二人の物語 4


もう夜明けなんだ…
窓の外が明るくなっている気がする

うつらうつらとしていた千津美が目を覚ました

藤臣くんはぐっすりと寝ている
わたしの身体に廻している彼の手が緩んでいた

前の晩、きっと彼は寝ていなかったから
疲れがでたんだろうな…


功を起こさないように、千津美はそっと身体を離し起き上がった


藤臣くんの寝顔は穏やかだった

以前もこうして彼の寝顔を見ていたことがあった

普段の彼はひどく落ち着いていて、大人で…
わたしの手が届かないところにいるような人なのに
寝顔は無邪気でなんだかわたしは安心してしまったんだ

あの頃とは違う私たちがここにいた

二日前の晩からの思いがけないことばかりだった
突然藤臣くんが現れて…
今、私たちはこうして一緒に朝を迎えている

昨夜の彼は約束通り優しくしてくれた…
優しかったけれど…

功の行為のひとつひとつを思い返して千津美は赤くなった


千津美はそのまま立ち上がると浴場へ向かった
鏡にうつっている自分の身体を見た

増えてる…


昨夜は暗くて気づかなかったけれど
外側は海に面していてお風呂につかったまま水平線が見える

湯船の縁に腕をかけ、そこに顎をのせると千津美は海を見た


大学の友達は、知り合って間もない彼氏とそういう関係になったことを
わりと平気でおしゃべりしていた
聞かれるままに、高一からつきあっている人がいると
まだそんな関係ではないと話すとかなり驚かれた
わたしがその頃からずっと一人暮らしだと言うと
驚きはなんだか不審に変り、ひどいことを言われたこともあった

章さんや三浦さん、園部さんにもよくからかわれた

わたしは、そんなことを気にしたことはなかったけど

藤臣くんはどうだったのだろう…



水面がざざっと乱れた

彼の両腕が後ろからふわりとわたしの身体を包み込んだ
唇が耳元を探り息がかかった

何か言うのかと思ったけれど、耳の下に軽くキスをしただけで
黙ってわたしを抱きしめていた





目が覚めると、彼女はいなかった

がばっと起き上がると薄暗いあたりを見渡した

見慣れない部屋には使われていない布団がもう一式敷かれている
丁寧にたたまれた彼女とおれの浴衣が並んで置いてある
昨日、仲居から死守するように彼女が抱きしめていたかばんもあった

