One More Story2







占者の館が音をたてて崩れていった…


バーナダムと
後から心配して駆けつけて来たバラゴとアゴルもそこにいた


もうもうと立ちこめる土煙にむせながら
こちらに向かってやってくるその姿に目を留める


ノリコを大切そうに両の腕にかかえ

今朝とはまったく違う

優しいまなざしでノリコをみつめるイザークの姿がそこにあった

イザークが3人を見る

ほんの数時前…

さらわれたノリコを助けるため

みんなの前で変身するしかなかったイザーク



天上鬼としての正体をさらすしか

ノリコはすくえなかった…



イザークには

恐れも躊躇もなかった

それ以外にはどうしようもなかった

ノリコが無事に戻って来てくれた

それが何よりだ


「みんな、来てくれたの?」
その時の状況を知らないノリコが屈託なく話かける


ボロボロの服をまとったイザークに

バーナダムが辛辣に

「ひでえ、かっこだ」

ベチン……

背中を叩いた

自分には到底できなかった…

自分にとっても大事な女性を救ってくれた

ライバルへの賞賛の表れだったのかもしれない

彼なりに…


冷たかった彼が今すぐ傍で

しっかりとあたしを見ててくれる

あたしは嬉しかった


だけど…

次の瞬間…

「誰だ!!」

イザークが叫ぶ…

タザシーナがそこにいた


「『天上鬼』と『目覚め』が
人の形をしていたなんて」


「ムキになったわね、そうやっぱりそうだったのね」
「イザークが『天上鬼』、ノリコが『目覚め』!!!」




えっ…なにそれ?

気がつくとノリコはタザシーナに腕をつかまれ

テレポーテーションで、 フッフッと皆から引き離されていっていた

イザークが慌てて後を追った


「お、おいっ、天上鬼と目覚めだと
 いってぇ、どういうことなんだ?」

「いや、まさかとは思っていたのだが…
 やはりそうだったとは…」

「ノリコは知らなかったんだな、きっと
 あいつ、それが原因で言い出せなかったんだ」

3人それぞれに、二人の負っている運命の重さに
思いを馳せた


「破壊の化物…それを目覚めさせる目覚め…」

ノリコを救う為にイザークが破壊し尽くした館の後を眺める

そういうことか…


「でもよ、ワーザロッテや親衛隊の連中もまだあん中なんだろ」

「誰も出て来なかったから、そうじゃないの」

「だったろよ、別に悪いことじゃないよなー」

ははっと、バラゴが笑う

「ゼーナに言わせれば、悪の巣窟だったんだからな、ここは」

「まあ、そういう見方もあるな」

なんか他の二人も納得した





このままじゃつれていかれる!!

