One More Story 9





一行は館に着き、主に歓迎され
奥に通された




あの方がいらしたわ…

娘の胸が躍った

美しい面差し
精悍な体躯
優美な物腰


うっとりと眺める

父が催す舞踏会などで
今までにたくさんの男の方に出会ったが
あんな素敵な人は見た事がない

昨日、帰りかけたあの方を偶然見かけて
一目で恋に落ちてしまった

今日、ジェイダ達を迎えに行くと言う警備隊長に
あの方も連れてきてくれるように頼んだ

警備隊長はすごくいやな顔したが
そんな事を気にする彼女ではなかった

一人娘で美しい彼女は
小さい頃から甘やかされて育ち
なんでも自分の思い通りにする事に慣れている

「お父様…」
主は驚いた
普段、こういう場は嫌いで
挨拶だけでも、と言っても聞き入れない娘が
自ら出てきたのだ

もちろん、娘は父親には
自分の想いは黙っていた


「娘です」
少し誇らしげに、主は客に彼女を紹介する

歳はノリコと同じ頃か…
少し傲慢な感じはするが、たいそう美しい娘だった
豪華な装いと装飾品がとても似合った

「とてもきれいなお嬢さんですね」
とジェイダが言う
ロンタルナとコーリキもちょっとぽっとなって眺める

だが
バーナダムは、その煌びやかさに少し引いていた
イザークにいたっては、まったく視界に入れていない


娘は少し焦っていた
あの方の為に今日は一段と時間をかけて装ったのに…
さっきから、ちらりとも目を合わせてくれない
私など、まるでここにいないかのように


彼の視線の先を追うと
一人の女の子がいた

有名な占い師と紹介された女傑のそばに佇んでいる
侍女かなんかだろう
少し異国風な顔立ちをしている
そこそこ可愛いと言えなくもない

彼女も彼の方を見るとにこっとした
視線が絡み合っている

そう…そういうこと
使用人は使用人同士で仲良くしているってわけね
でもあの方は渡り戦士と言えど
あなたなんかにはもったいなくてよ…

あの方にはもっと高い地位が似合う
それを私は差し上げられるの
私の言う事ならば、父は何でも聞いてくれる
どんな我がままでも

あの方にふさわしいのは、私
身の程を知るがいい…



奥の部屋へと一行は移動する
娘は故意に遅れて、 イザークの近くを歩いていた

「あっ」よろめく
イザークが腕をつかんで、倒れるのを防いだ

「まあ、ごめんなさい」
と顔をみて微笑んだが
「いや」
とだけ言うと視線を合わせようともしない

身分の違う者を無躾に見るのは失礼だと
思っていらっしゃるのかしら…

自分の容姿に相当自信のある娘は
イザークの無関心を
全く都合良くしか解釈出来なかった




『きれいな女性(ひと)だよねぇ』
ノリコが語りかける

『ん、そうか…』
イザークは興味なさそうに答えた



簡単な挨拶が交わされ
今後について話し合う事になった
バーナダムとイザークは警備の為にそこに残ったが
ノリコは、荷物でも解いてておくれと
あてられた寝室に向かった