そしてなによりも、おれの腕に彼女の感触がまざまざと残っている

よかった…夢じゃない

ぱしゃんと水音が風呂場から聞こえてきた



ドアを開けると、夜明けの海を見ている彼女の後ろ姿が見えた
華奢な背中が薄暗い中、誘うように白く浮かび上がっている

おれはすぐ後ろに腰をおろすと彼女の身体を抱きしめた
耳元に口を寄せ、何か文句でも言ってやろうかと思ったが
やめて代わりにそこにキスをした


しばらくそうして千津美を抱いていた功が
彼女から手を離すと並んで一緒に海を見る

もう大分明るくなってきていた


「ねえ…藤臣くん」
今だったら訊けるようなそんな気がした

「ん?」

「あのさ…もしかして…藤臣くん、わたしのこと…」

それでもやっぱり言いにくい
横を向くと、やはり千津美を見ている功と目が合った
功は優しく、何でも話せよというように微笑んでいた

千津美は思い切って訊いた

「わたしのこと…前からこうして抱きたいと思っていたの?」



「そうだな…」

意外な質問に功は戸惑ったが、千津美が必死な顔で訊いているので
正直に答えることにする

「おれだって男だからな…」

「どのくらい前から…?」

「志野原…」
功は少し照れて目をそらした

「好きになった女を抱きたいと思うのは自然なことだと思うが…」

「えっ…と、じゃあ…」

「初めて会った時からだ…」

「…」

千津美は赤くなった顔を組んでる腕の中に埋めた
そのまましゃべったのでその声はくぐもっていた

「じゃ…じゃあ、藤臣くんずっと我慢してたんだね」

「別にいやではなかった」
そう言って功は千津美の頭にポンと手を置く


「おまえは、どうしていた…?」

もしおれが、ずっと以前に求めていたら…


「だ…だって、藤臣くんだもの、いやじゃなかったと思うよ」

「そうか…」

「でも…藤臣くんの気持ち、嬉しいな」

千津美は顔を上げて功を見ると嬉しそうににこっと笑った
功も千津美に微笑んで、また視線を海に戻した


藤臣くん、何か考え込んでる…

千津美は気がついたが、黙って海を見ていた




「おれ、警察官試験を受けたんだ…」
功が唐突に言った

えっ、と千津美は海から功の顔へと視線を移した

「夏に…おまえが去った後に…願書を出して…」
「受かったの…?」
「ああ…二次も…」
「じゃあ…今の会社やめるんだ」
「本社からはとっくにとばされている…」

今は埠頭の倉庫会社にいると言う功に
千津美は作業服のことがやっと納得がいった

「やっぱり、会長のお孫さんのお話を断ったのが原因で…?」
「ああ…」

心配そうな顔をしている千津美を横目で見るとくすっと笑う

「でも…それはそれでよかったと思っている」

今の職場の方がずっと働きやすいと功は言った

どのみち本社に長く勤める気は最初の数週間で、すでに失せていた



「へぇ、じゃあお父さんみたいに警察官になるんだね
 もしかして、本当は憧れていたとか…」

「ん…」

「わたし、全然知らなかったな…」
あんなに長いことつきあっていて…

「おれが言わなかったから…」

「どうして…藤臣くん」

小さい頃は、大きくなったら父さんみたいな警察官になるのだと
信じて疑わなかった

けれど、志野原とつきあい始めてから、その夢を自分から遠ざけた

願書を出したのは、まだおれが彼女を忘れようとしていた頃だった
彼女のために諦めた道へ進めば、彼女への思いを断ち切れるような気がした



「おれたちがまだ小さい頃…母さんはよく泣いていたんだ」

「…」


その頃の父さんは毎日激務に追われていた
家にいる方がめずらしかった

おれたちの前では笑っている母さんが
夜、目を覚ましたおれが母さんを捜して行くと
台所の机に突っ伏して泣いていたことがあった

それは一度だけではなかった
子どもだったおれの目にになぜかその姿が焼きついてしまった

だから…


「知らなかった…
 章さんによく似た明るい人だと思っていたのに…」


仕事熱心な父さんを母さんはむしろ尊敬していた
「けど…やはり、いろいろ辛かったんだろうな…」


「やだっ」
はっとして、千津美が叫んだ

「も…もしかして、警察官になる夢のこと黙ってたのは
 わたしのために諦めるつもりだったとか …?」

功が千津美を見る、その目はひどく穏やかだった

「ああ」


「だ…だめよ、そんなの…絶対に…」

「おまえがそう言うのはわかっていた」


子どもの頃見た母さんの姿が、彼女とつきあい出した頃ふと蘇った
なぜだかおれは将来の希望を彼女に話すことができなかった

彼女に母さんみたいな思いをさせたくなかったんだ
だから黙って普通の会社員になることを選んだ

けれど、そのせいで余計彼女に辛い目に合わせてしまった


おれはおれの間違いに気づいていた

いつも自分が正しいと思ったことを何も言わずにやってきた
彼女に対してもそれは変わらなかった

