One More Story 6





深い森の一本道

馬を進めながら
ロンタルナとコーリキは
背後からひしひしと伝わってくる気配に

凍り付いていた…







かき集めた情報と
ゼーナの占いで
グゼナのエンリとカイノワの両大臣が
その街の有力者の別邸にいるらしいことがわかった

その有力者は、表向きは現政権にすり寄って
甘い汁を吸っているようだったが
古くからの知り合いである両大臣を匿っているらしい

もしくは監禁しているのか

詳細はわからないが
とにかくそこにいるのは確かなようだ


一行は熟考を重ねた末
匿われているものと判断し
ジェイダの書簡を持って
二人の息子がその館を訪ねる事になった

息子を行かせたのは
相手に対する敬意を示すため

だがその有力者が
噂通りの男だとしたら
息子達が危険になる
けれど多勢の警備は信用していないようで失礼だ

結論は最初から決まっていた
イザークが一緒に行く事になった


以前は暇な時にノリコを宿に残して
渡り戦士の仕事もしていた彼だったが
いつからか、それを辞めていた

片時もノリコの傍を離れまいとするかのように…
…いや、実際そうしていたのだけれど



自分が警備にあたると決まった時
彼はノリコを連れて行くつもりだったのだが
周りが必死で押し止めた

「もし何かがあった時、ノリコは足手まといになるだけだ
 おまえ、ノリコを危険な目に合わしたいのか」

「いや、だが…」

「あちらさんも困るだろ。何故そこにノリコがいるのか
 説明したってわかってもらえんぞ」

「だったら、おれは…」

「朝発てば、夕方には戻って来られる
そんなに長い時間というわけではない」

ジェイダまでが必死に説得を試みている
その身分にも関わらず思考に柔軟さがある彼だったが
さすがに女連れの警備というものはまずいと思ったらしい
けれどもやはり息子達の警備は彼にして欲しい…

「しかし、ノリコを一人で置いておくわけには…」

「一人じゃないっ、絶対おれが・・・」
と叫ぶバーナダムの口をがしっと抑え

「あたし達がついてるよ、まかせときな。一時だって目を離さないよ」
ガーヤが言った

結局、あたしはここに残るから…というノリコの一言で
渋々イザークは同意した






同意はしたが納得したわけではない

イザークは身体中から不機嫌なオーラを発して
前を行く二人の息子達を縮み上がらせていた




その館は街の東側にある森を突き抜けた丘の上に建っていた
街からはかなり距離があったが
重要な会談があったり
華やかな舞踏会が開催されたりするせいか
そこに続く道は、意外と整備されていた

朝食後に街の宿を発った3頭の馬は
その道を全速力で駆け抜けて行く

誰もが、少しでも早く宿に戻りたいと
心から願っていた



門番に訪問の意図を告げて手紙を渡した
しばらくして門が開き
その館の警備隊長だと名乗る人物が迎えた

「主がお待ちしております。どうぞ中へ」

じろっと警備隊長がイザークを見た

どうやら渡り戦士らしい…
ジェイダ左大公ともあろうものが
いくら追われる身だとしても
息子の警備にこんな輩を…

軍隊や警備隊など正規の職についている武人にとって
渡り戦士など軽蔑の対象でしかない存在だった
バーナダムも最初はそんな感情をイザークに持っていたのだが…

それにしても、なんだこいつは
不機嫌そうな仏頂面で
そっぽを向いている
礼儀などというものは、欠片も持ち合わせていないようだ

「ここからは、お二方の警備はこちらでする
あんたはここで待っていてくれ」
こんな奴を、館の奥に通すなど
考えるだけでもイヤだった


ふっとそいつが目をあわせる
「おれはジェイダ左大公から、二人の警備を依頼された」
真正面から警備隊長をにらむと
「無事に戻るまでは一時も目を離す事は出来ん、それがおれの仕事だ」

そいつの気迫に押されて
3人を奥へ案内してしまった



「いやあー、存じてますよ。ザーゴ国のジェイダ左大公
 何度かお会いしています。無事なようで何よりだ」

意外と人が良さそうな笑顔を浮かべて、
有力者が言う

建前上、この世の流れに同調する身の軽さはあるようだが
本来は正義感もある人のようだ

要領がいいのだろう
だが信用しても構わないだろう


「お手紙の内容は、後で両大臣と相談して回答致しましょう」

ジェイダの手紙には
グゼナにいたのでは、いつ追っ手がかかるかわからない
ひとまず一緒に隣国へ逃げようと、記してあった


「お昼は取られましたか?
 未だですか、それならばご招待させて下さい」



「あんたは別室で」
食えと言う警備隊長をじろっとにらんで

「おれはいらん」
とイザークは言う


食事している二人の背後で、 腕を組んで立つ

警備隊長は、向かいに座っている有力者の後ろに立っている

ちょうど二人はにらみ合っているかたちだ



あんたの顔をみててもつまらん
とでも言うように
プイとイザークが顔をそらせ、窓の外を見つめた

一瞬彼の気が緩んだかのように思えた
気のせいだろうか
警備隊長が怪訝に思う
だが彼の表情はみえない




『外に…出かけていたのか…』

『うふ、ちょっとお買い物に』

『何を買ったんだ』

『な・い・しょ…』



何を企んでいる…




招待されて断るのは失礼だからと 受けた
とにかく早く食べて、ここから…
味も判らずただ焦って食事していたロンタルナとコーリキだったが

イザークの気が緩んだのを敏感に感じて
大きく息を吐いた


「明日の朝までには、お返事出来ると思いますよ
 今夜は是非こちらでお寝みになって…」
と主がすすめるが


「む…無理です、これ以上!」
ロンタルナが叫んだ


吃驚している主に、頭をかいて謝りながら

「父が、心配して待っているので…」

今日はこのまま帰ると伝えた



「では、明日そちらまで知らせを遣いましょう。
 けれどジェイダ殿にはせっかくここにいらっしゃるのであれば
 是非おもてなしさせて頂きたい
 遣いとともにこちらに来て頂いて
 数日滞在してもらえるよう頼んで下さい」


主が言うのを
とにかく少しでも早くここから退散したいと思っている二人は
こくんこくんと頷き

やっと解放された




ゆっくり休養した馬をまた走らせ
3人は帰途についた


全速力で…











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