One More Story 8



翌朝…
有力者の警備隊長が、何人かの隊員を引き連れて迎えにやってきた

「ジェイダ左大公殿、馬車を用意してあります。さあ、どうぞ」

だがジェイダは自分は馬で行くから、
馬車にはゼーナとノリコをのせて欲しいと言った

わけを話すと、彼は快諾して
「お噂は伺っています。とても立派な力のある占者殿とか…」


その馬車は立派なもので
屋根から厚い布が垂れ下がり
周りから中にいるものの姿が見られないようになっていた

だが、ゼーナは
「せっかくのお天気だし、この布は上げた方がいいねえ」
と垂れ布を上げさせた

いくら傍にいるといっても
ノリコの姿が見えないのではイザークが不本意なような
そんな気がしたので

ロンタルナとコーリキが、目をあわせ親指を上げる

今日はイザークの他、バーナダムも一緒に警備にあたる


一同は出発した
ノリコの乗った馬車の後ろに、イザークは馬を進めていた

「前もこんなことが、あったなぁ…」

「あの時は…初めてイザークに…その翌日で …」

昨夜の事が思い出されて
ふっと、 うつむいてしまった


初めて抱かれた時から
毎晩のようにイザークに求められる
それを決していやがらずに応えるノリコであったが…



昨夜は何かが違っていた

半日彼に置き去りにされて
寂しかったせいだろうか
不安だったせいかもしれない

彼に求められただけではない
気がついたら、あたしも彼を求めていた
あたしの身体がイザークを欲していた

あんな感覚は初めてだった
彼が触れる前から、触れて欲しいと願っていた
触れられるともっとと望んだ
そして…言ったんだ
「お願い…」

あたしの身体があたしのものではないように
激しく震えて
恥ずかしい程に感じていた

けれど今…思い出すだけであの感覚が蘇ってきて

あたしはまた…
彼が欲しいと……

ほんとうにあたしったら、どうしちゃったんだろう




『顔をあげてくれ、それではおまえの顔が見られん』

はっとして顔を上げると
イザークと目が合う

イザークは、唇の端を持ち上げて笑うと

『今夜が楽しみだな、ノリコ』

ポンっとノリコが真っ赤になる



(全く二人で何やってんだか…)
イザークはにやにやしているし、ノリコは真っ赤だ
ゼーナは呆れてため息をついた

アゴルが言うように、伊達に歳はとっていない
居心地が悪くなるようなことは今更ない


けどねぇ…
この二人の事は何故か放っておけない
他の皆もそう思ってるはずだ
この二人が幸せでいられるよう心を砕いてしまう

二人が「天上鬼」と「目覚め」と知ったあの日…

どれだけの苦しみを抱えて、それまでイザークが生きてきたのか
たった一人異世界から飛ばされたノリコを
どれほどの思いでイザークが護ってきたのか
そしてそんなイザークを慕いながらも、
受け入れられなかったノリコの気持ちがどれだけ切なかったか

まだ若い二人の運命の過酷さが悲しくて

けれども

初めて二人に会ったあの感覚を覚えている
イザークの内に潜む天上鬼が発する禍々しいエネルギーが
ノリコが現れると一瞬のうちに消え失せ
二人から光の束がほとばしった

あれは夢ではなかったと思う

長年占者として、いろいろな人生を覗いてきたが
こんな経験は初めてだった

だから 何の躊躇もなしに彼らを受け入れた

出来るだけこの二人を見守って行きたかった
出来るだけこの二人が幸せでいられるようにしてあげたかった


今二人が本当に幸せそうにしているのを
心から喜ぶゼーナだった


このままずっと、それが続けばいいと
心から思った



警備隊長は振り返って
昨日に比べて気味が悪いほど上機嫌なイザークを不審そうに見る
彼が今日も一緒に来てくれてほっとしていた
もし来なければ、一緒に来るよう頼まなければならなかったからだ

「まったく…」
よりによって何故あの男なんだ
見た目はいいかもしれないが、たかが渡り戦士じゃないか

ジェイダ左大公の二人の息子だって
みてくれはいいし、年齢だって変わらない
何よりも育ちが違う…

「女って奴は…」

有力者の一人娘が、昨日イザークにひとめぼれしていたのだった












NEXT
Topにもどる


Copyright © 2008 彼方から 幸せ通信 All rights reserved.
by 彼方から 幸せ通信