One More Story 16





商品のほとんどは捌けた


女たちだけではなく
町の人たちも噂を聞いて集まってきた

「へぇー、この男前の兄ちゃんがねェ」
「人は見かけによらないな」

「あいつ、手下ども全員やられて…もうだめだろな」
「ありがとよっ、ホントにひどい目にあってきたんだぜ、おれたち」

そしてお礼のつもりで、何かしら買っていってくれたのだ


イザークにしてみれば
ただノリコを嘲笑った奴らが許せなかっただけなのだが

いつのまにか町の英雄にされていた






帰りの荷車はほとんど空だったので
ノリコとイザークはそこに座っている
スペースは充分広いのに
相変わらずイザークはノリコをその腕から離そうとしない
ノリコは疲れたのか、イザークの胸でうとうとしている



何か事情があるんだろうな

アレフは今ほぼ確信していた

ただ愛し合っているだけのカップルとは思えない


ノリコは女たちに囲まれているイザークを時々切なげに見ていた
あそこまで惚れられていて実感がないのだろうか

そしてイザークはそんなノリコに気づくと
飛んでいってその腕に抱きしめる


心配するな、とでも言うように





そういえば向かいの菓子屋のおかみに聞かれたな

「あの二人、いったいどんな関係なんだい?」

「なんでも渡り戦士と島の娘らしいですよ
 娘が移民の家族を亡くして途方に暮れていたのを
 彼が助けたということです」


「それは違うね」
あの彼のつくしっぷり…

おかみはうーんと考えて

「例えば…駆け落ちした王女と騎士とか…」

その方がしっくりいくよ、と笑った



慧眼である
そんな事情があってもまったく不思議でないような
二人だった


イザークは片時もノリコから離れない
ノリコをおいて、町へ来る事をかたくなに拒んでいた
過保護を超えている


追われているのは事実だろう
だから名前を変えているのだ
自分の留守に追っ手が来るのを恐れているのか



それにしても…

村にやってきた時は
強盗に襲われたなどと言って、ふらふらで
その細っこい身体つきから見ても
剣なぞふりまわして戦う事が出来るとは信じられなかったが

なんて強さだ

顔役は金にあかして、すごく強い奴らを集めていた

おれだって武人としていくらかの自負はある
けれどあいつらに向かって行く気にはなれなかった

それなのに、あっという間にやっつけやがった
しかもかなり余裕で…

こいつが剣を持って
本気で戦ったら、どれだけ強いんだ


最初は女連れの渡り戦士を
奥様とお嬢様の警護に送ってきた
左大公の意図が全くわからなかったが

今は理解出来る

イザークは強い、普通の強さではない
イザークが 警護にあたれば
おふたりの身は安全だ
おれなどお役御免だろう

そして彼は、決してノリコから離れない
ノリコがついて来なければ
彼は決してこの依頼を受けなかった
それはもう充分確信できる



ナーダの城から捕われたジェイダ様一行を
すごい戦士が現れて救ったと
風の噂で聞いた

その時は
巨大な体躯を持つ威風堂々たる戦士を想像したが

たぶんそれは彼なんだろうな




くすっとアレフは笑った

剣など振り回すより
女をたぶらかしている方が似合う風貌なんだが

それでいて恐ろしく強い

そいつがノリコという娘に無条件降伏している

どんな事情があるか、おれにはわからんが


この先、まだまだ楽しめそうだ…








「ノリコ…寝たの」


「ああ」


「あ…あれ、冗談だから」


「?」


「おれ、寝付きいい方だし…」

我慢なんかしてないから…しれっとアレフが言った




背中にイザークの突き刺さるような視線を感じながら

あはは、と笑ってアレフは馬をすすめた


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