そうだよね、今言わないで不満を抱え込むよりは… 

ぐっと両手に力をこめて、覚悟を決めてあたしは言ったんだ

「あたしは、イザークとの生活を大事にしたい
 イザークの為にお家をきれいにしたり、お洗濯をしたり、お料理をしたり…
 そんなふうに暮らしたいの
 だから、使用人を雇わなければいけないような大きなお家でなくて
 二人で暮らしいけるような、もっと小さなお家がいい…」

笑われるかな、と思った

考えてみれば、グローシア達の方が正しいんだ

だって、イザークはこの世界を闇から救い、光の力で立て直していった人だもの
ザーゴの国にとっても彼がここに留まるという事は
すごく名誉な事で…
王侯貴族にも劣らないようにな暮らしをしても当たり前な人なんだ

それなのに、あたしったら
変な事言っちゃったかな…

うん、やっぱり変…
あたしが我慢すればいい事だから

「ご、ごめんね、変な事言っちゃったよね
 あたしは、ほんとどこでも良いから
 イザークと一緒だったら」


「ノリコ… 」
イザークが、優しくあたしを見る

こうやって見つめられると
もうたまらない
何でも彼の望む事ならしてあげたい…

「…いいの、イザーク。ここに決めましょう」
それなりの生活に慣れていけばいい…

けれどイザークにはわかっちゃうんだな
あたしの思いが…



翌日、彼はあたしをいくつかお家を見せに連れて行ってくれた
2階に寝室が3つしかないような、小さなお家…

街の中心からちょっと離れた所にある
中庭が広くて日当りもいい
そんなお家が気に入って…

「ここにするか?」
彼は、あたしに聞いた

「で、でもイザーク。こんな小さなお家でいいの?」


イザークはあたしの肩に手を置いて、 真顔で言う

「ノリコ…
 おれとの生活を大事にしたいと…
 おまえのその想いだけで充分だ」

「おれにとって『家』とは、おまえが…
 おれを待つおまえがが居る場所だ
 豪華な館だろうと、粗末な小屋だろうと関係ない
 そこにおまえさえいてくれれば…
 それ以上は何も望まん」


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それまで、ジェイダさんの館やガーヤおばさんのところに泊まったりして
新居の為に準備をした

家の修築を、イザークだけでなくバラゴさんやアゴルさんも毎日手伝ってくれて…


カーテンやら、絨毯やら、その他の細々したものは
グローシアやニアナさんがおすすめのお店を紹介してくれた

お家選びの時に、ちょっと悪かったかなぁと思ってたんだけれど
グローシアらしく、さばさばとして
「ちょっと、あてられちゃったわ
 ノリコがああ言ったときのイザークの表情ったら…」
って、あたしもうあの時余裕なかったから
イザーク、いったいどんな顔していたの?

「ふふん…、ぽかんとしてたわよ
 今聞いたことが信じられないって顔で
 何か言いたいけれど、言葉が出ないみたいな…
 だってノリコったら
 あなたのためだけに生きたいって、言ったも同然よね〜」

で、でもグローシア…
あたしがここにいるのは、イザークと一緒にいたいからだけで…
イザークの為だけに生きたい、ってあたしにとっては
ごくふつうの気持ちなんだけれど…










