One More Story 12







「ジェイダさんもすみにおけないね」
ゼーナがからかうように言う

「左大公どのともなると、気の遣い方も段ちげえだな」
バラゴも感心する

「いやあ、さすがにジェイダ殿ですな」
アゴルも同調する


ジェイダは困って
「いや…別にそういうわけではなく…」



妻子を迎えにイザークとノリコをやったジェイダの依頼は
仲のいい二人を、少しだけ二人きりにさせてあげようという
彼の配慮だと
周りのものは当然のように受け止めていた


「二人きりで船旅なんて、ロマンチックですわ」
「ホント、邪魔するものはなにもない、二人っきりの空間ですもの」
アニタとロッテニーナも想像してうっとりとする

「けど、あの二人だって追われてる身じゃないか」
面白くなさげにバーナダムがつぶやく

「イザークだったら大丈夫だろ」
「どんな追っ手もあっという間に蹴散らしちまうからな」
ジェイダの息子二人は、
100人の兵をあっという間に制覇したイザークを目の当たりにしていたので
こともなげにいう

「今頃、どうしているんだろうかね…あの二人」


そんな和やかな夕べを過ごした一行であったが
翌朝、思いもかけないことが起こった

ゼーナが…ジーナも同様に
恐ろしい予感とともに占ったのだ


元凶は動き出した…と






今日のお昼には港に着く
船の中で迎えた朝だった

昨夜からイザークの様子が変で
気になっていたノリコだった

何か話しても上の空でしか返事が返って来ない
視線すら合わせまいとするように
どこかを見ている

まるで心を閉ざしていた頃のイザークの様で
ノリコは不安だった


「どうして、何も言ってくれないの…」

ベッドの上で、物憂げに起き上がるイザークにノリコは訊いた

「何かあたしに隠しているよね」

イザークは視線をそらして答えようとしない


「やっぱり、信用されていないんだな…あたし」
寂しげにつぶやくノリコの肩を
イザークは激しく引き寄せると
その胸に抱いて

「そうじゃない…」
ぼそっと囁いた


ただの予感だ…何の根拠もなく
ただ嫌な予感がするという、それだけのことで
ノリコを不安にしたくなかった

けれどだめだなおれは
結局は態度に出してしまって
彼女を悩ませてしまった

しかし

なんだ、これは
何かがおれたちに向かって迫ってくる
巨大な得体の知れない黒い影が
このしめつかれるような不安感は何だ…


ノリコが不安そうに震えている

いかん、気をしっかり持て

ぎゅっとノリコを抱きしめる



イザーク達は、アイビスクの目的の村が
その方が近いので、リェンカの港へ向かう船に乗った

そうして、知らずに近づいていってしまった二人の気配を
リェンカの占い師ゴーリヤに気づかれてしまったのだ



港町で馬を調達すると
二人は目的地に向かう


町から離れてしばらく経った時
いきなり目の前の空がひずんで

そいつが現れた








凄まじい傷を負ったイザークが
あたしの前に横たわっていた


もう2度とこうやって一緒になれないんじゃないかと、思った
ドロスさんとチモ、イルクと白霧の森のみんなの力を借りて


あたし達はあそこから逃げ出せた


あたしには何の力もない
いつも誰かに頼ってばかりで
それがひどく悔しかった


けれどあれほどひどい傷を負ったイザークが
ゆっくりとだけれど回復していく様子に
ほっとする

よかった、彼が死なないでいてくれて
よかった、彼が天上鬼で

重い運命すら
今は感謝出来る



けれども、荷物はすべてなくし
あたし達はまったくお金も何もまるでもっていなかった







「そう言われてもねえ…」
アレフは顎に手をやり、困ったように言う





店じまいしようと思っていた時に
いきなりその男は現れた

大きな身体だが、すこし愚鈍そうに見えるそいつが言うには

おれたちに会いたいという二人連れがいると
だが、強盗に襲われ荷物は全て盗られ
服はぼろぼろだと…

会いに来たくても来れないということで
たった一個の金と剣の鞘を差し出す

グローシアもアレフもその話に戸惑った
そんな間抜けな奴らが
おれたちの追っ手ではないと思うが

なぜおれたちに会いたがる?
いったいどんな用なんだ

たまたま旅の途中で一緒になった二人だということで
その男はあまり詳しいことを知っていないようだ


「あら、大変ね」
ニアナが気軽に言った

「あなた達の服を貸して上げればいいじゃないの」

その男が言うには、たぶんグローシアとおれの服で