それが彼女を大事にすることだと
彼女のためなのだとひとりで思い込んでいたんだ

そして、それと同じことを彼女もしたのだった…

彼女はおれがあの会社にずっといるものだと思っていた
おれが彼女には何も言わなかったから…

彼女はおれのためにと、嘘までついて身を引いた
それがおれのためだと疑わずに…

おれに一言訊いてくれていたら…と、ただ腹ただしかった…

だが、そうして初めておれは今までおれが彼女に何をしてきたのかわかった


二人のことを話し合うくらいはおれにだってできるはずだ
少なくとも努力はしてもいいんじゃないかな…と思った

二人で出した結論の結果が辛いものであっても
お互いで分かち合えばいいことなんだ


だからずっと彼女には言うまいと思っていたことを話してみた
彼女は思った通りの反応をした


「警察官の妻は辛いぞ…」

志野原はいつもの癖で、握りこぶしを口にあて
おれの顔をじっと見ている

「おれはおまえをそんな目にあわせたくないんだ」

「う…うん」

今の会社は3月いっぱいで退社することになってるが
主任は他に仕事がなければいつでも来いと言ってくれている

「今のところで働きながら、公務員試験を受けることもできる」

「でも藤臣くんは警察官になりたいんでしょう」

「ああ…」

今、なぜだかこんなに素直に言える


「け…警察官だって奥さんいる人いっぱいいるでしょ
 なんで、だめだと決めつけるの?」

「…」

「おかあさんだって、そりゃあ辛いこともあったかもしれなかったけど
 決して不幸じゃなかったよねっ」

「そ…うだな…」

「わたしじゃ、頼りなくてだめだと思ったの?」

必死に千津美は功を見上げた




「藤臣くん!」

千津美がいきなり功に抱きついた

「!」

「わたし…頑張るから…」

功の胸で千津美が叫んだ

「だから…藤臣くんも諦めないで…お願いだから」



「頑張らなくていい…」

功は優しく千津美に言った

「辛いことがあったらおれに言うと約束してくれ…」
隠れて泣くなよ…と功が言った

泣く時はここで泣く…
千津美は功の胸にすがったままそう約束した





休憩で立ち寄った日曜の午後のサービスエリアは
行楽地帰りの人々でごった返していた

「藤臣くんはずっと運転して疲れているから、ここにいてね」
と、ベンチにおれを座らせて志野原はコーヒーを買いに行った


彼女は、おれが希望通り警察官になると言った時
本当に嬉しそうに、良かったと言ってくれた

おれのためだけじゃない
そうしてくれた方が自分も嬉しいのだと
あわない会社勤めで悩んでいたおれを見ながら
彼女もまた辛かったのだと教えてくれた


志野原が両手にコーヒーカップを持ってこっちに歩いてくるのが見えた
それは幻想じゃない、現実の彼女だった

「あん…」

人にぶつかって、落とすまいと必死でカップを握っている

一見ひどく頼りなくておぼつかない彼女がどれだけ芯がしっかりしているか
今朝おれはあらためて思い知らされた

おれより…ずっと、強いのかもしれない

おれはそんな彼女に今までどれだけ助けられてきたのだろうか


目が合って、彼女がニコッと笑った

「藤臣くん、お待た…」

そう言った瞬間、彼女がつんのめり
座っていたおれにコーヒーがふりかかった



「ごめんなさーい」
洗面所であらったおれの髪をハンカチで拭いながら彼女は言った

「やっとおれにもまわってきたんだな」
おれは笑って言った

「?」

彼女はきょとんとしておれを見た


豪法寺は小麦粉、小室は水だったな…





かあさんとおれは手持ち無沙汰に食卓に座っていた

夕飯の準備はほぼできていた
後は火を入れたり暖めたりするだけでいいらしい

本当に功は今日帰ってくるのか…
彼女を連れてくるのか…

なんだか落ち着かない

「温泉か…」
なんだか功らしくないな…

「まあ、変なホテルよりましじゃない」
かあさんは笑って言った

「あいつ、本気なのかな…」

「事前に泊まるところ予約しているくらいだから…
 大事にしているんじゃないの?」


だが、相手の彼女は…?
功のことをちゃんとわかっているのだろうか…
おれが心配しても仕方がないのだが…

ちぃちゃんと別れてからの功は本当に見ていられなかった
あいつは、新しい彼女を得て本当に立ち直れるのだろうか

中学時代につきあった彼女のように
結局は不器用なあいつが重荷になって離れていってしまうんじゃないかと
一抹の不安がおれにはあった…


バイクが止まる音がした

「!」

母さんとおれははじかれたように立ち上がると、表へと向かった



功がヘルメットを取るとバイクから降りた

後ろに座っていた彼女が、功から手を離すと
いきなり身体のバランスを崩して転げ落ちそうになった
絶妙なタイミングで功がその身体を受け止め
そのまま抱えるとひょいっとバイクからおろした


