One More Story 13







ロンタルナとコーリキの兄弟は
小さい頃から左大公の息子としての教育を受けて来たので
表向きにはそれなりの対応が出来る

あのグゼナの大臣たちが匿われた館に行った時も
イザークの不機嫌さに怯えながら
館の人間に対しては堂々と振る舞っていた

「ご立派なご子息をお持ちで…」
ジェイダはそう言われることが多い

ほんとはお人好しで気が弱い所があるのを知っているのは
ごく内輪な人達だけだった

だから、さっきのノリコの言葉は
彼女が兄弟たちと、とても親しいことの証明になったようだ



グローシアの決心は固まり、アレフももうそれに従うしかなくなった



「あ…そうだ」
ノリコが突然思い出したように言う

「ジェイダさんが、アレフに伝えて欲しいと…」

「?」

「『あんまり楽しむな』ですって」


「なんですか、それは?」


「さあ」





店の在庫の処分、旅の準備…
たぶん一週間から10日はかかるとアレフが言う

その間ドロスは今のまま牧場で働くことにする

ノリコとイザークは、アレフたちを手伝うことになった

彼らも本名は名乗りたくないと言って
ジーナとカイザックということにした


けれどもまだ本調子でないイザークが
倉庫の整理をしている途中で倒れてしまった

彼をベッドまで連れて行って戻って来たノリコにアレフが聞いた

「身体、けがしてないよね…
 どうしてあんなに弱ってるのかな?」

「あ…あの病み上がりなんです…」
と言って赤くなってうつむく

病み上がりで調子が悪いから強盗との戦いに敗れたのか

なんか取って付けたような説明に
判然としないアレフだったが

それ以上ノリコを責めるのも気の毒だったので
黙っていた




ノリコは誰に対しても明るく優しく応対する
店を訪れる村人たちはそんな彼女を
すぐに気に入ってしまった

「いい子が入ったな、ロキ」

みな口を揃えて褒める


店を閉めると話すと、誰もが残念がった


野菜を届けに来たエワンなどは、ノリコが気に入ったらしく
なかなか帰ろうとしない


「こらこらエワンくん
 彼女にはもうちゃんと彼氏がいるんだから…」

「どこにいるんだよ、そいつは」

今体調が悪くて寝ていると言ったら

はっと笑う
「そんな情けないやつ…」





その夜…
慣れない仕事で疲れたノリコが
ベッドの上に崩れ落ちるように眠ってしまった

イザークはそんな彼女ベッドに横たえ
そっとお休みのキスをした






「いったい、彼は何をしているんですか」


翌日の午後、町から戻ったアレフが呆れたように言った



今朝、イザークは体調が回復したと言っていた
昨日遅れた分は今日取り戻すなどと大口を叩いて…


在庫を全部売り払いたかったので
倉庫の奥に仕舞われたものを表に出すよう頼んでから
アレフは町に出かけたのだった
2・3日かければ、その仕事はどうにかなるかと思っていた




それなのに帰ってみると、イザークは
店で接客しているノリコの後ろで腕を組み
仁王立ちして 客たちを睨みつけている…


客たちは一様に怯えたようにこそこそと買い物して
帰っていく



「それがねぇ…」
ニアナが声を潜めてアレフに話した


今日もエワンがやって来て
ノリコに花束を渡すと、その手を握って
店が閉まったら一緒に町に行かないかと誘ったそうだ

ノリコが困っておたおたしていると…


「ジーナにさわるな」
いつのまにかイザークがそこにいた



「お…おめえ…」


「ジーナから手をはなせ」



「すっごい殺気でね…」
ニアナが言う
「さすがのエワンも何も言えずに帰っていったのだけど…」



それ以来ああしてノリコを見張っているのだという


「じゃあ、おれが頼んだ仕事は…」


倉庫を見て驚いた


奥に仕舞われていたものは皆きれいに表に並べられていた

  





「ねぇ、きみ…」

アレフがにこりと笑ってイザークに言った

「そうしてるとさ…
 ノリコがせっかく愛想売ってるのに台無しだよ…」



「愛想など売っていない…」
憮然としてイザークが アレフを睨むと言った


「ノリコはノリコ、そのままでいるだけだ」


「だからおれは…
 妙な誤解を抱く奴らを、追い払ってる」


イザークは真顔で言った


はぁっ、とアレフはため息をついた


なんだかやっかいな奴だな


どうしてジェイダ様はこいつを送って来たんだ…










「ノリコ…」

おれが昨日一日寝ていた間に
おまえはいったい何をしていたのだ、と

夜、二人きりになった時に
イザークはノリコに問いただす

あんな奴に笑いかけて、つけこまれて…


「もうイザークってば」
ノリコが笑う

そんなんじゃ、ないんだよ
だってお客さんだもの…


「買ってもらえるんだから
 感謝するのは当たり前でしょ」


「では、手を握られるのも当たり前なのか」


「あの時はあたしも困っちゃったけど…
 イザークのおかげで助かった」


「ありがとう、イザーク」





笑顔のノリコを抱き寄せる
誰にもわたすものか
ノリコは…おれのものだ



「だ…だめ、イザーク」

あまり厚くない壁の両端に
グローシアとアレフの部屋があった




いつからか…

ノリコはとても感じやすくなっていて
おれのひとつひとつの行為に
ひどく反応するようになった

押さえきれないように声を上げる

自分でもそれに気づいているのか

すぐ隣の部屋に誰かがいるときは
恥ずかしがっておれを拒む

けれどおれはそんなことは構わず
ノリコを思うままに押し抱いていった

声を立てないように布団の端を噛み締める
そんなノリコの姿に逆にそそられて
おれは激しく攻め立てる



誰にもおまえをわたさない






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