タザシーナの肩の動物に気がついてそれをむしりとった

案の上、それ以上は飛べずに地面に転げ落ちた


「あんたが『目覚め』でなければ、殺してやるのに」


イザークが駆けつけてくる気配に

タザシーナは、もう一人良く知らない男の人と
急に消えた



「すまん、来るのが遅くなった」

なぜ謝るの、イザーク? 悪いのは、あたし

謝らなければいけないのは、あたしなのに…


「知らなかったの、自分が『目覚め』だってこと」

「イザークが、『天上鬼』だってこと」


何度謝ったて、償えない

あたしはいったいどれほどの負担をあなたに強いていたんだろう

どれほどの重荷をあなたに負わせていたんだろう




「もういい、もういいよ、イザーク」


「これ以上、あたしの犠牲にならないで…」


遠ざからなければ

彼から

あたしは彼に望まない運命をもたらす元凶

彼の優しさにこれ以上甘えてはいけない…


「行くなっ」

「あんたが、好きだ」

イザークがまたキスしてくれた

未来を変えられるかもしれない
『天上鬼』と『目覚め』の運命を変えられるかもしれない、と


「そばにいてくれ、ノリコ」

「おれと一緒にいてくれ」

「頼む」

イザークが跪いて、頭を下げて頼む

それは…あたしがずっと聞きたかった言葉だった
今それを言われるなんて…


でも…


あたしには何の力もない…
でも守りたいと思った、この人を

この命をかけて…


出会ってから長い月日の後
あたしたちは、ようやくお互いの心を通わすことができた




イザークはあたしを護るために
ずっとひとりで背負ってきた…
『天上鬼』と『目覚め』という運命を


これからは、二人でそれを分け合おう
たとえそれがどんなに苦しくても
あたしは大丈夫

傍にイザークがいてくれる限り…





「バラゴさんたち、待たせちゃったね…」

占者の館へ戻る道すがら
イザークに言った

「いや、たぶん彼らはもういないだろう…」
自嘲的にイザークが言った

これまでの人生で
天上鬼という正体を
うとまわれ、さけられてきた


ノリコだけでいい
そんなおれでも構わないといってくれた
ノリコだけで

充分だ…




けれども


彼らはそこで待っていた

「遅かったな〜」

「あんたのことだから
 あっというまにノリコを奪還すると思ってたんだぞ」

「ノリコを恐い目に会わせなかっただろうな?」


「!?」

想定外の事態に、イザークは驚く


「やっぱー、待っててくれたじゃない。イザーク」

ノリコが明るく叫んだ


「あはは、ひどい格好だぜ、あんた」

アゴルさんが上衣を脱いで、イザークに渡した


「ゼーナの家は危ないので
 皆ジェイダ左大公たちがいる農園の離れに移動した
 あそこの主は、今の政権には反発しているし
 なによりもゼーナの事を、恩人と慕っているから信用出来る
 あんたたちの荷物もあそこへ移しといたよ

 街を迂回して、そこまで行こう。」

「馬が3頭しかないな
 バーナダムはアゴルと一緒に乗れ」

「ちぇっ、アゴルとイザークって選択肢もあるんじゃねえ?」

バラゴとアゴルから冷たい視線を受けて
おとなしくバーナダムはアゴルの馬に乗る

なんだか、未だ状況が把握出来ないイザークは
黙ってアゴルの上衣をはおると
ノリコと馬に乗り

皆の後からついていった



そこは街の中心から、馬で30分程離れたところにある
静かな農園の離れだった

ジェイダさんと息子たち、ガーヤおばさんとゼーナさん、アニタ、ロッテニーナとジーナが、あたしたちを待っていた


「おや、戻って来たね」

「無事だったかい?ノリコ…よかったよ」


「ありがとう、皆さん…
 迷惑をかけてしまって、あたしのせいで」


「謝る事なんかないよ、あんたが、無事でなによりなんだから」

「やはりイザークが、今回も救い出したんだね」

「良かったね、お姉ちゃん」


イザークの凄ましい変身を目の当たりにした面々が
何気に今まで通りに接している


イザークはかなり戸惑っていた


「ひどい格好だねえ、イザーク
 とっとと着替えておいで」

ガーヤに促されて
荷物が置いてあるという、教えられた部屋に向かった

そこにはイザークの荷袋と
ノリコのかばんが置かれていた

動揺している自分を落ち着かせて

イザークは着替えた


「みんな …」


皆が集まっている居間に戻って、イザークが言った


「俺たちの正体はばれた。このままでは皆に迷惑がかかる
 これからはあんたたちと離れて二人で逃げようと…」



「水臭いこと言うんじゃないよ、イザーク」

ばしっと、ガーヤが遮る

事情はもうアゴル達から説明されていた


「そうだぜ、さんざんおめえに世話になっておきながらよぉ
 おめえが迷惑になるからって
 俺たちが邪見にするとでも思ってんのかよ」

悲しいぜ…とバラゴが嘆く


「まあまあ、今日の事はまだ冷静に考えられないでしょうから…」

ジェイダさんが言う

「しばらくここにいて
 それからから結論をくだしても良いと思いますよ」


ジェイダさんのその言葉で
あたしたちはしばらく様子をみることになった

簡単な食事をとって
それぞれの寝室にむかう

ここではあたしはイザークと同じ部屋だと
その時初めて知った


二人で旅していた時は
宿では同じ部屋だったし
野宿でも二人っきりだった

今更なんだけど
何故かとても恥ずかしかった


あたしが好きだと言ったあの時から
イザークに口づけされたあの夜から
二人っきりになるのは初めてだったから


部屋に入ってドアを閉めると

静かにイザークがあたしを抱きしめた


あの夜のイザークの唇の感触は
思い出すたび身体が熱くなる

彼はどんな思いでいたんだろう

「目覚め」のあたしから告白されて

そばにいてね、なんて甘えられて

きっと辛かっただろうな
苦しかったに違いない


あの時のイザークの戸惑いが痛いほど感じられた


あたしは彼の為にいったい何が出来るのだろう


そばにいる 何があっても、何がおこっても

絶対に

もうこの人から離れまいと

あらためて心に誓う



「今日は大変だったね
 身体はもう何ともないの?」


今朝、彼はあの発作を起こして動けなかったんだ

それなのに、無理してあたしを助けにきてくれたんだった


「ああ…もう大丈夫だ」

少しかすれた声でイザークが答える

「疲れちゃったよね。早く寝よ!」

なるべく明るく言って あたしは衝立の中で着替えると

ベッドに横になった


息をこらすような沈黙の後

イザークがいつのまにかあたしのベッドの傍らに来ていて 囁く


「いいかな…」


「うん…」



イザークがあたしの横にすべりこむ

抱きしめられて、あたしは彼の胸に頭を置いた



彼の鼓動が聞こえる

懐かしい、その音を聞いていて…

安心してしまって


あっという間に寝入ってしまったらしい



夢の中でイザークのため息が聞こえた













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