廊下で声をかけられた


「そう、島からいらしたのね、少し顔立ちが違うと思った…」

簡単な自己紹介をして、娘は微笑む

「少し、お庭を散歩しない?」


意外と気さくなひとだなあ
身分も高くて、こんなに綺麗なのに
あたしに気軽に話しかけてくれて…


ノリコはとても嬉しかった


庭はとても広くて、奥まで行くとそのまま森につづいているようだった
木立の中を歩きながら、おしゃべりをした


娘が聞く
「ねえ、あの渡り戦士の方…」

「えっ」
いきなりイザークの話題になって
ノリコはどきっとする

「とても素敵な方よね。一緒に旅をしているの?」

「ええ、彼は皆の警備をしているんです」

「仲良くしてらっしゃるの…かしら?」


少し刺を含んだ口調に戸惑い
不思議そうにノリコは彼女を見た

それまでの温和な微笑みが嘘のように
凄い形相でにらまれる

「あなたなんか、彼にふさわしくない」
言葉の感じがガラリと変わっていた

「…」
青くなったノリコは後ろへ2・3歩下がる

すると…
がしっと後ろから肩をつかまれた
いきなり現れた男に、そのまま引き倒され
のしかかられる

「きゃー、いやだっ。イザーク!」
ノリコは叫ぶが、娘は笑って

「いっくらでも叫ぶといい…
 ここからでは誰にも聞こえないわよ」

「さあ、好きなようにいたぶってやりなさい…」
ほほほ、と笑いながら娘はその男に言う

男がノリコの服を引き裂いた



ザザザッッ

と音がして
娘が怪訝にその方向を見ると
こともあろうか、かの戦士が現れる

イザークは、ノリコにのしかかっている男をつかんで高く持ち上げると
地面に叩き付けた

男は気を失って倒れる

片胸が露になっているノリコを自分の上衣でつつむと
炎ですら凍り付くような表情で娘をにらんだ

娘は恐ろしくて一歩も動けない…


「どういうことだか、説明してもらおう…」


「あ、あなた、財産や地位は欲しくなくて?そしてこの私が…」
 なんとか自分を取り戻しながら、娘が言った

「私と結婚すれば、何でも手に入るわ
 あなたには、この娘はふさわしくない…島からの移民なんか…」


「…何故ノリコを襲わせた?」

「少しは身の程を知って貰うためよ、彼女にはいい薬になるわ」

イザークが押さえた口調で問うのを
誤解した娘が何気に言う


「ふ ざ け る なー」
イザークの怒りが炸裂する


娘の胸ぐらをつかんで、今にも殴りそうな彼を
やっと追いついたバーナダムや警備隊長が
必死で止める



数分前…

語らっている皆の後ろで
黙って腕を組んで窓辺に立っていたイザークが
突然はっとすると

「ノリコ!」
と叫び
窓から下に飛び降りた
かなり高い所にある窓だったが…

わけが分からず唖然とした他の面々だったが
気になって彼の後を追った





「やめろ!イザーク…相手は女だぞ!」

「おまえ、お嬢様になんてことを!」


娘から手を離し、二人の手を振り払ってイザークは周りを睨め付ける

「…女だから…身分の高い娘だから…」

「何をしても、許されるのか?」

静かに、問うような口調だったが…



誰も何も言えずに、イザークの怒りをひしひしと感じていた



しばらくしてイザークがジェイダに言った

「悪いが、今回の任務は下りさせてもらう
 これ以上ここに居たくない
 ノリコを連れて街に帰る…」


娘を殴る代わりに、彼に出来る最大の譲歩だった


だめだとは、誰にも言えなかった

ノリコを抱きかかえて、イザークはその場を去った



震えて立つ娘にバーナダムが言う
「あんた、運が良かったな…」

「もう少しで殺されていたんだぜ」


「な…なに言っているのよ」
気丈に娘が答える
「たかが、島の娘じゃないの…」

おれだって、こんなことは言いたくないんだ…でも

「ノリコはな、イザークに取って命よりも大事な存在なんだ」

もしイザークの来るのが少し遅れて…
ノリコに何かあったとしたら…

「あんただけじゃない…
 おれたち全員、あいつに殺られてただろな…」

 ノリコが生贄にされると知った時の
 イザークの凄絶な怒りを思い出す
 もしノリコに何かあったら…
 イザークの中の天上鬼が暴れ出したら…



驚く娘に

「冗談は言ってないぜ」

ふっと笑ってバーナダムはそこを立ち去った




結局、それ以上居ても気まずいだけだと判断して
皆も一緒に街へ帰ることになった

グゼナの両大臣も一緒に















ベタな展開ですね…w
でもこのパターン、一度書いてみたかったんです











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