「…」

母さんとおれはなんだか懐かしい気持ちに駆られてその光景を見ていた


功が彼女のヘルメットを取ってやってから
乱れた髪を手ぐしで直していた…少し荒っぽく


「あ…」


「お久しぶりです」

ちぃちゃんが、恥ずかしそうにぺこりとお辞儀をした





着替えた功が部屋から出てきた
廊下で待っていたおれと目が合うと、何気にそっとそらした

恥ずかしいんだな…

おれはにやりと笑って言った
「ちぃちゃんじゃないとだめだって、気づいたんだな…」

「そんなことは、はじめからわかっていた」
横を向いたままだったが、久しぶりに功がまともに答えた

「だったらなんで…」

「にいさん」

おれの言葉を遮るように功が言うと、おれの顔を見た

「心配かけたな…」

功の目はひどく穏やかに澄んでいた


よかったな、なんて言ってやろうかと思った時

「きゃあ」
と叫び声が聞こえ、がちゃんと皿の割れる音がした

「志野原」

功はそう言うと
台所でかあさんの手伝いをしているちぃちゃんのもとへと飛んでいった

おれは笑いながら、功の後を追った


「ごめんなさぁい」
ちぃちゃんが床にひざまづいて慌てて割れた皿の欠片を拾い集めている
功が屈んで一緒に拾い始める

そんな二人を可笑しそうに口に手を当てて見ている母さんを功が見上げた

「ごめんなさい…千津美さんが戻ってきたんだ…って嬉しくて」



「やけに騒がしいな」
父さんまで来た

「おっ…」

「ご…ご無沙汰してます」
床からちぃちゃんが慌てて挨拶した

「割ったのか…」
やけに嬉しそうに父さんが言った

「はい…」
情けなさそうにちぃちゃんが答える

はは、と笑いながら父さんは戻っていった
功ほどではないが、めったに笑うことがない人なのに…

ちぃちゃんには全くどんなパワーが宿っているんだろうか…
おれは感心してしまった


その日のうちの食卓は、 母さんとおれとちぃちゃんが主におしゃべりをして
父さんや功が普段よりずっと楽し気にそれを聞いていた

功がちぃちゃんと別れてから覆っていた暗い雰囲気が嘘のようだった



「ちぃちゃん、今日は泊まっていけよ」

それはいつも彼女が遅くまでいる時におれがかける言葉だった

そうすると功がじろっとおれを睨んで
「志野原、もう遅い」
とか言いながら彼女を家まで送っていくのが通例になっていた


久しぶりにそう言ってみた

「あ…でも、明日大学があるから…」
赤くなった彼女がそう言うと

「明日の朝はおれが送ってやる…」

遠慮しないで泊まれ、と功が言った

おれは母さんと目を合わした
父さんはこほんと咳払いすると席をたって部屋へ戻っていった




「あら、じゃあ一緒にお風呂でも入らない?」
母さんが明るくちぃちゃんに言った

「久しぶりだから、いろいろお話ししたいし…」

「え…」

彼女が青くなって固まっている
功も少し困った顔をして言った

「志野原は…おれと入るから…」

「あら、だって一緒に温泉に行ってきたんでしょう?
 今夜くらいはいいじゃないの…」

功が、なんで知っているというように驚いて母さんを見た

おれは、吹き出しそうになるのをこらえて母さんの肩をたたいた

「こいつらの好きなようにさせてやれよ…」


それからちぃちゃんに訊いた
「温泉…よかった?」

「あ…はい、お部屋に露天風呂もついててすごく良かったです…」

「へーっ、露天風呂付きの部屋か…奮発したな、功」
おれは笑いながら功をみた

「あ…あの、藤臣くんはわたしのためにっ…」
彼女は言ってからしまったというように口を押さえた

功はおれと目をあわせまいとして横を向いていた


結局、二人は一緒に風呂に入って仲良く功の部屋に入っていった



「あいつ…ひとりでは抜け出せなかったんだな…」
おれがつぶやいて、母さんもうなずいた

「でも、よかったんじゃないの」

「そうだな…」

たとえ自力で立ち直れたとしても、ひとりでいる功より
隣にちぃちゃんがいる功の方がずっといい…





翌朝、功に校門でおろされた千津美が
いつも三浦や園部たちと待ち合せている所へ行くと…

