One More Story 4








どんどん…

誰かが部屋の扉を、ノックする


「…んっ」
眠っていたノリコのまぶたが
ゆっくりと開いていく



「!」

今の自分の状態に気づいたノリコは、焦って赤くなった


何も身に付けていない身体を
イザークにもたれさせて
眠ってしまったらしい…

「やだっ、あた…あた…あたし」
叫びそうになった口を
大きな手がそっとふさいだ

しっ、とイザークがいたずらっぽく笑う




「いないみたいだな…」

「イザークの奴、もう帰って来てもいい頃だが」

「出かけたんじゃないかい、二人でどこかに」

話し声が遠ざかって行った


夕食に呼びにきてくれたんだろな

いつのまに眠ってしまったんだろう

やっと寝ぼけた状態から
頭がすっきりしてきたと思ったら

先ほどの事が思い出され
どうしようもなく恥ずかしくて
イザークの顔がまともに見れない


「夕食、どうする…」

イザークが聞く


「あたし…、なんか恥ずかしくて」

今、皆と顔を合わせたら
あたしの事だから、どんなに頑張っても
丸わかりになってしまう…

それは、やっぱり恥ずかしい

「おれは、別に構わんが…」
しれっとイザークが言う

「イ、イザークはちゃんと食べて来て
 今日一日お仕事してきたんだし、お腹空いているでしょ」


一食ぬくぐらい、何ともないのだが
ノリコが気にするので
一人で食堂に下りて行った


「お、来たか。どこにいたんだ」

「ノリコは?」

「具合が悪いらしい…」

「病気かい?」

「さあ? 後で食事を持っていくつもりだが」

「いっしょにお昼を食べた時は、別に何ともなさそうだったけどなあ…」

そう云うバーナダムに、氷の視線を浴びせて
イザークはいつもの無表情で食べ始めた


「けどよ、さっき部屋にいなかったよな、おまえら」

「ノリコが欲しい物があるというので、店に行ってた」

「何を買ったの?」
無邪気に問い返す声がする

イザークとしても、出来れば仲間に嘘などつきたくない
本当の事を言えるのであれば、本望なのだが
ノリコがそれを望んでいないのであれば仕方あるまい

なるべく皆と視線をそらして、言う
「店の外で待たされたので・・・何を買ったかは知らん」


「でも、具合が悪いんだろ
 買いもんなんか、あんたが買ってきてやればいいことだろが」

納得のいかない約一名が突っ込んでくるが

「戻ってくる途中で気分が悪くなった
 だが横になっていれば大丈夫だと言っている」

イザークはそう言うと
これ以上は何も答えんぞ、とばかりに
ぷいと顔をそむける



「!」

その時…
ジーナを除くその場の女たちに、共通理解が発生した


「なんだよぉ、心配じゃないのかよ、医者とか…」

「バーナダム、いいかげんにおしっ!」
びしっとガーヤがバーナダムを、黙らせた

その勢いに、バーナダムだけでなくイザークまで吃驚する

「ノリコが大丈夫だと言うんだから、大丈夫なんだよ
 あんたが、どうこういうことじゃないよ

 それよりイザーク、あまり無理させないで
 明日の出発が無理そうなら、遠慮なく言っておくれ」

気遣ってガーヤが言う

「あ、ああ…」
当惑気味にイザークが答えた




「入るぞ…」

ノリコは夜着を着て、ベッドにちょこんと座っていた


「待ったか…腹が空いただろう?」

「ううん、大丈夫」
ニコッとノリコが笑う

食事のトレーを机に置くと
「はやく食えよ」


「うん」


けれど床につけた足がたよりない
力が入らず、ふらっと倒れかけたところを
イザークが抱きとめた

「ごめんなさい、ありがとう」

イザークは、そのままノリコを抱いて机に向かうと
椅子に腰掛ける
ノリコは彼の膝の上にのせられる格好になった

彼は食事を小さく切ると
フォークですくって、
ノリコの口に持っていった

抗議しようと開けた口の中に
それが押し込まれる

仕方がないので、よく噛んで呑み込むと
「イザーク、あたし自分で・・・」

二口目がまた押し込まれた

諦めて、彼に食べさせてもらった

「水…」とかろうじて伝えると
口移しで飲まされた


いつもは出された食事を全部食べきる事が出来なくて
イザークに心配されるノリコだったが

完食してしまった

「これからはこうやって食わせるか…」
イザークが笑った








「お風呂、まだ誰かいるかなあ」
ノリコがつぶやく

かなり夜もふけた時だった

風呂好きのノリコがなかなか風呂へ行くと言わないものだから
つきあってイザークも一緒に部屋にいた

怪訝な顔をするイザークに

「だって…」
と顔を赤らめる

さっき着替えた時に、
自分の身体中に記されたイザークの刻印に気づいてしまった

イザークも、自分の行為の結果が
そうなる事を知らなかったようだ

「すまん」
気まずそうに顔をふせて、イザークが言った



しばらくして、もう皆眠る頃だろうと思い
二人で風呂に向かった


廊下で、アニタとロッテニーナと会う

「ノリコ、大丈夫?」
「身体の調子はどう?」


「心配させて、ごめんなさい。大丈夫だから…」

「そ…それより、お風呂まだ誰かいる?」
少し赤くなってノリコが聞く


「あら、大丈夫よ
 あたしたちが最後だと思ってたから、もう誰も来ないわ」
「そうよノリコ、気にしないで
 鍵をかけちゃえば安心よ」
わけしり顔で、二人はノリコに言った

「あ、ありがと」
含んだものの言い方に気づかず、ノリコはお礼を言って、風呂へ向かう

イザークと別れて、女湯のドアをひらいた




トン、と軽く背中を押され
2・3歩前につんのめる

「!!」

焦って振り返ると


「もう誰も来ないのだろ…」
イザークが後ろ手でドアを閉めていた

「鍵をかければ」
かちりと、錠をおろす
「安心だ…」

そして服を脱ぎ始める



「どうした」

固まって動けないノリコを横目で見て
くっと口の端を上げて笑う


「脱がせてほしいのか?」











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