One More Story 10


その館の使用人の一人に
現政権のスパイがいた

大臣二人が匿われていると知って
その館に攻め入るつもりで
様子伺っていたのだが



昨日、ザーゴ国のジェイダ左大公の息子がやってきて
エンリとカイノワ大臣を連れて行ってしまうとの情報が届き

総勢百人程度の軍隊がその館に向かっていた







イザークは部屋でノリコをその腕に抱きしめていた

「すまん…おれが傍にいながら…」

「イザークは悪くないよ、それにちゃんと助けにきてくれた」
着替えたノリコが、イザークを見て微笑む

「だが…」

おれのせいだ…
間違いなくおれのせいで、ノリコがあんな目にあったんだ

まったく知らなかったとはいえ
おれに惚れた女がしでかしたことだ

考えるだけでも腑が煮えくる

なぜおれを得る為に
ノリコを襲わせなければならん…

いったいどこをどう考えたらそんな結論が出るのか
おれには理解できん


「連れてきてしまって、悪かったな
 宿に残っていたらこんな目には…」


「イザーク…」

「イザークが傍にいたから、助かったんだよ
 絶対きてくれるってわかってたもの」

だからこわくなかったよ
ノリコがいつもの優しい目でイザークを見上げた

先ほど、あんな目にあったばかりだというのに
にっこりと笑う

「あたしは…イザークの傍にいたい…」

「また、迷惑をかけてしまうかもしれないけれど
 でも、やっぱりイザークと一緒にいたい…」


「だめかな…」



「だめなものか…」


ノリコを抱きしめる手に力がこもる

離すものか…
この先絶対に、彼女をこの手から離しはしない…







階下が急に騒がしくなった


敵の来訪には気づいてはいたのだが
ノリコのことを何よりも優先したかったので
ほうっておいたのだ

「少し…待ってろ」



廊下で慌てて下に向かうバーナダムを捕まえると

「下はおれがなんとかする、おまえはノリコの傍にいてくれ」

おれが…おれでいいんか?
と聞く暇もなく、イザークは階段を使わずに階下へ飛び降りた



館の玄関ホールに総勢30名程度の国軍が
この館の警備兵…20名にも満たないだろうか…をじりじりと追い詰めていた

玄関の外には、その倍以上の兵の雄叫びが聞こえる


絶体絶命という言葉が
館の兵全員の頭に浮かんだ時に


敵と館の警備兵の間に、トンっとイザークが飛び降りた


警備隊長がうなった
「あんたは関係ない、引っ込んでいろ…」


だが、イザークは
「エンリとカイノワ大臣は
 これからおれたちと一緒に行動をともにする
 だからこの二人の警護はおれの役目だ」



「おれは…」

イザークが敵兵を睨む
どんっと重い空気が押し寄せた

「おれは、一刻でも早くノリコをここから連れ出したいのだが…
 こいつ等のせいで…」

「何をいっているんだ、あんたは!」

何故この状況で女のことを考える…
理解出来ない警備隊長が
苛立たしく叫んだその時


「これ以上、邪魔はさせん!」
イザークの気が大きく炸裂した


凄ましい遠当てで、そこに居た敵兵が吹っ飛んだ


館の外に出る

中に居た倍以上の兵がそこで構えていたが
あっという間に制覇してしまった


本来ならば、命令に従って行動している兵士には罪はないと
そこそこ手加減するのだが
ノリコのことで最悪不機嫌な彼だったので
兵達は八つ当たり的な攻撃をくらってしまった

運が悪かったのだろう





馬と、馬車の用意を…
と彼に促され、警備隊長ははっと我にかえる

街まで送ろう、と申し出たが
「いらん」と返された  




一行を見送りながら
警備隊長は
すごいものを見てしまったと
ひとりごちた







「おかえり、早かったね」
「どうした、なにかあったのか」


数日間は泊まるはずの一行がその日のうちに帰ってきたので
皆に尋ねられる

バーナダムが説明した


「それは大変だったな」

百名の敵兵に襲撃されたことよりも

ノリコが襲われそうになった時の光景を
思い浮かべて、身震いした

イザークの怒りがどれほどのものだったか
想像するに難くない

その場に居合わせなくて良かった
と心から思い、ほっとする



敵を一網打尽にしたとはいえ
追っ手がかかる危険があるので
一同は速やかに宿を引き払い

次の目的地へと向かった







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