そこに豪法寺と小室がいた


「ど…ど、どう…して」
驚いた千津美がしどろもどろに訊ねる

「わたしが豪放寺くんに頼んだの…
 だって志野原さんが話したって、全然無視なんでしょ!」
三浦が怒ったようにそう言った

「わたしも…そう思って、小室さんに…」
園部は恥ずかしそうに言う

「そいつはどこだ」
豪法寺が訊ねた

「あそこよっ」
三浦が指差した方向にその人がいた


「ちょっと顔かしてくんな…」
豪法寺は久しぶりにドスをきかせてそう言った

裏庭の校舎の壁に、その人を押し付けるように立たせると

「てめぇ、志野原にしつこくつきまとっているそうだな」
顔をほとんどくっつけるように言う

その人は青くなって震えて声も出ない

「豪放寺くん!」
千津美が叫ぶ

「ん?」

「もういいのよ…本当に…」
「おめぇがいやだと言うのに聞かないんだろ、こいつ」

「で…でも、金曜の夜に…」
「金曜の夜にどーしたんだ?」
「その人ね…わたしのアパートの前で待っていてね
 無理矢理部屋に上がろうとして…」

「なんだと…」
それまで黙って豪法寺のことを見ていた小室が

「きさま…無理矢理志野原の部屋へ上がったのか」
その人の胸ぐらを掴んで言う

「男の風上にもおけんやつだな…」


ひぃーっ、と悲鳴を上げながらその人が言った
「あ…上がってなんか…、お…おれあいつの男に投げ飛ばされて…」

「あいつの男…?」



「なにやってんだよ、おまえら…」

千津美の方から声がして、みんな振り返った
バイクを停めてきた功が千津美の横に立っていた


「おめぇこそ、なにやってんだ?」
豪法寺に聞かれて

「そいつに用があるんだ」
功がその人を指差した

千津美から詳しく話を聞いた功は
もう一度ちゃんと話をつけようと来てくれたのだった
主任には今日遅くなると連絡してあった


「お…おれ、もう二度と彼女には近づきませんから…」
恐れおののいたようにその人は言った

「本当だな…」

三人から睨まれて、はいっと叫んで転がるように逃げていった



「だけどよぉ、なんでおまえ…」

「ああ…」
功は見回した視線を最後は小室にとめた

「心配かけたな」



「おれ、仕事に行くから…」
そう言って功は千津美を見た

荷物を取りに 家へ戻った数時間をのぞいては
金曜の夜からずっと一緒にいた

こんなに長いこと一緒にいたのは、つきあい出してから初めてのことだった

少し名残惜しかったが…

「七時頃には帰れると思う…」

帰れる…?
傍で聞いていたみんなが首を傾げる

「うん、 待ってるね…」

そう言う千津美の頭をポンと叩くと功は去っていった


藤臣くん…
ずっと一緒にいてくれた

功の後ろ姿が見えなくなるまで見送っていた千津美が振り向くと
呆れたような顔をした友人達がいた

あっ…と千津美が赤くなる



「おれ、仕事戻るわ…」
「おれも…」
そう言う豪法寺と小室に

「本当に、来てくれてありがとう」
千津美があわてて礼を言う

「まあ、おれたちがわざわざ来ることもなかったようだが…」

「で…でも」

「よかったな…」
小室が千津美の肩をたたくと豪法寺と一緒に去っていった



「あほらし…行こう」
「あ…うん」
三浦と園部が行こうとするのを

「あん…待って…」
と、千津美が慌てて追いかけた






「功…今日も帰らないの?」

功がちぃちゃんとまたつき合い出して、二週間近く経っていた


「帰る時は、夕方までには連絡くれるっていってたから…」
そう言う母さんはもう心配そうな顔をしていない…


時々は顔を見せなければいけないとでもいうように功は帰ってくる
そんな時はいつもちぃちゃんが一緒だった


「結局あいつ…ずるずると女の所にいついちっまった…」
おれはひとりごちた


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Chizumi & Fujiomikun

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