One More Story 11







二人きりで旅していると
いやでも気になることがある

街路、お店、食堂など…
とにかく人目につく場所にいると
じろじろと見られるのだ…

特に妙齢の女性達の視線が鋭い

そりゃあ、 あたしみたいな女の子と
イザークが一緒にいるってことが不思議…
と思われても仕様がないんだけれど





グゼナの両大臣を連れて
一行はドニヤ国を目指して旅をしていた

国境近くの街で、ジェイダがイザークとノリコを
話があると呼んだ


ゼーナの占いで
ドニヤの消えた大臣の居場所がわかったらしい
彼をみつけたら
ひとまず「砂隠れの町」エンナマルナへ落ち着くのが、吉
と出たらしい

そこまでの旅程に、危険はないらしいとも


「そこで、君たちにお願いがある」
ジェイダが何故か言い渋ってる…

「これは全く個人的な依頼で申し訳ないのだが…」

なんでもやはりゼーナの占いで
彼の奥さんと娘さんが警備隊長と一緒に
東大陸のアイビスク国の小さな村でお店をしているとわかったそうだ

「彼女達をエンナマルナまで連れてきてもらえないだろうか…」








そうしてイザークとあたしはまた二人きりで旅をすることになった

仲間と離れるのはちょっとだけ寂しかったけれど
でもイザークと二人きりの旅
それはそれでとても嬉しかった


けれど大勢でいると全く気にならなかったので
忘れていたことを思い出した


イザークは常に女達の注意を引く

大抵は横目でうっとりと見つめる程度だけど
時々積極的にイザークに話かける女性もいる
あたしの存在などまるで無視して…

あの頃のあたしは、イザークがどうしようと
文句を言える立場ではなかったから
そういう時もただ諦めていたんだ
でもイザークは決して
あたしを残して彼女等と消える
なんてことは しなかった

ただ鬱陶しそうににらみつけて
それでも向こうが去らなければ
あたしを連れて黙ってその場を去って行くのが
彼のやり方だった

女性相手に一悶着起こす気はないらしい
かの街の有力者の娘は別だったが…


彼との二人旅が始まると
早速はじまった
視線攻撃…?

東大陸へ向かう船を待つ港町で
かなり積極的な女性をがん無視したイザークとお宿へ入った

彼にとったらあまりにも日常茶飯事で
気にもしていないようだったけど…

夕食を食べながら
ふとある疑問が頭によぎった…



「何を考えている、ノリコ
 相当ガードが固いようだが…」

イザークがテーブルの向こうから話しかけてきた

あたし達はお互いの心に語りかけることが出来る
近頃ではお互いの思いもその気になれば、読めるようになっている
そして相手に読まれないように注意することも、出来るようになっていた

