One More Story 7





一日何もしないで待っているのは辛いな…
と思っていたら、ガーヤおばさんが
お裁縫を教えるから、イザークに何か作ってやったら
と言ってくれた

女達ではしゃぎながら買い物に出かけ
布と糸を買った

バラゴさんやアゴルさんが付いてきてくれた
「あんたになんかあったらよ、殺っされるからおれたち」
あたしが気を遣わないように、笑い飛ばしてくれた


バーナダムはジェイダの警護をしなければいけないので、宿に残った
つまらなさそうにしながら本音は
イザークの為に買い物をするノリコを見なくて済むのでほっとしていた


宿に戻ってガーヤおばさんから手ほどきを受けていたら
イザークの声が聞こえた
なるべく心を読まれないよう
注意したんだけど、わかっちゃったかな…

手始めにバンダナを縫った
これなら、イザークが戻るまでには出来上がりそう

一針一針に思いを込めて…祈りを込めて


「どうしたんだい、ノリコ? 何かとても悲しそうだよ」

あまりにも切なげに針を運ぶノリコを見て、ガーヤが尋ねる

「やぶれちゃうんだよ…いつも」

わけが判らないという顔をガーヤがする



「イザークね、天上鬼になると…バンダナが…」

やぶれちゃうの…とうつむくノリコに
皆、息をのむ



ガーヤはぽんぽんとノリコの肩を叩いて
「それは、やぶれないさ。あんたの思いがこもってるんだから」
 大丈夫だよ、とガーヤが励ます


やっと始末がついた頃
ドアがどんどん叩かれバラゴさんが顔を出す

「帰って来たぜ…」




何も考えずに部屋を飛び出し
宿の玄関まで駆け下りて行った

愛しいその人の姿が見えた
ほんの数時間離れていただけなのに
何故こんなに嬉しいのかしら


ノリコの気配を感じ、イザークは振り向いた
階段を転げ落ちるように駆け下りてくるノリコの姿が見えた
よかった、無事だったか…


とびついてきたノリコを両腕で受け止める
たった数時間離れていただけだというのに…
何故こんなにも彼女の存在が
有り難いと思うのだろう…

何も言わずにぎゅっと抱きしめる






「これを…おまえが…?」

「えへっ、初めてだったんで…まだ縫い目とかきれいじゃないけど…」

部屋に戻って、バンダナをイザークに渡した

「でもそれを一生懸命縫っていたおかげで
 待っている時間が長く感じなかったよ」


「おれには長かったぞ、今日は」

「やだ、イザークってば…」
笑うノリコをぐっと抱き寄せると

「でも悪くないな…」
耳元で囁く

ふしぎそうな顔をするノリコに、いたずらっぽい微笑みをかえし

「たまに留守をするのも…
 そうしたらまた何か作ってもらえるのだろうか」

赤くなったノリコにキスを落として
イザークが言う


「ありがとう」







その晩の夕食には
新しいバンダナをつけたイザークの姿があった

皆事情を知っているので、
はやしたり、からかったり、いじけたり…

楽しい夕食だった…が


ロンタルナの今日の報告で
うーんと、また考え込んでしまった


この街の有力者は、どうしてもジェイダ左大公をもてなししたいらしい…

せっかくの申し出を断る理由もない

両大臣だけ寄越せと言うのもなんだ

外交術に長けたジェイダは、この申し出をうけるべきと
すでに結論をくだしていた

しかし

まだ不安は残る
滞在中にジェイダ左大公にもしもの事があってはならぬ

だが…

数日間と言ってたそうだ…


深いため息がその場を支配した

イザークを説得する言葉を誰もみつけられなかった…






「ああ、そうだ!」
長い沈黙の後、ゼーナが声をあげた

皆が彼女を見る

「両大臣にあたしは面識がある…というか
 当時はしょっちゅう国政のことなんかで相談されてね」

結構頼りにされてたんだよ…と笑う




「だからさ…
 あたしもジェイダ殿と一緒にそこへ行きたい、と
 言ってもおかしくないよね」

「二人に会いたいから…って」

それは全く自然な事だと、皆思った


「でさ、あたしが行くとなれば…
 身の回りを世話してくれる誰かが一緒じゃないとね」

こう見えてもあたしは一流の占者なんだよ…
と、ガーヤそっくりの高笑いをする


皆やっと合点がいった

ゼーナの侍女としてノリコが一緒に行けば
問題なんか何もない



「さすが、ゼーナ。だてに歳はとってませんね」

アゴルがほめたつもりで言って、ゼーナににらまれる



皆が心からほっとして
夕食の残りを味わった




「ほんと、あたし一緒にいっていいのかな?」

夕食後、部屋の戻ってノリコが言う

「何を言ってる。皆がそれがいいと言ってたではないか」

「んーー、なんだかすっごく気遣われた気がするんだけれど」

「気のせいだろ」



当の二人にはあまりその場の空気が読めていなかったようだ…




ジェイダさんが数日間招待されたって聞いた時
ノリコは、イザークも一緒に行くのかしらと、考えた
そんな長い事、イヤだなーと漠然に思った
けど仕様がないなあ…とも




ジェイダ左大公の招待の件を聞いた時
数日間だと…冗談じゃない
おれは絶対関わらん…と思っていたが

思わぬ展開に、イザークは異を唱えようもなかった

ノリコがいっしょであれば
なんの問題もない


ノリコがいっしょならば
おれはどこにだって行く…











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