サイズは大丈夫だということだった



しばらくして
その二人がやって来た…


最初に来た男は
動物の飼育が得意だというので
村の牧場に行ってもらった

三人も泊める程、余裕のあるうちではなかった
客を泊められる部屋は一人部屋しかなかったが
構わないというので、二人を泊めることになった

その二人連れは、若いカップルだった
10代…男の方はやっと二十歳かという年齢だ

職業は渡り戦士だというそのイザークという男は
剣など振り回すにはいささか細身で
その容姿はめったに見られないほど整っている

彼は身体に傷を負っているようには見えなかったが
ひどく弱っていた
強盗相手にどんな痛手を負ったんだろうか

強盗だと…そんなものがこの辺りで出るとは聞いたことがない

女の子はノリコといった
グローシアと同じ年頃だろうか
男の方の無愛想を補うかのようにニコニコしている
こっちの心まで癒してしまいそうな笑顔だ

悪い人間ではないのはわかる…

だが…

本人達の言い分は
ニアナとグローシアをドニヤ国のエンナマルナという町へ連れてくるように
ジェイダ左大公に頼まれたということだが
おれたちの居場所は占者が占ったそうだ

何故この二人を送ったのか
左大公の意向がまったく汲めない

女連れの渡り戦士…?

左大公は手紙を託したそうだが
それすらもこの二人は無くしていた

何を信じろというのだ、おれに…


ニアナは、二人から夫と息子達の近況を聞いて
すでに旅立つつもり満々だった

グローシアはまだ躊躇している
期待半分、疑惑半分というところだろうか

アレフは途方にくれていた

男の方の具合が悪そうなので
取り敢えずもう休もうということになった

話は明日また、と


ノリコという娘が、具合の悪い彼に肩を貸して
寝室の中に消えた
おれはそのドアを見つめ
これが何を意味するのか考え込む

信じろと言われても無理な話なのだが
逆にだからそれが信用できるような気になる

考えれば考える程、わけがわからない

これではいつまでたっても結論など出やしないな…
続きは明日にした方が良さそうだ

ため息をついてアレフは寝室へ向かった







あの恐ろしい人が追って来た
イザークは身体中を突き抜かれ
あたしはイザークのもとへ行きたいのに
何本もの手に捕まれ前へ進めない

はっと目を覚ます
よかった、夢だった

イザークの胸の中だったのでほっとした

でも

「どうした」
心配そうに彼が聞く

何でもないと言って目を閉じる
あの人達の姿が次々と浮かんで来た

まだ何も終わっちゃいない…
いつかまたやってくるんだ



イザークはノリコの身体に布団をかけ直すと
彼女の頭にキスを落とし、そっと抱きしめた


おれはノリコを護れなかった…
苦い思いをかみしめる

だがあれの正体さえ攫めれば
次は絶対に…


翌朝、イザークはまだ本調子ではなさそうだった
当たり前だ、前日あんな目に会ったんだから

こうやって起きてこれるだけでも
すごいことなんだ…

それなのに心配そうなあたしをみて
彼は微笑んで言う
「心配をかけてすまん…もう大丈夫だ」

「 イザーク、つらかったらちゃんと言ってよ」
ほっとくと際限なく無理しちゃうひとだから


朝食の席で、アレフさんは相変わらず不審そうな視線をよこす
彼の立場としては仕様がないんだろうけど…

でもグローシアが話し出した

「あたしだって、不審に思うわ。アレフ」

「でも…このところどんどん起こる異変…
 あたし達もじっとしている時じゃない気がするの」

「だから…この人達と一緒に行くことに賭けてみましょうよ」

グローシアは多分あたしと同い年くらいなんだろうけど
随分と意志が強いように思えた

思わずあたしはくすっと笑ってしまった

怪訝そうにあたしを見るグローシアとアレフに

「ごめんなさい、笑ってしまって…
 だって…グローシアったら、お兄さんたちよりか
 よっぽどしっかりしているんだもの…」

人はいいんだけど、ちょっと頼りない兄弟を思い浮かべた


それを聞いて…

「アレフ…この人達、信用してもいいんじゃない?」

「ええ、そうですね…」














イザークの調子が悪いので、今回甘々な場面はありません
途中抜けている部分は、原作と同じ展開です
相変わらず手抜きで、すみません




NEXT

One More Story
Topにもどる


Copyright © 2008 彼方から 幸せ通信 All rights reserved.
by 彼方から 幸せ通信