「あのね、イザーク…」
少し俯き加減で、ノリコは言う

気になることはちゃんと訊いておいたほうがいい
覚悟を決めて…


「イザークって……あたしが初めてじゃないよね」


質問の意図がわかるまで、ほんの数秒かかったが
イザークは思わずむせて
慌てて水を飲む

それから
驚いたようにノリコを見た

まいったな…
いったい何を考えている


「だってちゃんと訊かないで
 いつも気にしてるのは嫌」

「あたしは、知りたいイザークのこと」
すべてを・・・
上目遣いでイザークを見ながらノリコは言う


なるほど、それで勇気を出したというわけか
ならば答えてやらなくてはいかんな


イザークは視線を少しそらすと、こほんと咳払いし

「まあ…、はじめてではなかったと言えるが…」
と言った


ノリコは声を落として
「でもあの時、驚いていたよね…」

あたしの身体に自分がつけた刻印に
戸惑っていた彼を思い出す

「あ、あれは…」
すこし赤くなり
ふと周りを見渡して、イザークは言う

「ノリコ、話の続きは後で…」

それ以上は何も言わず、黙って食事を続けた





食事を終えて部屋に戻る
扉を閉めて鍵をかけた途端
イザークがノリコを抱きしめた


ノリコの顎を指で上げ口づけようとするが

「だめっ」
そこに怒ったような彼女の顔があった
珍しく眉尻が上がってる


「イザーク、ごまかそうとしてるでしょ
 後で話してくれるって言ったよ」


ふっとため息をつくと
イザークが言った

「わかった、正直に言う」


そのままノリコを抱えてベッドに横たえる
剣をはずし上衣を脱ぐと
ノリコの横に片膝を立てて 座った


「何度か、女を抱いたことがある
 顔も覚えていないが…
 おまえと会う以前のことだ」


やっぱり…ちょっとショックだなあ
でもあたしと会う前のことなら…

「買ったの、そのヒトたちを?」

「金を払った覚えはないな…」

そうだろな、イザークだったら
放っておいても女の人が寄ってくるもの…




イザークは立てた膝に顎をのせ
過去の自分に思いを馳せた

いつも不安と恐れでいっぱいで
自分をささえるだけで精一杯だったあの頃を…

声をかけてきた女たちについていった
あの時のおれは
彼女等にいったい何を求めていたのだろうか
人肌が恋しかったのか
女を抱けばなにかが癒されるとでも思ったのか

終わった後はいつも
後悔と嫌悪感で
いたたまれなかった


だが今は…

隣に横たわる愛おしい存在に目をやる
彼女は天井をみつめ、なにか一生懸命考えているようだ
そんな姿も愛らしく
ふっと微笑んでしまう
昔のおれには決してなかった感情…



「でも…イザーク」

「ん、なんだ」

「だったらなぜ、あの時あんなに驚いたの?」

最初の夜、後であたしの身体を見て
驚いていたっけ

「ノリコ」
イザークはノリコの方へ半身を乗り出すと
彼女のほほを愛おしげになでる

そしてノリコの服のボタンをひとつづつはずし始めた

「他の女達とおまえを比べることなど、おれには出来ん…」

彼女の服の前をひらくと
「こうして…」

むき出しになった胸元に何度もキスを落とす
「何もかも、そのすべてが欲しい…と
 思ったのは、おまえだけだ」

「その人達には…
 こういうことはしなかったの」
熱くなった身体を持て余してノリコが喘ぐように言う


「覚えてなどいない…したかもしれんが
 いつも すぐに去っていたから」
結果など知らん…

胸の頂点を舌で遊ばれて
ノリコは我を失った








まだ熱い余韻を残す身体を
イザークの傍らに横たえ
イザークの肩に頭をのせて、ノリコは聞いた

「イザークは
 今まで好きになったヒトはいなかった?」

まだ続くのか…
今日のノリコは今まで訊きたくても訊けなかったことを
徹底して訊こうと決心したらしい

けれどイザークはノリコの問いを
「くだらんこと」と安易に退けるつもりはなかった
おれだって知りたい…ノリコのすべてを

質問をはぐらかされれば
いい気持ちなどしないだろう



「いない」
イザークが 簡単に答えた

「だったら、なぜあたしのこと、好きになったのかなぁ…」

「『目覚め』だったからだろう」

あっさりと彼が言う

ちょっと傷ついた顔をしたノリコに
イザークは言葉を重ねる

「ノリコ、おれは 女たちとその場限りの関係を 持ったが
 それ以外女だろうが男だろうが、他人と一切の関わりを持たなかった」

「まあ、ガーヤは別だが」
あれにはまいったけどな…

「だが、おまえが『目覚め』としておれの前に現れた時から
おまえと関わらずにいることは出来なかった」

「『目覚め』を他の誰にも渡すことなどできん
少なくともおまえが言葉を覚え、自分の立場を認識するまで
おまえを傍に置いておかなければならなかった…」


遠い目をしてイザークが続ける
あの頃のことを思い出しているのだろう


「そうしておまえと過ごしている間
 おれはおまえに魅かれ、好きになっていたんだ」

それをどうしても、おまえに伝えることが出来ずに
随分おまえには辛い思いをさせたが


「だったら…『目覚め』で現れたのが
 もっときれいな人だったら良かったのにね」


「だって、いつも連れ歩く人がもっときれいな方が…」
イザークも良かったよね、とノリコが言う

ずっと心にひっかかっていた事を、言ってしまった

イザークを煩わせる女達も
彼の傍にいる人が、ふさわしい女性だったら寄って来ないんだろうと
いつも思っていた


なにをバカなことを…と、咎めたところで意味はなさそうだった
ノリコはバカなことを言っていると充分承知で
あえて聞いているのだ



「おれには、ノリコが誰よりもきれいに見えるが…」

「え…?」
ポンッとノリコが赤くなる

そんなノリコを見て、イザークはくっと笑う

「あーーーっっ、またイザーックってば」

はっ、と笑ってイザークは
ノリコの頭をぐいっと胸元まで引き寄せて 囁いた


「嘘じゃない…」

トクン…

「おれは…おまえがいいんだ、ノリコ」


トクン…


イザークの鼓動が聞こえる


「一緒に歩くのも、一緒に飯を食ったり
 こうして一緒に寝るのも…」


トクン


「他の誰でもなく……おまえでなくてはいやなんだ」



今まで思い悩んでいたのが嘘のように
すうっとノリコの心が軽くなった








「寝たか…」


ノリコの寝顔にそっとキスして
イザークも目を閉じる




NEXT
Topにもどる


Copyright © 2008 彼方から 幸せ通信 All rights reserved.
by 彼方から 幸せ通信