One More Story 14









「悪いが、断る」

イザークはにべなく言った



アレフは村だけでは限度があるので
町まで在庫の農具や台所製品
布などを持っていって売りさばこうと思い
一緒に来て荷の上げ下ろしなどを
手伝ってくれるようにイザークに頼んだ

けれど御者席には二人しか座れない
荷台は荷物で一杯だから
ノリコは一緒に来られない
と言った途端、まったく躊躇なくイザークは断った


「ただで部屋を貸してあげてるじゃない、食事だって…
 そのくらい手伝ってくれても、ばちは当たらないよ」

アレフは頼む

「たった一日か二日だ、それともなにか
 きみはノリコの姿が見えないと不安にでもなるのか…」

図星だった

おれがいない間に、あいつらがやって来たら…

絶対にだめだ、ノリコを置いていくなど

第一おれたちが離れたら
イルクだって結界を二人にはるのは無理だろう…



頑として首をたてにふらないイザークに
アレフは声を落として耳元で囁いた

「おれだって結構我慢してあげてるんだよ…
 夜にさ…」

はっとイザークが慌てた隙をついて


「心配しなくていい…グローシアは気づいていない」

だから…

「協力してよ」
にこりと笑ってポンとイザークの肩をたたいた




結局、御者席でノリコを膝にのせていくことで
イザークは同意した




くっとアレフは笑う


イザーク自身はクールで無愛想な奴なんだが
女なんぞ不自由しないような容貌のくせに
ノリコのことになるとひどくムキになる

どれほど惚れているんだ…


彼女以外のことは考えられないような
あいつの言動がおもしろい

さっきだって
ちょっとかまをかけただけなのに…
赤くなってうろたえていた


ジェイダ様、申し訳ありませんが…


しばらくは楽しませてもらいますよ







おれは構わんが…
嫌がるノリコを無理矢理抱いた
あれほど声を立てないように耐えていたノリコを思うと

イザークは後ろめたくてたまらなかった








「すみませんね、わざわざ一緒にきてもらって…」

イザークの膝にちょこんと腰掛けているノリコにアレフが言った

「えっ、いえ…あたしたちこそ、なんか我がまま言って」


にこっと笑うノリコに
アレフの胸がちくっと痛んだ
イザークに手伝って欲しかったとはいえ
この子をだしにしてしまった…




アレフさん、変に思ってるだろうか
あたし達べったりくっついて
でもそうしないと結界が解かれてしまう
そうしたらあの人達がまた来る


それに…
顔を上げてイザークを見た

こうしてイザークの傍にいると、安心出来る
無理矢理離された時
もう二度と会えないのかと思ったら
とても恐ろしかった

絶対そばにいる

あの日の誓いはあたしの願い
あたしの心そのもの…

彼の胸にもたれかかる

大好きだよ…イザーク

あたしを離さないで


ノリコを支えるイザークの腕に
ギュッと力がこもった





アレフは 二人を見た

ノリコはイザークに身体を預けて
うっとりと目を閉じている
イザークの顔が少し赤くなっている



なんだかわからんが、この二人

不思議な 結びつきがあるような気がする…



おれの想像を超えるような…





町についていつもの場所に店を出す


農具を荷車からおろして
店に並べているイザークに

「ねぇ、それ…見せてくださらない」
甘い声がからんだ


どう見ても農具とは縁のなさそうな女が言う

「いっぱいあるのね…」

イザーク にすり寄って

「どれがいいのかしら…」



イザークは黙って一本の鍬を
彼女が密着させようとする身体の間に
差し出した

「あ…あら、おいくら?」

アレフが代わって言った
「50ゾルですよ…」(実はもっと安い値段だったが…)


「後で届けて下さる?」
とろんとした眼差しで女が言った

「もちろんです、彼に届けさせますよ」


お金と住所を置いて、彼女は消えた



その後も…


農具を買いたがる女が次から次へと現れる
イザークは 彼女たちを無視するので
アレフがいちいち口を出さねばならなかったが

女たちはなんだかんだと言いながら
イザークに触れたり、身体を寄せていく


ノリコはそんなイザークを黙って見ていた


もう慣れている
そんなことは…

でもやはり落ち込む気持ちは抑えられない






ふわっと、優しく後ろから抱かれた


「えっ」

と思う間もなく、イザークの吐息が耳にかかる




「おれを拒むな、ノリコ…」


…なぜ心を閉ざす…


さっきから妬いている気持ちを知られたくなくて
かたくなに読まれないようにしていた




うっとおしい女どもにまとわりつかれ
いい加減頭に来ていたイザークは、ふと
ノリコの思念が閉ざされているのに気づいた


ノリコを見ると
台所用品など、こまごまとしたものを並べた屋台の所に立って
うつむいて…顔が見られない


あの港町で、執拗にノリコに問われた時
はっきり言ったはずだったが

それでもまだ彼女は
女たちに取り囲まれるおれに不審を抱くのか…


だがおれも…



ノリコの気持ちを疑ったことはないが

男に言い寄られている姿を見て
どうしようもない怒りが押し寄せて来た


お互い様か…
くっと笑うと
ノリコのもとへ行ってその身体を抱きしめる






イザークは彼女の身体をくるっとまわすと
その唇をとらえた


恥ずかしくて
もがくノリコをその腕に抱きしめて、離そうとしない

はぁっと、アレフはため息をついた






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