今日は、新しいお家のお披露目

お昼ご飯に、親しい人達を招待した

新しいお台所で、朝から一杯お料理した

お天気がいいので、中庭にテーブルを出して
そこで、皆で食べられるようにと

近くのお花畑で摘んできたお花を飾って
お皿やコップ、そしてお料理を並べて

あたしは、とても幸せだった


ガーヤおばさんは、早い時間からお手伝いにきてくれたし
バラゴさんや、アゴルさんとジーナはもちろん


グローシアや、ロンタルナ・コーリキ
アレフやバーナダム

グゼナから、ゼーナさんやアニタ、ロッテニーナも駆けつけてくれた

あ、ドロスさんも来てくれた
チモでシンクロして

でも疲れてない・・・

「あ」
あたしは、 晴れ渡った蒼い空を見つめる

『ノリコ、嬉しいよ。これからは隣人だね』

そうだ、白霧の森はここからそう遠くない所にある


「うん、あたしも嬉しいイルク。これからもよろしくね!」



皆が祝ってくれる

なによりも、イザークが傍にいてくれる

これ以上の幸せは、もうない…

そんな想いだった


食事前 まだ席に着かず 

懐かしい逢瀬に

飲み物を手にして
挨拶だの、軽口だの、
時にちょっとしたおふざけだの
楽しい時が過ぎていった

ちょっと酔っぱらったバラゴさんが言う
「それでよぉ〜、イザーク。
 どうするんだよ、これからノリコと?
 家まで用意しちまってさぁ、今まで通りってわけにはいかないよなぁ〜」

やっ、やだ何言い出してるのよ、バラゴさんたら…
たぶん赤くなってるだろうな、あたしの顔
思わず顔をふせてしまったあたしの目に
自分の両手がしっかりと握られているのが見えた

「えっ」

そこに跪いたイザークの顔も加わった





「これからもずっとおれと一緒にいてくれるか?」


「おれの妻になって…くれるか、ノリコ?」

「…!…」


まっすぐにあたしを見てくれてるイザークの瞳が…
顔が…
どんどん滲んで…
見えなくなる


一緒にいられればそれでいいと思っていたんだけど
期待していなかった…わけでない

「あ…あたし、嬉しい、本当に…、イザーク」
しゃくり上げながら言ったので、ほとんど声になってなかった

立ち上がったイザークがあたしを抱きしめた
顎に手をかけて、うつむいていたあたしの顔を上げると
唇をかさねた
優しく、甘く、でも熱く…

皆見てるのに…
恥ずかしいけれど、逆らえない
…それに、嬉しい


「おめでとう!ノリコ、イザーク」
皆が、祝福してくれた


もうこれ以上はないな…

恐いくらい幸せすぎて
それ以上は何も望んではいけないと
もうそれ以上望むものなどないと

あたしはそう思ったんだ






その後、食事しながら
皆に冷やかされたり、からかわれたり…


普段のイザークは
そんな目にあうと、不機嫌になったりするのに
今日は甘んじて受け止めている

珍しくやにやしているかも…


「おいっ、ホントに嬉しいんだな、おまえ!」
「あはは、だがほっとしたぞ。歯痒かったからな、あんたたちは…」
「すごく綺麗な色が見える。きっと幸せになれるよ!」
「おらも、うれしいど…」
「最初は、あんなに突き放してたのにな」
「いやあ、最初っから結構大事にしてたよ」
「ちぇっ、ノリコを不幸にしたら承知しないぞ…」
「うらやましいですわ、とても幸せそうで、ノリコ」
「あたしも早く素敵な彼がほしいわ、でもゼーナ様のところに居たのでは機会が…」
「あんたたち…、イザークやノリコがどんな思いでここまで来たんだと
 わかってるのかい?そんな覚悟があるのかい?」
すみません…
「いやぁー、でも彼のこんな笑顔も今日で見納めかもしれませんよ」
「あんた、何不吉な事をここで…」
「手にしたが最後  いつそれを失うかと
 恐れながら生きていかなければいけないわけですし…はは」
「隊長、前から思っていましたが…性格悪いっすね」
「ホント、最低の人間よね…」
「い、いえおれはただ、場を盛り上げようと…」

気安い仲間たちのおしゃべりは尽きない。


「ところでさ、イザーク?」
ガーヤおばさんが言う

「ん?」

「式はいつあげるんだい?」


イザークがちょっと困った顔をしたので、あたしはドキッとした

「別に…考えていないわけではない…」
「だったら、今から準備を…」
ガーヤおばさんは、もう乗り気だ

「だが、その前に…」
イザークがあたしを真顔で見た

ドクン…

なんだろう



「ノリコ、おまえに言わなければならない事がある…」







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